新盆によせて

白紋天をつるし灯りをともしたら
花はあなたの好きだった白いかすみ草を多めに
お気に入りの白檀の香を燻らせて
例年にも増して暑さが際立つ夏の空
いつも一緒だった部屋の静寂が耳につく

池に咲くハスにはカワセミが羽休め
あっという間に飛び去った小さい青色に
ふとあなたの人生を重ねてしまった
水面が乱れたのはハスのせいではなく

あなたの鼓動が空で響くようになり
私は毎日を生きることで精一杯だった
朝な夕なあなたの不在に打ちのめされ
私は息継ぎすらも苦痛だった

今や私も天上へと思っていた私に
机の中あなたが書き遺した手紙
「生きて ずっと見てるから」
絶望の海の中から手を差しのべたのは
相も変わらずあなたの存在だった

私には足りなすぎるお膳も
少食なあなたには丁度いいかもしれないね
初めて供えた精霊馬はだいぶ不格好だけど
我慢して乗りこなしてほしい

今日は帷が降りたら
あなたの好きだったお酒で献杯しよう
まだ胸を張れる程の私ではないけれど
湛えたグラスにあなたが微笑んだ気がした

(2023.8.14.7:20)






(ココア共和国10月号佳作)