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カート・ヴォネガット「猫のゆりかご」読解①~冒頭読む読む~

こんにちは!
日恵です!

最近カート・ヴォネガットの「猫のゆりかご」っていう本を読んだんだけど、もうスゴい……「面白かった」から、読解というかレビューというか、そういうのをやりたいな、と思ったのでやります。

私は元々他の人のレビューとか読まないから色々齟齬があったりするかもしれないけど、気にせず書いちゃうぞ!

ネタバレ全開になるので、まだ読んでない人は是非読んでから読んでもらえると!
もちろん、ネタバレ歓迎な方は読んでいってください笑

と、いうわけで、以下から読解、始まります!
まずは冒頭の全文引用しながらの読解から!
ネタバレ注意!!


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本書には真実がいっさいない。

カート・ヴォネガット「猫のゆりかご」

この言葉の後に目次へと続いていくんだけど、最初にそんな宣言されなくてもさ、まあわかるよね。小説──フィクションなわけだから。

しかし、待って?
よく考えてみれば、「一切」って凄いよね。
「本書には」ってことはさ、本文だけじゃなくてタイトルや作者名や出版社名、そういうもろもろがさ、嘘ってことなの?!?!!ってなるじゃん!私はなった!んだけど、そんなわけないでしょ!とも思うじゃん?

でも、実際そうだったんだよ、この本。笑う笑

正確には「嘘ばっかり」じゃなくて、ほんと、文字通り「真実が(一切)ない」って感じなんだけど……それについては読解していけばわかると思うから、とりあえず続けていこう。

でも、その嘘ばっかりのこの本、細かく章分けされてるんだけど、その数、なんと全127章笑 どんだけあるの???

しかもそれだけあって、「真実は一切ない」。
面白すぎでしょ笑

わたしをジョーナと呼んでいただこう。両親はそう呼んだ。というか、ほぼそのように呼んだ。両親はわたしをジョンと名付けたのである。

ジョーナって呼べ!「猫のゆりかご」

物語はこんな一文から幕を開けるんだけど、もうこの時点で色々変な感じするよね?凄い情報量というか。
まず、「わたしをジョーナと呼んで頂こう」なんて言い方、普通する??あだ名で読んでもらいたい時でも、「わたしはジョン。ジョーナと呼ばれている。」って感じで、まず本名から言うもんだよね?それは本名の方を印象づけるためだと思うんだけど……つまりじゃあ、これはその逆か。あだ名を印象づけたがってるってこと?……そうだとしても、この調子は作為的だ!と感じますね。

訳者あとがきによると、これは同じアメリカの作家メルヴィル著「白鯨」の冒頭のパロディのようですね(読んだけど覚えてない……)。
つまり、この作品は冒頭からパロディを使っていく、そういう作品でもある、と言っているわけです。

ていうかさ、「両親はそう(ジョーナと)呼んだ」って言った後にさ「というか、ほぼそのように呼んだ」とかって追加してさ……呼んでないじゃん笑 いきなり嘘笑 「ふうん、そういう語り手ね」ってなるよね、これは笑 僅か二行程度でこれだけの情報量があるなんて、ほんと、小説の冒頭って凄い笑

でわでわ、ズンドコ読んでいきましょう!

ジョーナ──ジョン──かりに元の名がサムであったとしても、わたしはやはりジョーナであったろう──といっても、わたしが人を不幸にする人間※1であったからではない。何者か、または何かが、あの時この時、あの場所この場所に、必ず私がいるように仕向けたからなのだ。

明らかに何か語りたがってる「猫のゆりかご」

わかりやすいけどわかりにくい笑
本の方には※1の説明が載ってるんで説明すると、これは旧約聖書で有名な預言者「ヨナ」と掛けてるみたいだね。「ヨナ」の英語名が「ジョーナ」だから。「ヨナ」は「あと40日で地球は滅亡する!!!!」とかそんなことを予言したりするから、向こうでは「不吉な人」のスラングになってるらしい。

で、「僕がヨナ的だから、元の名がサムであるとしても、僕はジョーナだろう……と、そういうわけじゃない」とか言うわけ。めんどくさいなぁ笑

で、そうじゃなくて、「私」が居るように差し向けられたから、らしいのだ。なのだ。つまりね、基の名前がなんであれ、「私」は「ジョーナ」としての役割をすることになるのには、変わらない、と言っている。何者かに仕向けられて。つまり、「運命」ってやつだね。

で、こういう文がくると、それを引き受ける説明が続くものなんだけど──

聞きたまえ。

なんとも偉そうな「猫のゆりかご」

は、はい笑
まさかこんなあからさまに、偉そうにくるとは思わなかった笑
拝聴しますか笑

わたしが若かったころ──今を去ること妻二人前、タバコ二十五万本前、酒三千クォート前……

真面目に聴こうとしたらこれというね笑笑

これはもう「詩」です。この単語とか数字とかに意味があるんだとしても、今後の読解には支障がなさそうなので雰囲気で読んでいきましょう。

まず「妻二人前」。妻二人分、だったらわかりやすいんだけど、「~人前」ということは、ジョーナが時間を「ご飯の量」に例えてるのがわかる。それくらいにしか使わないもんね。だとすると、同じように表記されてる「タバコ二十五万本前」と「酒三千クォート前」は、つまりタバコと酒が擬人化されている、ということになる。

だからなんだ!!!

