見出し画像

あくまで個人の感想です #1ハマの探偵濱マイクとの再会

つい先日である。映画館の上映作品のポスター(といっても紙ではなく印刷されたプラスチック板が照明付きのパネルにはめこまれている…あれってなんて呼ぶの?)が並ぶ壁に彼を見かけたのは。
目を疑った、まさかまたスクリーンで会えるなんて!

「我が人生最悪の時」

監督林海象、主演永瀬正敏、探偵濱マイク三部作のスタート第一弾はモノクロというなんともカッコいい作品。
これがリバイバル上映されていたのだ。知らなかった!間に合ってよかった!
それにしても30周年記念って…あの頃からもう30年も経ってしまったのかという驚き。

細々とであるが、私は永瀬正敏ファン歴がちょっと言いたくないくらい長い。
10代の頃はちょうど永瀬正敏のブレイクが来ていてドラマにCMに音楽活動と露出も多く、やれ新潮文庫を買い漁ったりカクテルの瓶を買ったりポスターを写真撮影したりしたものだ。
思えば私の推し活第一号が永瀬正敏だ。

そこに、林海象ファンだった友人のお誘いを受け、今はもう無い、黄金町の映画館まで観に行ったこの作品である。
この再会のチャンスを逃しては後悔すると、地元の映画館へ、朝一番の上映に向かう。

覚えているか、と言えば半々くらい。
覚えているシーンは多いが話の大筋をきっちりとは覚えていなかった。
やはりマイクの衣装やセリフなどは割合よく覚えていて、懐かしさと改めて思うカッコよさ…そう、とにかくカッコいいのだ。

舞台は横浜、黄金町。映画館の二階席に事務所を構える探偵・濱マイク。歓楽街に育った子供である彼は親もなく、身内は高校生の妹だけ。粋でお洒落で喧嘩早くて、情に脆いヤンチャを尽くした野良犬育ち、男気溢れるイイ男。

とある調査依頼から、暴力団絡みのイザコザに首を突っ込むことになるマイク。様々な思惑と策略が絡み合う中、マイクは依頼者の台湾からきた青年の不遇を助けてやりたい一心で手を尽くす。
親のいない、きょうだい二人きりという身の上に己を重ねているのは明白だ。カッとなると昔の喧嘩早さが顔を出し、ギラついた野良犬の瞳が戻ってきてしまう。マイクは台湾の青年を兄貴と再会させてやりたくて収めていた牙をも覗かせてゆく。

30年前の映画であるが、その当時でも既に懐かしい旧き良き昭和のハードボイルドだ。マイクの衣装や車も当時のイマ風にブラッシュアップはされているもののクラシック。
ストーリー展開も同様に、登場人物それぞれの思惑や立場がもつれてはいるが結末はシンプル。恐らくはそうなるだろうなという悲しい現実に向かって進んでゆく。
ハッピーエンドの匂いなどしない。

雑多な街に生まれ育ち、決してカタギと胸を張れるほどではない彼が、それでもささやかな日々の喜びや幸せを求めて生きている。
そう簡単に手に入らないことはよくわかっていながら。

厳しい生い立ちの、茨道の日々。それでもなとか歩んでゆく荒野という人生。
だからこその優しさと甘さは、彼自身が求めているそのもの。こうありたいと望む自分自身になるために、まっすぐに向かっていく。
ああこれこそ、男の美学なんじゃないか?

ハデなな衣装に車、オールバックに固めた髪。
目先の派手さに気を取られることなく、濱マイクという人の真面目さ弱さ、強い生命力と甘さと大人になりきれない純情さ。
最高にカッコよくて最高に愛おしい。
演じる永瀬正敏は当時27〜8歳。
マイクは今作でいろいろ負傷するのだが、ちゃんと、ケガをしているように振る舞っているのが印象的だ。
手をケガすればふとした動きが手に気にしている。足をケガすればかすかに足をかばう。実にさりげなく、当たり前のように。
粋なファッションでカッコよくキメた漫画のキャラクターのような非現実感でありながら、そこにちゃんと生きている人間の匂いがする。
だからなのか、あの街に行けばマイクがいるのではないかという気持ちにさせられる。

舞台となった黄金町に、あの映画館は今はもう無い。あれから30年が過ぎた。
それでも、あちこち新しくなったあの街に、エースのジョーのように歳を重ねたマイクが、ハデなシャツをシックに着こなして歩いているような。
そんな気持ちにさせられるのだ。

削ぎ落とされたソリッドな男の物語は次作「遥かな時代の階段を」に続く!

10代でこんなイイ男観ちゃったら、それはもう見る目も変わるというものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?