#31 ベトナム人は誰かが失敗したらみんなでフォローする
■このマガジンについて
ベトナムホーチミン市にネイルサロンをオープンしたのは、2016年8月。
フリーフォトグラファーとして日本で気ままにやってきた私が、ベトナムで1からお店を作って、スタッフを持つなんて考えた事がありませんでした。
でも、あるとき海外でチャレンジしたい病にかかってしまったのです。
それからは、新鮮で刺激の多い日々...。
全てが初めてでどれも大変な作業の連続。落ち込む事も多いけれど喜びの方が多いんです。
だって、毎日楽しいんだもの。
■トラブル発生
ベトナムホーチミン市 42Nguyen Hue(グエン・フエ)アパート。
このアパートはサクセスストーリーが生まれる場所と言われている。
ベトナム政府によって近々アパートが取り壊しになる計画が出ている。
それをを知りながら、私はここでネイルサロンを作ることに決めた。
私はホーチミンに滞在し、ネイルサロンオープンについて色々手伝ってくれているタンくんと共に、毎日走り回っている。
その日はトイレの移設工事日だった。
元々のトイレは色も形も私の好みでなく、古かった。
なんとか節約しながら工事を進めたかった私は、もう一つ借りている隣物件のトイレをここに移設する段取りだった。
「トイレが無事に移設できたね」と喜んでいたのもつかの間...
30分後、私達は移設中に壊れたと知らされる。
タン:ゆうちゃん。トイレなんだけど...。
私:ん?何?無事に移設できてよかったねー。
タン:うん...でね。工事の人がトイレをたった今、壊しちゃったんだ。
私:でぇ?移設終わったすぐに?何を壊したの?
タン:タンクに水が上手くたまらないし、便座も割れちゃった。だから、新しいのを買いに行かないと工事が進まない。って担当者が言ってる。
私:お金を節約するために、便器を有効利用しようと、何度も打ち合わせをして来たのに。結局新品を購入することになるとは......
オープンは2週間後、私は予定どおりに上手くいかないことに焦っていた。
数日前:トイレの排水工事でイライラ
今日:トイレの便器が壊れて、イライラ
■解決に向けてとにかく動く
タンくんと共に、バイクで道具や資材を買いに走るのは何度目だろうか。
「今すぐ買いに行く」という事にすっかり慣れていた私達は、トラブル発生から1時間も経たないうちに、トイレストリートで便器を選んでいた。
トイレストリートとは
その名の通り、便器ばかり売っているお店が並ぶ道のこと。
ベトナムでは、家具通りや花屋通りなど通りに専門店が連なっている特徴があります。
ベトナムでは、アメリカのメーカー(american standard)もしくは
日本のメーカー(TOTO/INAX)の便器が主流。
「トイレって高いんじゃないの?」と思っていた私だったが、8,000円くらいからあり「え、全然買える金額じゃん!それなら、間を取って10,000円くらいのを買うよ」と贅沢な事を言い出していた。
私:もしかして、この便器は私達がバイクでもって帰らないといけない?
タン:ははは。後で指定の住所までバイクでデリバリーしてくれるよ。
私:よかった...でもやっぱり車じゃなくバイクで運ぶのか...!
ベトナムでは、荷物が大きい買い物をした時、数時間後に指定住所まで送ってくれるサービスがある。(家具・観葉植物・大量の日用品etc...)
バイクにたくさんの荷物を乗せて移動するベトナム人たち。
こんなに大きいものを頻繁に乗せて走っているので、便器の1つくらいへっちゃらなのだ。
そして、便器は無事に交換できた。
■トラブルの原因はセメントか?他店に水漏れする
便器を新品に交換した翌日。
下の階のカフェオーナーが私達をたずねて来た。
カフェオーナー:ちょっと!天井から水が漏れてるけど!!どうなってるの!?
私・タン:ぎゃー!!マジか!
