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気軽に野鳥撮影を始めるための10のヒント

「野鳥の写真って難しくないですか?」と聞かれることがあります。花鳥風月と言われるように、美しい自然の風景を代表するモチーフとして鳥は昔から歌や絵画に取り上げられています。そんな野鳥の写真撮影ですから、ハードルが高そうに見えます。
でもご安心ください、一つひとつ階段を登っていけば誰でも撮れるようになります。この記事では、野鳥の写真撮影を始めて2年目の私が経験した日々の出来事から、楽しく鳥の写真を撮るためのヒントを紹介します。

1.装備にこだわらない

 野鳥の写真撮影をしていて、女性のフォトグラファーに出会うことがありますが、彼女たちの多くがAPS-Cのカメラに、300mm の望遠レンズを着けて、素晴らしい鳥の写真を撮っています。私はこれで十分だと思います。なぜなら、フルサイズのカメラに長尺レンズを着けて三脚に装着した時の重さは3~5㎏になってしまいます。これでは女性が持ち運ぶことはとても大変です。でも、APS-Cに300mmだと1.5㎏程度ですので、気軽に持ち運んで手持ちで撮影することができます。
 みなさんは「サンクコスト効果」という言葉をご存じですか?これは、すでに支払ったコストに気をとられ、合理的な判断ができなくなってしまう心理効果です。あなたも、「高かったから断捨離できない」「もったいないから」などの理由で、チェンジすべき決断を先延ばししたことはありませんか。
 写真の機材は高額ですから、簡単に買い替えることができません。宿命的に機材に縛られることになります。装備にお金を掛ければ掛けるほどサンクコストに引きずられることを覚えておきましょう。
 最近、カップルのバードウォッチャーを見かけることがあります。日光に当たりながら上を向いて好きな人と会話して歩くのだから愛好者が増えるのも頷けます。装備にこだわらずに気軽に始めることをお勧めします。次の写真は、男性はフルサイズのカメラに長尺レンズ装着しているようですが、女性はAPS-Cカメラに300mm の望遠レンズを着けているようにお見受けします。愛は末永くお幸せをお祈りしますが、野鳥写真の装備は、いつでも取り換えられるよう、気軽な装備で始めましょう。


2.早朝と夕暮れが美しい光

 鳥の表情を美しく撮るのにはどう構えたらよいのでしょうか。いつどこから飛んでくるかわからない鳥を、どちらから撮ろうかと考えるのは難しいことですが、1日の中で最も鳥が美しく撮れる光は早朝と夕暮れ時に差してくれます。
 また、鳥の背景となる木々や草原なども斜光が差してくれた方が、美しく感じます。おまけに、鳥はこの時間帯に非常に活発になる傾向があります。
 撮影で立ち入ることができる範囲が限られると光の方向を考慮するのは難しくなりますが、どのように光が変化するのか意識してカメラ位置を決めたり、撮影環境に危険がないかロケハンしておくことが大切です。

朝の逆光を使ってウグイスの羽を浮き立たせた
幸いに手前の水面の反射で表情を出すことができた
コミミズクの顔に西日が当たるようシャッターチャンスを待った
背景に群衆を入れた構図で現場の雰囲気を伝える

3.舞う鳥を撮ってみる

 鳥は空を飛ぶので人間はいつも鳥を見上げて憧れています。もし飛ぶ鳥を写真に撮ることができたら、それだけでワクワクしてしまいます。
 「野鳥撮影にオススメのカメラ!初心者でも美しい野鳥写真が撮れる」といったキャッチコピーを目にしたことはありませんか。"野鳥撮影"はデジタルカメラのセールスポイントのひとつです。
 鷹のように大型の鳥は空高く飛んでいます。どうしても青空を背景にした写真になってしまいますが、これは「空抜け」という失敗写真。
 そこで私は、時々水面が背景になるような位置で鷹を狙っています。「水は低きに流れる」という言葉があるように、潜在意識の中に「水=低い」という感覚がありますので、一番低い水、その上を飛ぶ鳥、それを上からカメラで切り取る人間というように、人が優位という意識を刺激する写真にすることができるのではないでしょうか。
 また、鷹ならではの情景描写としては、大きな魚を掴んで飛んだり、目にも止まらぬ速さで宙返りしたりするハラハラ・ドキドキのシーンがあります。私はミサゴが川に飛び込んで魚を捕獲するところに出会って、すっかりミサゴのとりこになってしまいました。

