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守られるという安心

 一度も手にしたことがないという人はいないのではないか? などと思うくらいには日本の生活に根付いた信仰、それは御守であろうと私は考える。
 子供の頃は学業守をランドセルにぶら下げ、受験となれば合格祈願、初詣やら観光やらで神社に立ち寄るとつい買ったり買わなかったり。
 そもそもあの美しい刺繍の小袋がまず愛らしい。紫や赤など魔除けの効果ありそうな色の、ひものついた小さな袋。バッグチャームのように美しく愛らしい。
 そうはいっても最近はカード型の御守をおサイフに忍ばせているだけなので、次回はぜひまたあの小袋型を入手するのもいいな。

 子供の頃、御守は大人にもらうものだった気がする。親や、親戚のおじおばなどが入試前や旅行のお土産などにくれた記憶だ。あれらの御守はいつどこにいってしまったのか。どこかにしまいこんでいるか、片付けなどで母が塩とともに供養してくれていたのかもしれない。

 で、今の私はおサイフにいれたカード型の御守のみ持ち歩いている。厄除けというか、いちばんオールマイティー的なものにしたはずだ。
 その前はなんと安産守だ。犬の日の安産祈願でいただいたもので、まぁるくぷっくりと、膨らんだ妊婦のお腹のようなころころと可愛らしいピンクの御守。
 そうなのだ、御守を持たずして暮らしていた期間が意外とあり、ここにきてまたこの生活習慣のような小さな信仰の可憐さを思い出しては再開したのである。
 持たないと不安にはならないけど、ふと財布を出したときにカードのはしっこが見えて(本来は交通系ICカードなどいれるのであろう外側についている薄いポケットにさしてある)、私守られてるなどと思う。なんとなーく、清い気持ちになって、粉砂糖のようなかすかな安心感が降ってくる。

 いわゆる御守、ではなくても人は何かしら持っていると安心、ないと落ち着かないものがあるのではなかろうか。
 持っていると良いかもしれないけど、持ち歩かない人も多い、そんな何か。

 学生時代や勤め人時代、電車に乗るときに本を持っていないということがまずなかった。マンガでも文庫でも、とにかく読むものがないと寂しく落ち着かず不安になる。忘れて出かけては書店で買い求めたりして余計な出費をしたものである。
 生活スタイルが変わり、毎日電車に乗っては勤務先に向かわなくなり車での移動ばかりになり、私は本を持ち歩かずに生きられるようになった。というよりは出先で本を読目ない生活スタイル(育児)が始まったからであるが。
 さてさて子供がおおきくなり、まだ出先や家でも本を読む時間が持てるようになり、またせっせと本を持ち歩き読んでいるが、なくても大丈夫(というよりはそれどころてまはない)という期間が確かにあった。

 ではそんな中でも私が手放せなかったものってあるかなと考えてみたら、あった。
 常にいつでもないとだめ、なかったらわざわざお店に入ってでも買うもの。

 それは。

 リップクリームだ。

 これはもう単純に唇を荒らしたくないの一念である。皮が向けたりかさかさしたりが本当にだめなのだ。
 子供の頃に乾燥した唇を舐め続けてひどくしてしまったことがあり、それ以来手放せない。
 もちろん、家の中でもあちこちにおいている。枕元、洗面所、リビングの席の近く。ふだん使うみっつの鞄にも、それぞれ入っている。それから職場の制服のポケット、化粧ポーチ。
 そうか、常に7本も稼働しているのか! 我ながらすごいな、どれも使い切れずに古びたりはしないように時々減りが少ないところと入れ換えたりしている。もはやなんの努力なのかよくわからない。

 小さな子どもが、お気に入りのぬいぐるみや毛布を抱いて眠るように、心穏やかに、不安を遠ざけてくれるもの。ひとはそれに小さく依存して心の安定を得て生きる。
 私の場合、それは本でありリップクリームであり、もしかしたら私自身も気づいていない何かがまだあるのかもしれない。

 人それぞれの御守、安心できる秘密の無敵アイテム。
 心強く穏やかに生きてゆくために、身に忍ばせるそれを、今日も大切に。

 そしてこっそり終えて欲しい、どんな御守を持っているのか。
 でも人に話したら効かなくなるのかしら。

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