ウレタンクリアをド素人がロードバイクに吹いてみた話(1:導入編)

 要旨

 本稿は塗装のド素人がウレタンクリア塗装に挑戦してみたレポートである。今回はエアブラシを用いてロードバイクのフレーム、フロントフォーク、ステム、クランクを塗装した。結論から言えば、ド素人でもウレタンクリア塗料をそれなりの仕上がりにすることは可能であった。また塗装のしやすさに着目した場合、技術の低い素人ほどエアブラシを用いて塗装する方が、缶スプレーによる塗装よりも失敗せずに済むように思われる。 

 ただし塗装にかかる費用の上では、一度フレームを塗るためだけにエアブラシ塗装に必要な道具をそろえるのは非常に不経済である。のみならず、自転車に艶を取り戻したいという理由で行うには、(その方法に依らず)ウレタンクリア塗装自体が時間的・経済的に負担が大きい。

 エアブラシ塗装とウレタンクリア塗装は、フレームセットやパーツの傷を大規模にレタッチする、ないしオリジナルカラーに塗りなおす際の塗装手段として適していると考える。

 これらの結論に至る過程を、ド素人による塗装考をまとめた導入編と、実際にロードバイクに塗装した際の状況をまとめた実践編とに分けて掲載する。差し当たって、「ウレタンクリアをド素人がどう塗装したか、塗装するとどうなるか」だけを知りたい方は実践編を読めば、まだるっこしい話をカットできる。

 ウレタンクリアを使うかどうかで悩んでいる、エアブラシで塗装することに興味がある、塗装するうえで何を準備すればよいかわからない、という人は導入偏から読んで検討していただけると良いだろう。

 経緯

 インターネット上のウレタンクリア塗装に関する記事にはいくつかの特徴があるように思われる。第一に自動車のパーツやプラモデルを対象とした記事が多く、ロードバイクを塗装してみたというレポート自体があまり多くない。その中でもとりわけウレタンクリア塗料を使った事例は少ない。 

 また記事の投稿者が自動車・模型などで塗装技術をある程度持っている場合が多い。これはウレタンクリアがラッカー塗料に比べ高価であることが関係していると思われる。ネット記事と直感だけでウレタンクリア塗装を敢行する愚か者はそうそういないという事だろうが、他方で果たしてウレタンクリはド素人が扱えないような代物なのかという点は検討が必要であろう。

 さらに個人的な経緯にも立ち入っておくと、ウレタンクリア塗装をする前段階、つまりカラー塗装を施した時に、スプレー缶の塗料の残量が足りなくなりタッチアップペンをエアブラシで塗装してみた。そこでスプレー缶とエアブラシの吹きやすさに、明確な違いを感じたためにウレタンクリアのエアブラシ塗装を思い立ったのだ。

 もとよりエアブラシを持っていたことから察する方もいるかもしれないが、ド素人とはいいながら塗装した経験がゼロなわけではない。しかし模型で数回使ったきりであり、自転車のような大きなものを扱ったことがない、という点は多くの読者と共通するだろう。

用いた道具

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・コンプレッサー:ツールアイランド 3L ミニコンプレッサー
・エアブラシ:タミヤ スプレーワークス ベーシックエアーブラシ

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・塗料:ロックペイント マルチトップクリヤーSH (600gセット)
・溶剤:ロックペイント パナロックシンナー(250ml)

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・防毒マスク:シゲマツ GM77-M
・安全メガネ
・プラスチックグローブ
・紙コップ
・スポイト
・割りばしorプラスプーン (塗料の攪拌に使う何か混ぜる道具)
・計量カップ
・耐水ペーパー(800~2000番のいずれか。1500番くらいがあればよい)
・新聞紙
・ガムテープ

 これだけの道具があればとりあえず塗装することができる(個々の道具の使用感については別途、紹介記事を設けようかと思う)。どこで買うかにもよるが2万円ほどあればそろえることができる。スプレー缶一本で塗装すれば2~3000円で済むことを考えるとかなり高コストであることがわかる。それでもエアブラシを使う理由については次節で説明する。

 一応申し添えておくと、缶スプレー塗装であっても絶対に防毒マスクと安全メガネは使う必要がある。ウレタン塗料はスプレー缶だろうが、エアブラシだろうが、極めて毒性が高い。画像にあるような防毒マスクも2000円程度で十分なものが手に入るので、きちんとした(ガスマスク然とした)防毒マスクを買うことを強く推奨する。

何故エアブラシを使うのか?