ミサゴが川に飛び込んでニゴイを捕獲 前景と背景の両方で心地よいぼかしが得られた
低空を飛んでくれたおかげでオオタカのお腹とカラスの背中が撮影できた
渡良瀬遊水地では鷹見台に立ってケアシノスリが撮影できた

4.目を鋭く、顔は明るく

 生き物の撮影では、目は絶対に見栄えがよくなければ100%没になります。最近のミラーレスカメラは生き物の目にフォーカスできる機能が備わっていますが、そうしたことが背景になっています。
 しかも被写体を自動追尾して連写してくれるので、とても生き生きした写真に仕上げることができます。フィルム写真の時代であれば腕まくりして一点入魂なのでしょうが、今の時代に求められるスキルは、撮りまくった中から「目が鋭く、顔が明るい」写真を探し出す根気ではないでしょうか。
 普段の野鳥撮影でも、家に帰ってくると2千枚以上撮っていますので、その中で鳥の名前を一つひとつ調べ希少性を確認して、さらに味のある作品に絞り込むのは大変な時間と労力を要しますが、没入感に浸りながら過ごすのはこの上ない時間となります。

午後の日差しを受けて優雅に飛ぶコミミズク

 私が愛用するSONYのミラーレスカメラで鳥を撮るときは、[AF時の顔/瞳優先]を選択して [顔/瞳検出対象]を[鳥]に設定しています。こうするだけで鋭い眼差しで飛ぶ鳥の姿を捉えることができます。顔に日が当たる位置に飛んでくれた時は、シャッターを押しっぱなしにして連写で追っかけます。サイレントモード設定で撮影しているので周りの人は気づきませんが、シャッター音をONにしすると、まるで機関銃で鳥を撃っているような雰囲気になります。
 余談ですが、以前使っていた一眼レフは追従しているとバッファメモリがへたってしました。仕方がないので休み休みカメラの機嫌を伺いながら撮っていました。でも、今のミラーレスカメラに変えてからは、連写でへたったことは一度もありません。時々動画を撮っていますが、隣のレフ機のシャッター音も否応なく録音されます。この時シャッター音が途切れているのがわかるので、昔の自分を思い出して、ついニヤケてしまいます。飛ぶ鳥を撮る目的でミラーレスを購入するのであればバッファメモリの性能も重要な要素になります。

ハイイロチュウヒ♂が塒に戻って来た いよいよ集団の舞の始まりか

 暗くなってから鳥を撮ることは今までありませんでした。でもハイイロチュウヒは夕方になって自分の塒(ねぐら)に戻ってくるので否応なく夕方の撮影になります。
 ハイイロチュウヒは葦原の塒で群れで暮らしています。一日の最後、塒には雄が戻ってきて、群れの舞が始まります。この光景に惚れ込んで100人を超えるカメラマンがファインダー越しにその時を待っています。
 私がこの写真を撮影した時は、すでに日は傾いているのでハイイロチュウヒの表情を撮るのは一苦労でした。ハイイロチュウヒはフクロウのような顔盤で奥目なうえ、雄は灰色をしていて黒目が小さいので瞳AFの反応がイマイチです。でも、鳥瞳検出のおかげでご覧のような写真になりました。カメラがハイイロチュウヒの表情を捉えた瞬間に舞い上がってしまいました。

5.フレームを鳥で埋めてみる

 デジタルカメラは高画素になってきていますが、実際にSNSにあげるときはサイズを小さくしてUpすることになります。それであればトリミングしてサイズを小さくするのと変わらないように思います。堪えられる画質の範囲であれば、トリミングして鳥をフレームいっぱいに広げた方が迫力があります。トリミングしないことに拘る方も多いのですが、私はトリミングすることを気にしていません。
 とはいえトリミングなしでフレームを鳥で埋められたら、とても満足することができます。次のコウノトリの写真は、渡良瀬遊水地の展望台で撮影したものですが、トリミングしていません。しかも背景の葦原を心地よくぼかすことができたので、満足できる一枚になりました。
 この写真撮影の翌日に三番目の孫が誕生したので、コウノトリが運んでくれたのかなと感動しました。娘と孫の産院での写真がLINEで送られてきたので、このコウノトリの写真と一緒に組み写真にして娘夫婦にプレゼントしました。

