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自己肯定感とユミの細胞たち

 何の気なしに読み始めたラインマンガ「ユミの細胞たち」。スキマ時間にラインマンガで気分転換をすること早や数年。大分お世話になっている。
 利用していると、あなたが好きそうなマンガが自動的にオススメに上がってくるのだが、長年読んでいるとオススメされるマッチングの精度もどんどん上がってくる。
 あんた〜私のこと、よーけわかってくれてるやないの。どっかの姐さんのようにラインマンガに呟きたくなる。それくらい、自分の嗜好を丸わかりされているのも少し気恥ずかしいが、そのオススメ欄に「ユミの細胞たち」が上がってきた。

 最初は、いやいやこれはハマらないでしょと思いながらも、指は条件反射のように画面をタップしていた。
 「ユミの細胞たち」は、主人公のアラサー独身女性のユミが恋に奮闘するラブコメである。
 これだけ書くといかにもありきたりな設定だが、ユミの細胞たちというタイトルの通り、このマンガでは、ユミの頭の中にいるバラエティー豊かな細胞達が、ユミの為に現実世界と戦いながらも細胞達の世界の物語も広がっていく。
 例えばユミが片思いの相手と会話をしている時。頭の中では、細胞達が相手の意図をはかりかね悩んでいると、名探偵細胞が現れ、相手はこう思っているに違いないから次の返しはこうだと理性細胞に意見する。
 しかし結果は大ハズレ。読みが外れた名探偵細胞は他の細胞達からボコボコにやられるという何ともユーモラスな世界だ。
 それら多くの細胞の中心的存在が、プライム細胞と呼ばれる、その人の原動力となる主要細胞だ。 ユミの主要細胞は愛細胞だ。
 ユミが片思いの相手とデートに漕ぎつけそうになると、愛細胞を中心とした細胞達が総動員で胸高鳴らせ応援し、ライバルが出てくると戦闘モードに入ったり、ユミの悲しい感情の波に押し流されそうになったりと大騒ぎである。

 私の頭の中にもこんなに愛らしい細胞達がいて、必死に私を動かしてくれているのかもと、読んだ人なら誰しも思うだろう。
 そして、私にとっての主要細胞、原動力となる細胞は何だろう?と一旦手を止めて考えてみるはずだ。
 ユミにとっては愛だ。それが、お金だったり下心だったり腹ペコだったりする人もいるだろう。
 さて私は?私にとっての主要細胞、原動力とは?残念ながら、私にとっての主要細胞は不安細胞かもしれない。こうなったらどうしよう、あんな言い方してよかったのかな。いつも不安に苛まれている。安心したくて他者からの承認を求めている。

 しかし、この作品を読んでいると、こんなに私の為に働き応援してくれている細胞達がいるのだから、私は私を1番に扱っていいのだという気持ちが自然と湧き上がってきた。
 いわゆる自己肯定感に近い感情だろうか。自責の念で思考停止し自分を粗末に扱い、誰からも責められたくないと殻に閉じこもっていたが、こんなに沢山の細胞達が私にエールを送ってくれている。大事に扱ってあげなければ細胞達に申し訳ない。そんな気持ちになってくるのである。
 そして日常の中でも、あー今、ヒステリウスが暴れたいと叫んでるんだな、それを理性細胞達が必死に抑えようとしてくれているな等、自分の状態を俯瞰してとらえることができるようになってくる。
 自分の中に何人もの味方がついているという心強さと充足感。生き方が不器用なのも何一つ変わらないけれど、細胞達がいてくれると思うと、自分を大切にしてあげなくてはと思えてくるのだ。

 長くなったが、本作はコミカルで気軽に読めるだけでなく時折大切な気づきも与えてくれる。代わり映えしないと思っている日常に愛らしい細胞達の姿をしばし感じてほしい作品である。
 

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