入試数学秘術

0.この文章について


 だいたい高校一年生を対象とし、難関大学の入試数学において多少のアドバンテージを得るための秘術集である。

1.基礎の前の話

①文字は少し大きめに書く

 入試において計算用紙や答案用紙は有り余るほど配られる。文字は大きめでよい。7と9等、間違えやすい数字や筆算のズレ等は少なくとも時間のロスとなりうる。よって文字は常識の範囲内で大きく書くべきである。

②図の正確性にこだわらない。

 例えば正三角形が問題に出た場合、正三角形を正確に書く必要性はまったくない。自分が正三角形だなと思える程度の図を書いて計算ないし答案作成をするべきである。
 他の例でいうと二次関数や三次関数のグラフを書くときも、大切な部分すなわち変曲点やx軸やy軸、他のグラフとの交点等が分かる程度の図で良い。もっと言えばx軸やy軸が省略できそうなら省略したほうが良い。

 正確な図を書く集中力があるなら他のことに回す方が良い。
 集中力は有限である。

③算数力

 まず重要な事は、計算ミスを犯さない人類は存在しないと言う事である。グロタンディーク素数で調べてみるとよい。
 大切なのは計算ミスに気づく為、自分の計算ミスの傾向と対策を練る事である。

 その為に、平素はできるだけ暗算をするべきである。当然間違えることもあろうが、それによって自分の計算ミスのパターンに気づけるはずである。難関大を目指すなら倍数が持つ性質等もここで復習ができる。
 そして、自分がどの程度の暗算なら確実に正しい答えを得られるかが分かれば、模試や入試本番で暗算と筆算を使い分けて試験時間の有効活用につなげる事も可能であろう。

④人に読んでもらうことを意識する。

 入試問題は作問者の意図があって、それに応える事で点数を得られる。分かってることはもちろん、考察の末解答にたどり着けなくても読める文字で何らかの痕跡を残してできるだけ自分の理解度を示すべきである。できれば自分の考えた論理を出来るだけ簡潔明瞭に書くべきである。
 採点者は答案の示す論理展開にこそ興味がある。

 答案用紙も十分に大きいだろうから、できれば改行や句読点を使って自分が問題の要所を理解していることをアピールするべきである。(もっともこれは上級テクニックに属する)

2.勉強の仕方等

①定義と定理

 定義と定理そして公理というものが存在するが、公理の話は高校数学の域を出るのでここでは言及しない。

 定義は数学の言葉の意味を極めるものだから、「必ず」覚えなければいけない。

 しかし、定理というものは定義から演繹されるものだから必ずしも覚える必要はない。なぜなら、定理など忘れてしまっていても試験時間内にチョチョイと導出できれば良いだけの話だからだ。
 覚えてる定理が極端に少ない奴ほど数学ができる。ただし、証明が長い定理(例えば三角関数の加法定理等)は証明を理解した上で覚えていたほうが良い。

②本選び

 まずは教科書を読むべきである。高3の教科書まで何回も読もう。教科書の範囲外から問題が出ることはないし、教科書の隅っこに載っている事から出題される問題はおよそ難問であり、チャンスである。

 次に参考書選びであるが、参考書をコロコロ変えるのは邪道である。絶対にやってはいけない。

 普通の生徒はチャート式等の有名問題集をしたりするものだが、普通の生徒と同じことをやっていてはアドバンテージは取れない。
 私の問題集のオススメは志望校の過去問集である。東大数学は東大の、京大数学には京大の癖があり、東大志望なら東大数学50年の様な本が出ているはずなので、今すぐにでも、高校一年生からでもやり始めることをおすすめする。

 最後に絶対守ってほしいのは、参考書に載っている出題範囲に目を通さない事である。入試問題には当然「この問題は数学Ⅰの〇〇範囲からの出題である」等とは絶対書いていない。

③過去問の使い方

 まず、過去問にトライするには問題文を正確に読まなければならない。何を簡単なことをと思われるやもしれぬが、大概の受験生は数学の問題文を読み解くことすらままならない。数学は国語に近い科目である。簡潔に書かれた問題文を正確に読み解けるようにならないと点数などおよそ望めない。