 道具と塗料をそろえるのにこれだけのコストがかかるのに、なぜエアブラシを使ったのか。端的にいえば缶スプレーよりもウレタン塗料のデメリットが生じにくいと考えたためだ。

 ここで簡単にウレタンクリア塗料の特性として、ラッカー塗料と比べたメリットとデメリットを述べておこう。

<メリット>
・塗膜が非常に硬く、耐久性と溶剤体制が強い
・肉厚な塗膜で深い光沢が出せる
・下地の塗装を溶かさない

<デメリット>
・塗膜が非常に硬いため、塗装の補修が難しい
・肉厚なため吹き付けすぎると内径・外径の寸法に影響を与える
・一度硬化を始めると、一定時間以内に使わなければならず、
 完全硬化後の補修では別途塗料を用意しなければならない。

 さて、上述した特性のうちメリットは缶スプレーでもエアブラシでも大して変わらない。というのはメリットの部分は「うまく塗装できれば得られる効用」と言い換えられるからだ。問題は「では、素人がどうやってうまく(=失敗せずに)失敗するか」なのだ。

 経験のない素人が塗装するにあたって、問題になるのは塗り重ねであると思われる。塗り重ねに失敗するとタレが発生する。タレというのは一度に塗料を吹き重ねすぎて、塗料が重力に負けて流れたようになってしまう状態のことだ。

 このタレというのが非常に厄介で、非常に目立つ上に補修するのが案外難しい。タレが発生して膨らんで見える部分を平滑にするのだが、違和感のないように削るのは至難の業だ。削りが足りないとタレが消えない。削りすぎるともう一度クリア塗料を吹かなければならないばかりか、最悪の場合クリアの層よりも下の塗装を台無しにしかねない。

 従って素人が塗装するうえで(特にクリヤ塗料による仕上げ塗装において)、タレを起こしてしまうかどうかが仕上がりの美しさを大きく左右する。

 ではこの問題がスプレー缶とエアブラシではどう異なるのか。第一にウレタン塗料のスプレー缶塗料は一度封を切ってしまうと塗料を12時間以内にすべて使い切る必要がある。使い切るために焦って吹き重ねることでタレを生む原因を生みやすい。

 対してエアブラシで吹く場合には必要な分量だけ少しずつ塗料を用意し吹き付けることができる。加えて、そもそも一度にエアブラシに入れられる量が大きくない(今回使ったものではスプレー缶の10分の1)。なので「エアブラシに入っている分を吹き付けたら一旦少し乾燥させる」という目安を作りやすい。少量の塗料で吹き付けの練習をしてから本塗装に移行するということもできる。

 第二に塗料の吹き付け範囲の広さの差がある。スプレー缶はエアブラシに比べると非常に広範囲に塗料が広がるようになっている。自転車のような細いパイプ状の物に吹き付けるにあたって、吹き付け範囲が広いと塗料が対象物に付着せずに捨てる分量が多くなる。簡単に言えば実際に自転車に乗る塗料よりも空中に捨てる塗料の方が多くなる。これは単にもったいないだけでなく、作業環境によっては(例えば狭い場所や密閉空間)、空中に漂う塗装ミストで視界が悪くなる。

 加えて吹き付け範囲の広さは塗料のコントロールの難しさにもつながる。狭いところに少しだけ吹き付けたい場合などに特に苦労する。塗装の広がりの原理上、缶を近づければ狭い範囲も塗ることができるが、缶を近づけるのはタレの発生に直結する。