大体妻もタバコも酒も、人によって持ちが違う。ここからどれくらい昔の話なのかを推測するのは、ほぼ時間の無駄だね……でも、まあ試しにやってみようか!

タバコを使ってみよう。タバコが一本吸い終わるのに大体五分くらいだと言うから、5分×25万=125万分÷60=300時間……え?10日?!?!!
10日前を「私が若かった頃」なんて普通言わないでしょ!!なしなし!!

い、一日10本吸うとして、25000日……約60年笑 こっちの方がまだ近そうだけど笑 20歳だと仮定しても80歳か笑 ないことはないけど笑

……まあ、うん。こんな感じになっちゃう。
馬鹿らしいから次に行こう!

今よりずっと若かったころ、わたしは『世界が終末をむかえた日』と題されることになる本の資料を集めはじめた。
それは、事実に基づいた本になるはずだった。
それは、日本の広島の原子爆弾が投下された日、アメリカの重要人物達がどんなことをしていたかを記録した本になるはずだった。

なるはずだった「猫のゆりかご」

~だった。ということは、題されることも、それぞれが記されることもなかったのね。うん。次。

それは、キリスト教の立場をとった本になるはずだった。そのころわたしはキリスト教徒だったのだ。
いまのわたしはボコノン教徒である。

とち狂って来た「猫のゆりかご」

はい、きました。
この当然知ってるだろうみたいに単語を出してくるの、SF的ですね。そしてまた、それがガジェットとして重要な意味を持つものであることもわかる。いきなりの不意打ちは、頭に残る。それが作品内で反復されていくならば、余計そうです。つまり、それだけここでボコノン教という名前を出すのが大事だったわけだ。

実際、私の読解だと、このボコノン教という語句は、とても大事な物だった。世界観がうんぬんとかそういう話以上に。

次も読んでいこう。

もし当時まわりにボコノンのほろにがい嘘を教えてくれるものがいたなら、わたしはボコノン教に改宗していただろう。だがボコノン教は、カリブ海のこの小島、サン・ロレンゾ共和国をとりまく砂利浜と珊瑚の湖の奥深くにあり、わたしには知るべくもないものだった。

知るべくもない「猫のゆりかご」

ほろ苦い嘘を教えてくれるものがいたら、って面白すぎるよね。普通、嘘をついてるだろう宗教なんて入りたがる方がおかしい。
でもジョーナはそれを知っていたら(人から聞かされていたら)入っていたという。

この時点だと謎なんだけど、その理由も後々わかってくるので、今は先に進みましょう!

わたしたちボコノン教徒は、人類というものがたくさんのチームから成っていると信じている。本人たちは知ることもなく、神の御心をおこなうチームである。ボコノンは、そのようなチームを〈カラース〉、人をその中に入れる道具を〈カンカン〉と名づけたが、わたしを今の〈カラース〉に組み入れた〈カンカン〉こそ、未完に終わったわたしの本『世界が終末をむかえた日』なのだった。

カンカンってなんかカワイイ「猫のゆりかご」

チームというのはある種の共同体ってことで間違いないだろうね。「神の御心」というのは、キリスト教的に言えば「運命」というやつだね。「神に定められた運命」。つまり「カラース」は「知らず知らずのうちに運命に従っているチーム」ということか。

さっき出た「呼び名は関係ない」というのにも繋がるから、間違いないと思う。「ジョーナでもサムでも呼び名はなんであれ関係ない。神の御心を果たす(果たしてしまう)役割を持っているだけだ」ということなんだろう。
ここまでで、この作品がどういうものなのか、なんとなくわかってくるね。

それで、そのチームに入れる「契機」となるアイテム(及びイベント)が、「カンカン」という物なわけなんだ、きっと。黒人が無料で配る聖書がきっかけでキリスト教になった、みたいな。そして、ジョーナの場合は、それが『未完で終わった自分の本だった』のであるらしい。

それってどういうことなの?
自分で自分に啓蒙されたの??
ということになるよね?ならない?私はなった。

つまり、これは『設問』なんだ。
ここから解答できるように文章を出してくから、よおく考えるように、っていう。

もちろん、冒頭で『設問』を置く、ということは、それだけこれがラストに深い関係がある、ということで、私はそれを論じていきたい……むしろ論じていくために、この冒頭を載せる必要があったんだ。最後まで読んで、この冒頭の重要性に、私は気づいた。

わけなんだけど。
ちょっと思ったより文量が多くなってしまったので、一番やりたかった「猫のゆりかごの秘密❤」については、また次回に回そうと思います。

では一旦、アデュー!!!

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