 次に考える時間である。一問につき少なくとも二時間程度は粘ってほしい。当然間違ったアイディアを書いたり見当外れの計算をすることもあろうが、それも数学の修行の一つである。
 もっと言えば、これからの長い人生二時間考えた程度では結論が出ない問題に直面していくことになるだろうから、その予行演習だとでも思って、できるだけ長い時間同じ問題を考えることを強く推奨する。

 得てして一つの問題を長い時間熟考した経験が、後に難しい問題を即断できる技量につながる。

 それで、問題が解ければ法外の喜びを感じることができるであろうが、高校一年生が二時間粘った所で東大数学の過去問が一問解けるかと言うと解けないと思う。よって模範解答を熟読してほしい。

 模範解答の熟読というのは論理展開や数式を追うだけでなく、模範解答に納得することである。数学の理解において最も重要なのは「納得」である。なんとなく理解した気になったでは、理解が絶対的に不足している。必ず納得が行くまで模範解答とにらめっこをして欲しい。

 さて、これで終わりかというとそうではない。問題を解くためのアイディアをどの様に思いつくのか?を考えるべきである。そして、その問題を忘れ去ってもアイディアを自力で思いつけるにはどの様な思考を巡らせればよいかが分かれば、次の問題へ行っても良い。

 そして、周回を重ねる内に「アイディアを思いついて、後は計算するだけで点が取れる」といった自信ができたならばアイディアが思いついた時点でその問題は解けたとしてよい。
 受験勉強にこういった要領の良さは必須である。

③手を動かすこと

 基本的には実験である。実験というのは変数に具体的な数字を当てはめてみたり、図を書いて動く点を適当に一個定めてみたりすることである。
 実験無しに出来る数学なんてほとんど存在しない。
 未知の式等に法則性を見出すとき実験は必ず必要となる。特に入試で出題される初等整数論はその傾向が強い。問題文を読み終えてすぐに手が動くようになれば受験数学初段といった所であろうか。

3.その他実戦的な事

①他人づきあい

 受験数学の問題には知的好奇心をくすぐるものが少なくない。なので、そういった問題の勘所を掴んだならば周りの同級生にその問題を教えよう。別に慈善事業をせよと言っている訳では無い。
 
 俗に人に教えるには三倍の理解が必要と言われるが、友人相手に問題を説明するうちに自分では気づかなかった問題の妙所に気づくやもしれぬ。
 ついでに友人関係も良くなる。

②捨て問

 今まで書いてきたことを実践できたならば本番の入試で満点を取ってやろう等という妄執に取り憑かれる位にはなるやもしれない。
 だが自身の経験も含めて言うと入試で満点を取ったところで入学後に調子に乗る位のもので、そんなことよりも手広く問題を解こうとして全ての解答が中途半端になることを恐れるべきである。

 目的は大学入試突破にある。

 大抵の場合、数学の入試問題には難問が一問位混ざっている。それは知的好奇心を煽る良問である事も多い。だが、それは禁断の果実だ。難しくとも割り当てられた点数は他の問題とさして変わらず、時間ばかりを浪費させる。
 自制心を強く持って欲しい。

 6問出題されて4問完全な解答が書けたならば、それは十分すぎる成果である。帰り道にその結果に満足しつつ捨て問にした問題をじっくり眺めれば良い。

③心構え

 とはいえ、入試問題の難易度は年度によって上下する。よって、思った通りに問題が解けない可能性だって十分にある。なので、難しいことだが受験中は楽観主義に徹する必要がある。

 一つの科目の試験が終わるたびに自分で自分を褒め、「自分はやれるだけのことをやった。他の受験生に対しアドバンテージを得られたかは分からないが少なくとも劣ってはいまい。次の科目もせいぜい頑張ろう。」と虚勢を張り、最後の一点まで点数をかき集めるべきである。
 実際問題、全教科で並みの点数が取れれば大概合格する。

 受験中に小さなつまづきに悲観し五点差で合格を逃した私が言うのだから間違いない。

4.終わりに

 色んなことを書いてきたが、私は受験生を指導した経験もないくせにこの文章を書いた。よって重要だが書けない所は多くある。だからこそ、凡百の教師の言いそうな事はすべて省いた。受験などというものは大した行事ではない。大学生活で如何に楽しみ努力するかのほうが大切だ。 

 しかし、だからこそ眼前の受験数学を通じて、数学好きが少しでも多く誕生することを祈る。ついでに読者の合格も祈る。

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