 最後に塗料の残量管理の難易だ。スプレー缶は缶に圧入されたガスの圧力の力を借りながら塗料を吸い上げて塗料を噴き出している。塗料の残量が少なってくると塗料が不規則に吹きだして、きれいな塗膜を形成しなくなる。

 イメージとしてはストローで飲み物を飲んでいるときに、飲み物が少なくなると「ズゾゾゾゾ」という音がして上手に飲めなくなるアレだ。缶の中身がどのくらいあるか(特に素人では)把握できないので、この現象が突発的に起こる。

 エアブラシでも無論塗料の残量が少なくなると似たような現象が起こる。だが塗料カップの中身を確認しながら塗料を継ぎ足したり、塗装をやめたりという判断ができる。

 残量管理がさらに面倒な事態につながるのは、複数のパーツを塗るときのそれぞれのパーツに吹きかける塗料の分配だ。缶スプレーの重みや振ったときの感覚からどれくらい吹き付けられるかを把握するのが困難な場合、温存するか使ってしまっても大丈夫かの判断をするのは難しい。その点エアブラシは必要な分だけ自分で塗料を用意してその配分を調整できる。

 上記三つの差異を総合すると、缶スプレー塗装では一度で塗料をすべて使い切る必要がある上に、きれいに塗りきるためにはある程度の慣れや勘と技術が必要になる。そうでありながら塗料が無駄になりやすいため練習に使う冗長な塗料を確保しにくい。

 他方でエアブラシは必然的に少量ずつ塗装する点、吹き付け範囲の狭さによるコントロールのしやすさによってミスをしにくい。さらに練習のために塗料を使う事が相対的に容易である。

 エアブラシというと「本気っぽい」道具で扱いが難しい印象があるかもしれないが、その実、スプレー塗料よりも技術的な要求点は低い(と思う)。初心者こそ良い道具を使った方が良い、という典型であるように思われる。

エアブラシの欠点

 ここまでエアブラシの利点について書き連ねたが、もちろんエアブラシでの塗装にも欠点はある。

 第一義的にはやはり値段。機材一式をそろえるのにかかる費用を考えると、自転車のフレームセットを一つ塗装する程度だとプロに依頼したほうが安くつく可能性すらある。塗装に使う道具、特に費用の大部分を占めるコンプレッサーを、どのくらい使うかをよく検討する必要があるだろう。

 少しエアブラシ塗装の肩を持っておくと、エアブラシ塗装に使う道具を購入をためらうのは模型などの界隈でも同様である。一度だけ使って中古市場に流す、というのは費用を抑える上で検討しても良いだろう。

 第二に振動と騒音の問題である。コンプレッサーは動作の原理上、どうしても振動と音が出てしまう。工業用のよほど大きなコンプレッサーでも買わない限りは、きちんと対策すれば使える程度の音と振動にはできるはずだが、対策はどうしても手間になるの。早朝や夜に使う場合に気を遣うという事も出てくるので、平日の仕事終わりに夜中に塗装、というのが難しい可能性は否定できない。

 第三に道具の手入れが必要な点だ。スプレー缶であれば使い切った後にガス抜きをして捨てるだけでよい。他方、エアブラシは繰り返し使用するため手入れが必要になる。特にウレタン塗料を使う場合は、入念に手入れしないといけない。自転車の整備でいえば車体の吹き上げとチェーンへの注油ぐらいの手間ではあるが、面倒と言えば面倒である。

 さて以上がウレタンクリア塗装およびとエアブラシ・スプレー缶塗装の差異についての概要だ。ここまでで何となく、ウレタン塗装をするには何が必要か、その際にエアブラシを使う利点・欠点は何かを紹介できたと思う。続く実践編ではロードバイクに吹き付けていくうえでの具体的な工程を紹介していく。


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