宇多田ヒカルは

最高です。
物心ついた時から宇多田ヒカルの曲は日常にあって、何曲かサビは知っていたし、歌詞も覚えやすくて(意味はよく分かっていなかったけど)口ずさんでいました。でも彼女の凄さは大人になってから気づいて、それからはもう本当に大好きになってしまったんです。今回はその話。


ちょっと変わったミュージックビデオ

宇多田ヒカルの代表曲ともいえる「光」。キングダムハーツのテーマでも有名でした。リリースされたのは02年の3月。

私は当時8歳で、テレビでこの曲のミュージックビデオを見たのを覚えています。率直に「変だなあ」と思いました。宇多田ヒカルがワンカットで皿洗いをしながら一曲歌い上げる映像なのです。
音楽番組の司会も「変わったミュージックビデオですね。面白いですね」「宇多田さんが終始皿洗いをしていると話題(笑)」みたいに紹介していて。

しかし!この皿洗いMV、実はめちゃくちゃ深いんです!大人になってから分かることって色々あるけど、それが宇多田ヒカルのMVだったとは。でもこの気づきは自分にとってまさに雷に打たれたならぬ、光に撃たれたような衝撃でした。
その衝撃を語らせてください...!

皿洗いを理解するためにはまず、この曲の主人公に恋人がいることを知るべきです。
歌詞を見ていきましょう。

どんな時だって
たった一人で
運命忘れて
生きてきたのに
突然の光の中、目が覚める
真夜中に

静かに出口に立って
暗闇に光を撃て

今時約束なんて不安にさせるだけかな
願いを口にしたいだけさ
家族にも紹介するよ
きっとうまくいくよ

どんな時だって
ずっと二人で
どんな時だって
側にいるから
君という光が私を見つける
真夜中に

これは1番の歌詞ですが、冒頭だけならファンタジーな世界?と思わされます。全体を聴くとラブソングであると分かります。愛する人のことを、自分を導いてくれる光、希望であると比喩してます。素敵です。

Bメロ「今時約束なんて不安にさせるだけかな」ここで、主人公が気持ちを吐露。不安にさせるだけかな、と主人公が不安になってるワケです。どんな約束の、どんな不安なのか?「家族にも紹介するよ」ここで初めて、この曲の主人公と愛する人の関係性がなんとなく見えてきますね!

まあまあ長い期間付き合ってる恋人で、お互いの友達はもう知ってる間柄なのかな。家族にも紹介するということは、結婚も間近と考えていいでしょう。でも相手にはまだ具体的な結婚の話はしていない。いつその話をしようか、どんなふうに伝えようか、という段階に見えます。この曲の主人公が女性か男性かは分かりません。ですがこのMVの宇多田ヒカルはこの歌詞の通り、結婚間近の恋人の帰りを待つ人で、同棲もしくは半同棲をしているんだと思います。

大袈裟と地味の調和


歌詞とは、いくらでも壮大に出来るものです。小難しい言葉や、劇的な表現でふんだんに盛り上げ、日常会話では使わないキザな言い回しを使ってもおかしくなりません。しかし余りにも大袈裟すぎると、ナンセンスな物にもなりますよね。
宇多田ヒカルは大袈裟な表現と日常会話の絶妙なバランスを保って、なんともいい塩梅で調和のとれた歌詞を生み出します。「光」も例外ではなく、1番と2番のAメロでは「暗闇」とか「うるさい通り」とか抽象的でファンタジー的な連想させる世界観のまま進みます。しかし2番のBメロでは「今日はおいしい物を食べようよ」と、余計な心配はせずに目の前の幸せだけを享受していいよ、と仕事終わりなのか、弱音を吐く自分を甘えさせてくれている優しくて少し脳天気な恋人が話しかけているように思えます。

劇的な表現で空想の世界にいた聴者を、こういった日常会話でよく使うような言葉でいきなりリアルに引き戻すのです。その引き戻された瞬間に、「ああ、宇多田ヒカルには空想と現実の境目はなくて、常に日常の中に抽象的な言葉が流れていて、彼女にとって歌詞は"歌詞"ではなく、思考なんだ」と感嘆させられるのです。

MVに戻りましょう。宇多田ヒカルに注目すると、終始ニコニコしながら皿洗いをしています。「皿洗いが楽しくて仕方ないゼ!」~皿洗い職人宇多田ヒカル~ ということではありません。ここには「変わったミュージックビデオですね〜アハハ」では片付けられない、純愛映画のような意味があったんです。

ニコニコ皿洗いの理由

おそらく多くの人は、何か作業しながら好きな人のことをつい考えてしまった、という経験があるのではないでしょうか。

宇多田ヒカルがニコニコしながら皿洗いが出来るのも、実は、皿洗いには全然真剣に取り組んではいなくて。恋人のことや、相手と自分のこれからのことを考えて高揚していて。少し不安もあるけれど、これからの未来にとにかく期待してしまって、相手への愛が溢れてつい口元が緩んでしまう。こんな気持ちに満ちた、恋人が帰宅するのを待つ"彼女視点"ゆえの微笑みなのだと思います。
(私は学生時代、好きなアイドルのライブに行くことを考えては、バイト中ニヤニヤしていたということが、よくありました!)

裏を返せば、相手と自分のことを考えたり、これからの日々を想像したり期待したりする瞬間って、何か日常的にやり慣れた作業をしている時だと思います。
例えば、デート前のメイク中でも、結婚式用のドレスを選ぶ時でも、一緒にドライブをしている時でもない。皿洗いのような何気ない日常に行われる地味な作業、使い慣れた物(食器)を扱う時なのかなと。

そうなるとつい考えてしまう、楽しいことや好きなこと、そう、恋人のことを考えよう。もはや自分が「運命忘れて生きてきたのに」、そんなことを言ったことすら忘れて、あの人のことだけを考えている。何気ない日常を切り取った時に、こんな風に君が帰ってくるのを待つなんて、これほど平穏で幸せな時間はないよね。という宇多田ヒカルのメッセージがこの皿洗いには込められていると思うんです。

こんな愛情溢れる瞬間、日常の幸せを噛み締めるひとときを、皿洗い以外で表しきれるでしょうか。

「光」リリース時、音楽番組HEY!HEY!HEY!にてダウンタウンの松本人志に、食器が綺麗に洗われていない、と指摘されたらしい。ウキウキで恋人のこと考えて皿洗ってたらさ、新婚旅行どこ行こうかなとか考えてたかもしれないよね、そら雑にもなるわな!

くどくどと

長文で語ってしまいました。
誰かに分かって欲しい!知って欲しい!という思いももちろんありますが、1番は自分が忘れないために書き残したという意味のほうが大きいです。

また宇多田ヒカルについては書きたい気持ちが出てくると思います。

それでは。

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