あわてて現場を見に行くと...。
壁から水は染み出し、照明器具の電球の中にまで水が溜まっていた。
【【【 完全にうちの工事が原因で水が漏れている 】】】
私はすぐに謝り、解決すると約束した。
下の階のオーナーさんはとても優しい方だった。
私:タンくん。どこかが詰まっているんだろうか。。
タン:うーん。多分だけど。。。トイレのタイルを貼る時、使ったモルタルを排水溝に流してるのを見たんだ。もしかしたらそれが固まったかな...?
私:ええ!モルタルはセメントが入っているから固まって詰まるに決まってんじゃん!
【【【 ベトナム人施工者よ。なぜそんな事をしたのだ... 】】】
「この原因を見つけてくれるのは彼しかいない...」
私たちはスーパーお兄さんと呼ばれている彼に頼んだ。
この青いポロシャツを着たお兄さんがスーパーお兄さん。
水道工事と電器工事ができ仕事が早いのでスーパーの称号を持っている。
彼は排水パイプを持ってきた専用ブラシでゴシゴシ。
スーパーお兄さん:こりゃ、硬いのが詰まってるよ!
モルタルは相当な量が詰まっていたと思われる。
彼のゴシゴシに耐えきれず、パイプには穴が空いてしまった。
しかし、パイプに穴が空いたのはそこまで問題ではない。
排水溝にモルタルを流した人が、この水漏れの原因を作ったのだ。
私:モルタルを流したのは誰ですか?
そこにいたベトナム人:シーン(だれも何も言わない)
私:後で直接言いに来てください。
ベトナムでは、人前で誰かを注意したり叱ったりすることはタブーだと聞いていた。
だから「後で直接来てください」と付け足ししたが、誰も来ることはなかった。
ベトナム人を人前で注意してはいけない理由
・相手はひどく尊厳を傷つけられたと感じるから
・相手は攻撃や侮辱されていると感じるから
・人前で怒る人は感情のコントロールが出来ない人だと思われるから
■失敗はみんなでフォローすると教えてくれたベトナム人
自分が水漏れの原因を作った訳ではないのに、一人もくもくと水漏れ部分を修理してくれるスーパーお兄さん。
私:タンくん、昨日は誰もあやまりに来なかったね。モルタルを流した人は、水漏れを直してくれているスーパーお兄さんに悪いという気持ちも感じないのかな?
タン:ゆうちゃん、それは違うよ。モルタルを流した人は自分が悪かったと思っているし、きっと反省してる。
私:じゃあ、なんで来ないの?悪いと思ったら来るよね。
タン:モルタルを流した人は、あやまりに行ったら自分が工事の責任を取らされると思ったんじゃないかな。
私:え?私はただ謝ってほしいだけ。責任を取らせたりしないよ?
タン:僕は日本人のその気持がわかるけど、ベトナムでは自分が悪かったと認めることは、自分が責任を取るって決めたのと同じ意味になるんだ。
私:ええ?そうなの?
タン:うん。だからスーパーお兄さんは何も言わず水漏れを直してるでしょう?他のみんなも工事の遅れを取り戻そうと残業してがんばってる。
私:確かに昨日はみんな残業していた!
タン:モルタルを流した人は名乗り出ないけど、これはみんなでフォローしようという気持ちの表れなんだ。
タンくんからの説明を聞いていなければ、彼らの気持ちをずっと理解できずにいただろう。
日本の感覚と違うからといって、簡単な言葉で決めつけるのは良くない。
ベトナム人からの信頼を得たいなら、彼らと自分の違いを知り、それを受け入れて調整していかなければ。そう思う出来事だった。
私が実践しているベトナム人スタッフとのやりとり
スタッフが仕事で失敗やミスをした時、まず出てくる言葉が「道が混んでいた」「いつも使っているネイルの筆がなかったから出来なかった」「頭がいたくてできなかった」などそのミスが起きた理由を説明します。
日本人の私からすると「まず謝ってほしい」という気持ちが先行してありましたが、今はそう思わなくなりました。
謝る方向に話を持っていくより、解決策を話し合うほうが、彼らの気持ちが「次は注意しよう」というように変わるのが解るからです。
起きてしまったことは元に戻せません。「じゃあ、どうやったら次は同じことにならない?」と私は対話することを実践しています。
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