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雨のアリゾナ100㎞ウルトラ(雨対策のポイントは?)

サボテンが群生するアリゾナの荒野で15時間以上、冷たい雨に打たれ・・・。今回は哀愁漂う演歌のタイトルのような「雨のアリゾナ」。初めての100kmウルトラ挑戦でブラックキャニオンを走った時のお話です。

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私が何か初めての挑戦をするときには、まさかの雨に見舞われるのが決まり事ととなりつつあります。その昔、初のフルマラソンで挑んだロサンゼルス・マラソンでは、完走の余韻に浸って上手いビールを夢見てトレーニングに励んだ結果、記録的な寒波と大雨。カリフォルニアの青空を期待していただけに落差は大きく、軒に吊るされて惨めに濡れるテルテル坊主の気分。念願のゴール後も震えは止めどなく続き、完走の満足感のかけらもなく、ビールはおろか、スタート地点で預けた荷物も紛失し、雨の中を震えながら、一緒に参加した友人を探し、さ迷う事一時間あまり。というのが事の始まり。

アリゾナ州にて開催されたアイアンマン・トライアスロンに初挑戦した時も、これまたサボテンの砂漠でまさかの雨。それも延々と一日中・・・。誰も雨の用意はしておらず、多くは途中で支給された特大ゴミ袋をすっぽり被って、気持ちばかり寒さを凌ぐ、アイアンマンとは思えない格好悪いバイク・シーン。

その後、初めての本格的な100㌔のウルトラ・マラソン挑戦で選んだのは、またもやアリゾナ。ブラックキャニオン・ウルトラと言う、山あり、谷あり、川ありのサボテンの荒野を制限時間20時間で走るレース。アリゾナと言えば、何と言っても灼熱の太陽とサボテン。2月のレースとはいえ、例年30度超の気温となることが多いため、夏から炎天下を走り暑さ対策をし、満を持して望むも、またしても大雨。その週末はアリゾナだけではなく、南カリフォルニアでも局地的な大雨があっちこっちで降り、山間部では大規模な土石流や濁流で車が流されたりと言った状況。アリゾナでも同様の大雨でレース中止と思われましたが、何とか決行。とは言うものの、途中の川が氾濫していたため50㌔の折り返しコースに急遽変更してのレースとなりました。

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朝7時の出発から天気予報通りの雨。スタート時点での気温は摂氏8度程度、ちょっと肌寒い感じ。過去の経験から自分なりに学習し、雨対策はしており、レインギアーで選んだのはお気に入りのノースフェイスのフライトシリーズ。ランニング用の軽量、通気性の良いオールウェザーで防水性もばっちりと言う触れ込み。トレーニング中に雨の中で試して、更に着込んだままシャワーまで浴びて最終確認して望んだのは良いものの・・・

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今思い返せば素人の浅はかさで、初めての本格的なウルトラと言うことで、自分的にはスタイリッシュに走りたいと言う思いがあり、防水機能よりも格好重視だったかなぁと反省。

レース当初より、足元はぬかるみ、泥沼状態。子供の頃にした、田んぼでのザリガニ取りを思い出すほど。スタートしてから多少気温は下がったものの、徐々に体も温まって、それほど寒さを感じることなく走るも、時折、靴を取られるほどの深みには一苦労。その後、雨は何とか小康状態を保ち、絵葉書で見るようなサボテンの荒野を楽みながら走り続ける。

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途中、幾度かエイドステーションを通り、水補給。事前に届けてあるドロップバッグでジェルや、エナジーバーでの栄養補給。ジャケット下のインナーは汗のせいだか、雨のせいか良く分からないながら、かなりビショビショ。10キロほど毎にあるエイドステーションで、何度かインナーを着替え、手袋も替えるが、靴下は履きかえる意味もなく、気持ち悪いけどそのまま、キープ・ランニング。

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(途中のエイドステーション。足元はぬかるみ状態。テーブルの上には高カロリーのポテトチップや、クッキーなど)

夏からの走り込みの甲斐あり、快調に距離をこなし50㌔の折り返し。2月の太陽が傾き始めると共に、雨脚が強くなり、気温も徐々に下がり寒さが身に染み始める。疲労も徐々に蓄積してくる。エイドステーションで一度足を止めると、疲れた足腰が一斉に文句を言い出す。それに合わせた様に、寒さで急に体が震え始める。仮設テント内はヒーターで程よく暖められ、コンソメ・スープが振舞われる。冷え切った体には、まさに天国。周囲では極度の低体温症で続行をあきらめるランナー続出。


私自身も折りたたみ椅子に腰掛け濡れたシャツを着替えてスープで体を温めるも、全身の震えは止まらない。気力を振り絞って立ち上がると、膝が悲鳴を上げる。リタイヤするランナーを横目に見ながら真っ暗なルートの入り口に恐る々近づくと、月のない夜は漆黒の闇。

