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アラフォーのスタバデビュー

 大きな声では言えないが、アラフォーの私はこの年になるまで1度もスタバに行ったことがない。
 そんなこと言ったら、国民的アニメの元祖婿殿マ○オさんばりに、みんな両手両足をピーンと伸ばし
「ええーっ」
とびっくりするに違いない。
 だから、スタバの話題になっても、へへへと不気味なうすら笑いを浮かべて
そうだよねーうん、美味しいよねーなどとコーヒーではなくお茶を濁していたのである。
 超大貧民家庭で育った私は、そもそも外食はおろか自販機でジュースを買うことすら一大イベントであった。
 自分でお金を稼げるようになってからも、付き合いの飲み会には繰り出すものの、スタバにはなぜか足が向かなかった。
 私の中でスタバの敷居を高くしたのは、漏れ聞こえてくるトールだのなんだの謎の呪文。年を重ねれば重ねるほど、なんだこいつ呪文も知らないのかと店員さんに見くびられる気がして、ますます行けなくなった。
 自意識過剰。被害妄想の大暴走である。
それなら友人を誘って連れて行ってもらえばよかったのだが、同世代の類友は皆一様に手料理を持ち寄り鍋をつつく節約家ばかり。スタバに誘うのは忍びなかった。こうして私はすっかりスタバデビューの機会を失ったのである。

 そんな私がつい先日。ようやく禁断の園に足を踏み入れた。チュクチューン。ラブ・ストーリーと同じくらいに、その機会は突然訪れたのだ。

 私はコロナ禍で随分会えずにいた年上の先輩2人とランチの約束を取り付けた。
 看板メニューに舌鼓を打ちながら話に花が咲く。そして、店をかえてお茶しようということになり車に乗り込むと、助手席の私は近隣のカフェを急いで検索した。
「○○か△△△ですかね。」
そして近くの△△△にしようとなり、ワイワイ話しながら目的地を目指していると運転してくれている先輩が
「あれ。こんなところにスタバがある。スタバにしよう。」
さっとハンドルを切り、滑らかに駐車場に入る。私はちょっとドキドキしながら
「実は私スタバ初めてで。」
「ええーっ。マジで」
かなりびっくりされた。てへへ。照れ笑いしながら恐る恐る2人に着いていく。

 オシャレな店内に入ってすぐ私の目に飛び込んできたのは、慣れた様子でノートを広げ、ワイヤレスイヤホンをつけて勉強している小学生の姿だった。
しょ、小学生がスタバで勉強。勉強といえば近くの図書館だった私には、それこそ
「ええーっ」
と両手両足突っ張りそうなくらい驚いた。
 キョドキョドしている私にも店員さんは爽やかな笑顔を見せて迎え入れてくれた。
 先輩は、
「限定にする?それかこっちの定番もあるよ?」
原始人化している私を促してくれた。
「じ、じゃあこれを。えと、トールでいいんですかね?」
店員さんではなく先輩に尋ねると、うんうんと笑いながら
「この子、スタバ初めてで」
と店員さんに話していた。ギャー恥ずかしい。けど何だか自分でもおかしくなってきた。
 毎日同じことの繰り返しで、初体験なんてものは青春の彼方に置いてきたつもりだったが、何歳になってもいくらでも初めては味わえるものなのだ。
 何とか席につき、お上りさんのようにキョロキョロ辺りを見回す。
 隣には、パリッとしたスーツ姿のイケオジが、ノートパソコンで仕事中。さらに奥には乳幼児連れのママ達。スタバデビューが赤子とはさすが令和世代である。
 そうこうしていると、店員さんの透き通るような声が。呼ばれているらしい。
慌ててカウンターに取りに行くと、これまた丁寧に説明していただき、とびきりの笑顔をみせてくれた。スタバの店員さんは、皆さん間違いなく私の中のベストスマイルオブザイヤー受賞である。呪文を知らないくらいで、蔑むような人など私のただの妄想だと心底反省した。
 席に戻ると、お二人が盛り上がっていた。ふんふんと私も頷きながら、神妙な面持ちで初めてのキャラメルフラペチーノに口をつける。
 なんということでしょう。びっくりして、シジミのような目が、アサリくらいには大きく開いた。
 美味しい!美味しすぎる!
大声で叫びたい気持ちをグッとこらえた。いつもは真剣に話を聞く私だが、この時ばかりは話半分になっていた。
うんうんそうですよね〜と言いながら、しまいにはガマンできず
「すみません。あまりに美味しくて、あんまり話が入ってきてなくて」
ご馳走してくれた先輩に失礼極まりない発言まで飛び出してしまった。
「いや〜よかった。スタバにして」
お二人はケラケラ笑いながら、そう言ってくれた。


 楽しい時間はあっという間に終わりをむかえ、さてと立ち上がると、飲み終えたカップを先輩が下げようとしてくれたので、
「私が下げますよ」
とトレイを持ち、颯爽と先程のカウンターに持って行くと
「違う、違う。こっちに下げるんだよ。」
と先輩が慌てて本来の場所を指差して教えてくれた。
「え?そうなんですか」
うっかり八兵衛。てへへと頭をかいて、持って行くとまたしても店員さんが
「ありがとうございます。」
と、優しい笑顔で声をかけて片付けてくれた。
 初めてのキャラメルフラペチーノはとびきり美味しく、さらにその美味しさを引き立てているのは、この空間を作り上げてくださっている店員さん達のステキな笑顔なのだなあと、しみじみ感じたスタバデビューであった。

 


 








  

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