お年寄り図鑑。我はどう老いるか

腰が痛い。30代に入った頃から、腰痛持ちだ。
座り過ぎると、運動し過ぎると、神輿を担ぐと腰が痛くなる。
年に数回整形外科に行き、ボルタレンや湿布を貰って、痛みを止め、また次の痛みが来るまでやり過ごすというのが、ここ10年の定番だ。

久々に整形外科に行った。レントゲンを撮って、診察を受けて、たっぷり3週間分の薬をもらった。
平日午前中の整形外科は、高齢者の占有地帯だ。四十路なんてまだまだひよっこだ。総勢15名程度の日本の栄枯盛衰を生き延びてきた方々が鎮座していた。

ここで流れる時間の速さは、外界とは全然違う。診察券を出すのも、リハビ
リ室に移動するのも、病院スタッフとの意思疎通も、お会計もゆっくりだ。
自分がいかにセコセコ生き急いでいるかを思い知る。
そして、テレビを見ない若者が増えたと言われて久しいが、待合室でスマホに釘付けになっている人なんて一人も居なかった。皆、字幕放送されているテレビジョンに見入っていた。

その中に高齢のご夫婦が2組居た。一組はご婦人が脚を痛めているようで、もう一組は紳士の方が脚の調子が悪いらしい。
一組は紳士がご婦人を労わるように気遣い、穏やかに待合室で過ごしていたが、もう一組の脚の悪い紳士は終始機嫌が悪い。付き添っている妻に八つ当たりよろしく、周囲が目線を投げかけるほど声を荒らげている。そして妻は、機嫌の悪い夫をなだめることも出来ず、オロオロしているようだった。
どちらの夫婦も何十年も連れ添っただろうし、夫婦の間にある愛情は誰にも分からないが、配偶者の具合が悪い、いわゆる『やめるとき』をどう乗り切るか、対照的な夫婦だった。

高齢者が多い場所に居ると、様々な年の取り方を見ることが出来る。
穏やかなお年寄り、お喋りなお年寄り、ちゃきちゃきしたお年寄り、憤まんを色濃く顔に滲ませているお年寄り、キレるお年寄り、認知症特有の空を見つめる表情を浮かべるお年寄り。十人十色だ。
長く生きた者だけに許される、体裁、世間体の向こう側に居る、素のままの姿だ。『生き様』という言葉が頭に浮かぶ。

私はどんな高齢者になるのだろうか。割と気が強いタイプなので、キレるお年寄りの素質はあるように思う。ニュースや政治ネタに関心が強く、世代間ギャップにも敏感なので、「最近の若いモンは・・・」と口癖のように不満をぶちまけている可能性も高い。また、人に頼るのが苦手なので、ひとりで歯を食いしばって、歩いて買い物に行き、お会計に手間取り、背中に行列を背負うような事態も引き起こすだろう。やれやれ、どうしたものか。
残念ながら、周囲に好かれるカワイイおばあちゃんになれる気がしない。周囲に好かれることを気にしている時点で、私はまだまだガキだ。

そして、配偶者も子どもも居ない高齢者は、孤独以外に人生を伴奏してくれるものは居るのだろうか。何を支えに道を進めば良いのか。そう考えたら、腰以外も痛くなってきた。あぁ、生きるとは常に苦行なり。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?