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華金はソロ活に向いてない

珍しく、仕事が早く終わった。
飲みに行く予定が、ドタキャンになった。
なんとなくまっすぐ家に帰りたくなかった。


なぜなら今日が金曜日だから。


町を歩く人も、私も、嬉しそう。
いや誇張表現ではなく、雰囲気が晴れやかな気がするのだ。

水曜20時の銀座線のあの灰色の空気感よ。
あれに比べればみんな多少なりとも暖色のオーラが出ている。


そんなこんなで、三軒茶屋のカフェに行った。

三軒茶屋のカフェ。響きだけでシズル。
地名の持つイメージは、どうしてこんなに強いのか。

そしてどうして我々は即座に共通認識が浮かぶのか。

下北沢のカレー屋。
銀座のバー。
上野の喫茶店。


目星をつけていたカフェが2つある。

ひとつはこないだ訪問したから、
どうせなら夜からしか空いていないここにしよう。
と、茶沢通りをてくてくと歩く。

先客が3組。
男性1人、女性2人が2組。

店内は薄暗くて、本が並んでいる。

パスタと、紅茶をオーダーし、通知が鳴り止まない社用携帯を伏せる。

終業したのに通知が来るといちいち確認してしまう癖がある。

ライフとワークのバランスの取り方が下手くそだ。
ライフしていても、ちょこちょこワークが割り込んでくる。
通知を追わないと不安になる現代病。


紅茶は素晴らしかった。
何かの花の香りがふわっと広がる。
家で飲む安物のティーパックと、惰性で使っている百均のマグカップで飲むのとは、当たり前だが全然違う。

棚に置いてあった、校閲の人が書いた本をパラパラめくる。
この本の校閲は、自分でしたのだろうか。


私の席の前方にいた、どうやら女子大学生たちのテーブルにパフェが運ばれる。
そこから彼女たちは、ほんとうに5分間、ずっと写真を撮っていた。


これだからインスタ映え女子は…とかは言わない。が、アイス溶けないか心配だった。


写真を取り終わったら、パフェに一瞥もせずスマホを片手に食べる。


おそらく、小さくて白い文字で「おいしすぎた」と書き、位置情報も添えてストーリーズで全世界発信しているのだろう。


私はパフェの気持ちを考察した。

「見た目だけよけりゃいいんだ。写真撮ったら終わりなんだ。ボクの中に、歯が折れるほどのスーパーハード木の実とか入っててもいいんだ!」

と、くだらないことを妄想していたら、
隣の席にカップルが来た。


彼氏は全身真っ黒のセットアップを着ている。
こなれている感じかと思いきや、彼女を下座に座らせる。

まあこのジェンダーフリー時代、上座下座どうこうなんてもはや化石的だが、服はスマートなのにそこが乖離していて気になった。

男「本めっちゃあるやん」
女「読まないくせに〜」
男「バレた?」
爆笑


え?

何がおもろかった?

よく見ると、大学生らしかった。
大学生であってほしい。

私調べだが、関東人のくせに関西弁のイントネーションで喋る男は、例外なく、おもしろくないやつだ。

そこから大学生カップルはメニューを物色する。
いや、メニューを眺める前に、メニューと自分の写真を撮っている。

これまた珍しく、彼女が彼氏の写真を。
だから彼氏が上座の、背景的に本がたくさん写って映えるほうに座ったのか。

そして注文。

「アイスラテと、パフェと、モンブランを」
「当店、カフェですので、お一人様ひとつお飲み物を頼んでいただきます」
「あ、はーい」
「また伺います」

「ヒソヒソ…コーヒーならいちばん安いよね…」

はい学生〜。学生ですこれは。
背伸びしたかったんだね。
映える写真、プロフィールかなんかにしたかったのかな?


事件はわたしが少し優しくなったときに起きた。


ブッ


は??????


………は????


え、


屁、こいた?


嘘でしょこんなおしゃれなカフェで?

きっとコップがズレる音だよね。


彼女「ヒーッヒッヒッヒwwwちょ、やめてよ」

明石家さんまか、ディズニーの魔女くらいの引き笑いだ。

だめだ。

私は今、
このムーディーな雰囲気の中、
本を読み、
紅茶を楽しむ中、
隣で、屁を、こかれた。


…………………。


よくTwitterまたはxで、カップルを目の敵にする投稿を見つけては、僻みだろ、言い過ぎだろと思っていたが、少し気持ちがわかった。


ふたりの世界すぎて、周りへの配慮が著しく欠けたタイプがこの世には存在するのだ。


私はまず、オーナーに想いを馳せた。

自分がこだわってオープンした愛するお店で、屁こかれたら、私なら出がらしのコーヒー出すな…


そして、椅子にも想いを馳せた。

おしゃれなカフェの一員としてプライドを持って椅子やってるのに、まさか自分の上で爆音の屁こかれるとは思ってもみなかっただろうな…


デザートも頼もうとしていたが、

相変わらずつまらん関西弁を話す男と、
ヴィランのような引き笑いする女と、
無表情ノールックでパフェを食べるJDたちの、

情報量が多すぎて、退散した。


金曜日。
みんなが浮き足立つ曜日。

また水曜あたりに、ひっそりリベンジしたい。








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