「あなたのACPはなぜうまくいかないのか?」

すごい本が出た。
米国で緩和ケア医をしている中川俊一先生が執筆したACPの本だ。
中川先生は3 stage  protocolという面談における「型」の提唱者でもあり、ACPがうまくいかない理由をこの型の理論も用いながら明解に解説されている。

3 stage protocolは、ACPだけではなくすべての意思決定で効果を発揮する。
医師は臨床家であるならばどの診療科を専門にしても患者さんとの面談は避けて通れないが、面談のスキルを学ぶ機会はほとんどない。研修医のときに上級医の先生の面談をみてなんとなく学ぶくらいだろう。面談におけるテクニックやスキルを言語化して教えることができる上級医も少ないのが現状である。
3 stage protocolの型を用いることで面談の道筋が明解となり、学ぶ側にとっても教える側にとっても有用だ。秀逸なのは、面談がうまくいかなかったときに「なぜうまくいかなかったのか?」を明確にすることができ、面談スキル向上につながる点だ。なんとなく面談をやっていると何が悪かったのか、今後どうすればよいのかがわからず同じことを繰り返すことになる。この型では3つのステージを順番にクリアしていくことが必須となっており、患者さんの価値観に沿った意思決定支援が可能となっている。

また、ACPに限らず、がんの告知や終末期医療での患者とのコミュニケーションで役立つスキルがたくさん盛り込まれている。
「わたしは死ぬんですか?」
「本人には言わないで」
本人や家族から言われたら答えに窮する質問に対してどのように対応したらよいのか具体的に書かれており、実臨床ですぐ実践できる。死期が間近に迫っているとき、本人や家族の精神は非常にデリケートな状態なので、対応を間違えると簡単に信頼関係が損なわれたり最期の時間を有意義なものにできなくなる可能性がある。上記のようなよくある質問に対してはあらかじめ対応を学んでおくことが重要であると考える。

3 stage protocolを用いて面談を行なっている医療機関は日本ではまだほんの一部だと思う。この本を読んで実践することで、患者さんの価値観に沿った意思決定支援ができるようになる先生が増えることを願っている。


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