プリズム(2022年)

ソン・ウォンピョン(矢島暁子 訳)

4人の男女の日々を、季節ごとに描いた恋愛小説。
波乱万丈な展開があるわけではないが、等身大なキャラクター像が魅力的。さらっと読み終えてしまったが、美しく印象に残る文章で、読後はそれなりの満足感があった。

登場人物は、主に4人。
イェジン:本作の主人公?明るく気立ての良い女性だが、恋愛感情に左右されすぎてしまうところがある。
ホゲ:家庭環境のトラウマにより、他人に心を開くことを苦手とする青年。イェジンに惹かれていくうちに、精神的に成長していく。
ドウォン:イェジンの片思いの相手。過去に音楽活動をしており、その時に出会ったジェインを忘れられないでいる。元妻を癌で亡くしており、「愛したものはいずれ消えてしまう」という喪失感から、他人と深く関わることを避けている。
ジェイン:離婚した夫との不毛な肉体関係や、幼少期のトラウマ、認知症の母親との親子関係等に悩む女性。ドウォンと偶然出会い、愛情を深めていく。

ドウォンとジェインのキスシーンは艶っぽく、血の乾杯のシーンも印象深い。くっさい言葉だが、”大人のほろ苦い恋愛ドラマ”をみた、という満足感がある。

じんわりとセクシーな大人組(ドウォンとジェイン)の恋愛に比べると、若者組(イェジンとホゲ)の関係は、若さゆえの眩しさ・痛々しさがある。その対比も素晴らしいと思った。

私は、ホゲに感情移入して読んでいた(恋愛や人間関係に消極的な部分が被ったため)が、ホゲの作中の成長が凄まじく、あっという間に置いて行かれた感があった…笑

9月、夏の終わりに寂しさを感じていたが、秋や冬が楽しみになるような美しい文章だった。
日常を繊細に描く小説を読みたいときは、またこの作者の本を探したい。

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