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(当日は写真撮影どころではなかったので、これは翌年同じレースで撮った写真)

数分も走ると、着替えたばかりのインナーは既に濡ている。無邪気に汗で濡れていると思っていたのが大間違いと気づくが時遅し。雨脚が強くなるのに合わせて風が吹き始めると、通気性の良さを謳っている背中やわき腹の「通気口」から、雨とともに冷たい風が吹き込み、体温は奪われるばかり。

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(これが発汗用の「通気口」でメチャメチャ風通りがいい)

暗闇と雨で視界が限られている中、急遽変更になった折り返しルートで、コースのマーキングも怪しい状態。この寒さの中、道に迷ったら・・・と縁起でもでもない事を考えると恐怖心が募るばかり。時折、すれ違うランナーのなかには、子供の頃に見た新聞配達のおじさんの様に、雨合羽の上下で雨や寒さを物ともせず快適にそうに走る人たちも。


泥濘で追いついた二人連れも雨合羽の上下で完全装備。話を聞くと初めてのウルトラ参加のランナーと、その友人のベテラン・ランナーで、伴走役を買って出た所謂ペーサー。このレースでは、82㌔地点からペーサーが認められている。重装備の雨具はベテラン・ランナーの助言との事。曰く、「直前のエイド・ステーションまでは、寒さで死にそうでリタイヤを覚悟していたが、着替えをしてレイン・ウェアを着たら、さっきまで惨めさが嘘のよう」。やはり経験が物を言う世界。素人の浅はかさを痛感。


幸いにも、ほぼ同じペースの二人の連れを得たので、暗闇と道に迷う恐怖感からは何とか開放されるも、「通気口」から入ってくる雨と冷風による体温の低下は避けられない。修行僧のような試練は、まだまだ続く。残すところ20㌔弱。途中で寒さと疲労で立ち往生し、震えているランナー二人連れに会うが、励ましの言葉を掛ける以外にできることは無い。

永遠に続くと思われた最終区間、全身に広がった痛みをこらえ、一歩一歩と足を前に出すことのみを考えて走ること数時間、漸くゴールが見えてくる。大勢の出迎えと祝福を想像していたが、関係者がほんの数人いるだけの、非常に寂しいゴール。

午後10時53分、16時間弱の苦難の末、閑散としたゴールに漸く到着。メダルと記念品を受け取り。写真をパチリ。顔はかなり強張ってはいるものの何とか笑顔の一枚。

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(周りは水浸しで誰もいない。一番最後にゴールしたランナーの様)

後日発表されたオフィシャル・タイムは15時間49分。完走者248人中、181位。299人が参加し51人が途中リタイヤ。急遽ルートが変更になったため、正式距離はなんと97.4km!


100㌔走ったつもりが僅かに届かず。これもウルトラか?。こうなれば意地でも目指せ100㌔と言う事で、翌年のリベンジに続きます。

ワンポイント・アドバイス(と言うよりは、自らの反省を兼ねての勧め。)
① 雨対策の装備:

レースに当たっては、一生懸命トレーニングに励み、体調万全で望みたいもの。その上で、怪我などの予測できないアクシデントでのリタイヤはいざ知らず、雨具などのギアーの準備不足、あるいは不適切なギアーによる途中リタイヤは絶対避けたい。今回の教訓から、長時間の雨が想定されるレースでは、ランニング用のレイン・ウェアーの特徴である軽量性や通気性を犠牲にしても防水性能の高いトレッキング用のものがお勧め。ゴワゴワで余り格好良くなくても、寒くて惨めな思いをし、途中リタイヤよりはずーとまし。


② ランプ

夜を徹して走るウルトラの場合は、予備も含めて最低2ヶのヘッドランプの携行は必須。フル充電あるいは、封を切ったばかりの新品の電池利用をお忘れなく。天候により直前にコースが変わるケースも多々あります。主催者側の準備が万全ではなく、コースの目印が不明確な場合もあり。今回のレースでは、急遽折り返しになったため、往路の分かれ道の目印はしっかりしてあったものの、帰路では目印が非常に見難く、分かれ道で何度か道に迷いそうになりました。通常、ヘッドランプは200ルーメンもあれば夜道を走るのには十分でも、山中でルートや目印を探すのには若干不安。雨であれば尚更、表示が見難くなります。常時使わなくても300ルーメン以上のランプは心強い味方。


③ ドロップ・バッグ

走る時の携行品は軽量で最低限に絞り込むことが望ましいが、何があるかわからないので、事前にエイド・ステーションに届けておくドロップ・バッグには、着替えや栄養補給食などを余裕を持って準備しておくことがお勧め。バックが雨ざらしになることも有るので、着替えが濡れないように、ビニール袋へ入れる事。更には、着替えた衣類が濡れて嵩んだり、手が悴ん袋詰めにで苦労することもあるので、少し大き目のバックを用意することを忘れずに。

By Nick D

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