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BA.5対応型ワクチン接種後の死亡事例の報道から思うこと①~なぜ死亡診断書の死因が急性心不全なのか~

11月5日愛知県愛西市でBA.5対応型ワクチンの接種後に、せき、息苦しさ、嘔吐などの症状が出現したが、アナフィラキシーの治療を受けないまま亡くなった方いたと報道されている。
 
少し問題の本質とはずれるかもしれないが、今回の患者さんの死亡診断書について気になったことがあったため書きたいと思う。
私が気になったのは、報道された方の死亡診断書に死因「急性心不全」、その原因が「致死的不整脈」と記載されていたことだ。(ニュース画像より)
 https://news.yahoo.co.jp/articles/0db9c347573d493de2c30d69862b4ea0f7a4b062
「ワクチン接種会場で心肺停止後に搬送された」と報道されており、もしこれが事実ならばなにをもって致死的不整脈と原因を断定できるのだろう?
接種会場には当然AEDなどはあったであろうが、それをつけた際に心室細動(致死的な不整脈でAEDを装着し早期に除細動をかけることで救命できることがある)と診断されたのか?
そしてその致死的不整脈に対してAEDを装着したのに、心拍が戻らなかったのか?
もしくは病院へ搬送後に心拍再開し、その後に心室細動などの致死的な不整脈となったのか?
でも、その場合でもそもそもの心停止の原因を致死的不整脈と言えるのか?
 
救急搬送時に「ワクチン接種後の容態急変」という情報は当然搬送先の病院に伝えられているはずであり、だとすれば、アナフィラキシーショックで急変した可能性をまず第一義に考えるのではないかと思う。
報道されている臨床症状からもアナフィラキシーショックが疑われるにもかかわらず死亡診断書には記載されていない事実が気になった。
 
医療安全管理者として勤務していた頃、院内全ての死亡事例についてカルテ記載を確認しており、今回のような病院到着時に心肺停止であった事例(CPA OA)についても確認していた。
※CPA OA(cardiopulmonary arrest on arrival)とは、医療機関へ来院時に、心機能、肺機能のいずれかまたは両方が停止した状態をさす 日本救急医学会HPより
特に病院到着時に心肺停止だった事例は、医師が診断治療している過程での予期できる死ではないので、死亡診断書の記載は慎重になるべきである。
医師の記載する死亡診断書の死因はそれだけ重要であり、だからこそ医師法第21条には「医師は、死体またや妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない」と記載されている。
 
東京都監察医務院のHPをみると“異常死届出の判断基準(医療機関向け)”というのが載っている。私の勤務している病院では、東京都監察医務院が出しているこのフローを参考としていた。
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kansatsu/iryou.html
これをみると医師が死亡診断書を記載できるのは、病死(内因死)で死因がきちんと確定される場合のみだと分かる。
 
今回の症例の場合、このフローをみると分かる通り新規患者の院内死亡(CPA OAを含む)にあたると思われるが、内因性の死因が“確定”できないと推定されるので、診断のつかないCPAOA症例として警察に届け出を行うべき事例である。(当然、届けていると思うが)
 
朝普通に会話をしてワクチン接種に向かった家族が、突然亡くなる。
しかも、医師・看護師がそばにいたにも関わらず、きちんとした医療処置を受けられていなかった可能性があると残された家族が知る。
本当にワクチン接種によるアナフィラキシーが原因なのか。
もしそうならばなぜきちんとした対応がなされなかったのか。
悔しいだろう。真実を知りたいと思うだろう。
 
死亡診断書を書いた医師は、搬送先の医師だろうからこのワクチン接種後の容態急変のその場を見ていないのだろう。
だからこそCPA OAの死亡診断書の記載は、慎重にならなければならないと思う。

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