想起

きみがその火を消した時
ぼくの今が始まった
きみが道を踏み出した時
ぼくの世界は変わった
誇張でもなんでもなく
それぞれの道ができたんだ

それは戻ることのできない
とても細い道だったんだ
ぼくはきみの歩いていく姿を
言葉もなく見送るしかなかった
比喩にもできないけれど
止めることさえできなかった

踏みしめるアスファルトに
降り始めた雨が香って
一人で歩いたきみを思う
とてもがんばっていたんだね
ぼくが知ることのできない
無間の時間の中で

こんなにも向き合っていたのに
ぼくらは背中合わせになった
行き先は同じではあるけれど
全く違う道を歩くことになった
そのことに傷ついたこともあり
同じ方にいこうと思った日もあった

きみがその火を消してから
ぼくは今を生きている
きみが望んだところで今も
ぼくはきみに向かっていく
誇張でもなんでもなく
それしかできないと知ったから

あの日泣き叫びながら見送った
ぼくを胸の中にしまい込んで
きみが歩いてきた雨の中を
同じように歩いていく
土の香りが立ち上る道の上
きみの見た世界を思いながら

(2024.3.11.4:51)