見出し画像

【書く習慣】子猫

今日は満月か。
外に出て気が付いた。

仕事で煮詰まった時は散歩に限る。
コンビニでコーヒーでも買って、近所の公園で一服しよう。

昼間は子供たちやお年寄りで賑やかな公園も
夜は誰も来なくて静かだ。
そこだけ切り取られたみたいにしんとしている。

だが、珍しく先客がいた。

少年だろうか?
透き通るような白い肌に銀色の髪。
アニメに疎い俺でも、二次元から飛び出したとはこの事かと思うほどに美しい。

少年はこちらに気付くと柔らかく微笑んだ。
「あなたを待っていました。」
きょとんとする俺を可笑しそうに見る。

「分からなくて当然ですよ。でも、これで思い出すかな?」
少年が指で宙に丸を描く。
すると目の前が光に溢れて吸い込まれた。

俺は満月の夜に歩いている。
今晩は冷えるな。
足早に家に戻ると、戸口の前に小さな塊が落ちている。

近づいてみると弱々しくみぃと鳴く。
その声ももう出す力はないのだろう。
俺はせめて最後ぐらい穏やかに過ごせるようにと
両手で抱えて温めてやった。

手の中のそいつはまた一声みぃと鳴くと
日向で眠るように息を引き取った。

そして、また光に包まれた。
気が付くと公園に戻っていた。
少年がこちらを見ている。

何もかも思い出した。

「僕、あれからずっとあなたにお礼が言いたくて。
   何度も生まれ変わってあなたのそばにいました。」

少年は寂しそうに微笑んだ。
「でも、もうこれが最後なんです。
     記憶を保ったまま生まれ変わると魂をすり減らすから。」

少年が少しずつ光に霞んでいく。
「最後にちゃんとお別れができて良かった。
    僕、とても幸せです。ありがとうございました。」

公園に一人取り残された俺は
ベンチに置かれたコーヒーを見つめたまま呟いた。

今度は俺が会いに行くよ。


この記事が参加している募集

習慣にしていること

サポートありがとうございます😊 あなたのおかげでとても幸せです(*˘︶˘*).。.:*♡