コウノトリが葦原を飛んでくれたので背景を心地よくぼかすことができた

6.ストーリーを語る

 動物園にでも行かないと出会えない鶴に渡良瀬遊水地で出会えました。家に帰って調べてみると「カナダヅル(加奈陀鶴、学名:Grus canadensis)」だと判明。「Grus canadensis」でググると出てきますよ、次から次へ。カナダやアメリカの生息地情報が。
 これを眺めているだけで海外遠征の撮影旅行に行ったような気分になれます。ウイキペディアには「日本では稀な冬鳥としてほぼ毎年1-2羽が記録されている」と記されています。えー、その一羽が君かい。夢があるね。
 幸いにも空抜け写真なので、「今、ミシガン湖の畔だよ」と言ってもバレないかもしれません。でも、ちゃっかり合成画像で湖を入れちゃうのが今風かな。

カナダヅルは北米の鶴 渡り鳥は世界観を膨らませてくれる

 私が一番狙っているのは次の写真のようなシーンです。ミサゴは魚を捕る鳥なのでこのような情景になります。しかもですよ、撮影地は東京の多摩川。バス釣りのアングラーを横目に飛んで行く姿は爽快です。

ミサゴがブラックバスを掴んで飛んできてくれた


7.写真からマナーを学んだ

 ルールとマナー、野鳥を撮影していると考えさせられるテーマです。撮影場所は鳥を撮っている人ばかりではありません。様々な人が生活していたりレジャーを楽しんでいます。撮影している河原に平気で石を投げこむ男の子がいても咎めることはできません。むしろ私の方が「子供の遊びを叱る嫌な老人」と白い目で見られるでしょう。そんな時によく考えるのは、社会行動は法律や規制の範囲内であれば、他者を受け入れなければならないということです。公共地であれば先に来たからといって占有権を主張することはできません。人は譲り合い助け合って生きていかなければならないと、つくづく感じています。
 鳥を撮っていると「たとえ聞かれたとしても撮影地は教えなくてもよい」という暗黙のルールがあります。人がたくさん集まると私有地に立ち入ったり田畑を踏み荒らしたりということがあるからです。鳥を脅かさないということも大切ことです。
 とても考えさせられたのは「鳥の巣からひなを持ち去るものがいる」ということでした。こんなことが今でもあるのでしょうか。サントリーの鳥百科には「法律で捕獲禁止になった今でも、鷹の仲間たちのヒナの密猟が絶えないのは残念なことです」と記されています。鷹のヒナが闇ルートで取引されているのでしょうか。

クマタカは優雅に飛んでくれた

 「餌付けをしない」というのも大切なこととして公園などに表示されています。コミミズクの撮影に行ったときに地元のおばあさんが話してくれたのですが、
 「昔はねコミミズクに生きたネズミを与えて、カメラマンからお金をもらう人がいたのよ。ネズミとはいえ見世物にしちゃあかわいそうだわ。昔の話だけどね」
 これには言葉を失いました。そんな時代もあったんだなとノスタルジックに浸りました。

8.時間や季節が絵を作る

 夕暮れ時の一瞬だけ見ることのできるハイイロチュウヒの塒入り。私は次の写真のハイイロチュウヒの雌がとても気に入りました。切れ長の目と大理石の彫り物のような模様がとてもエレガントだと魅入ってしまいました。

エレガントなハイイロチュウヒ♀
夕暮れの中で千夜一夜が始まった

 「梅にウグイス」と言いますが、早咲きの彼岸桜に止まるメジロも春の風物詩。花の蜜を求めて、大型のヒヨドリとのせめぎあいになりますが、写真写りはメジロに軍配が上がります。

彼岸桜に止まるメジロ

9.身近な鳥で撮影練習

 手軽に撮影できて、しかも絵になる鳥が身近にいます。私がおすすめしたいのは鴨の群れが飛ぶ姿です。
 鴨は群れで何度も頭の上を飛んでくれることがあるので、流し撮りの練習にはもってこいです。360度飛んでくれますから、方角によって日の当たり具合で発色が変わるのが手に取るようにわかります。とても良い練習ができますので、ぜひお試しください。

マガモの群翔を追尾して連写の訓練をしてみた 

 幸せを呼ぶ青い鳥ルリビタキ。初めて出会ったときにとても感動したことを今も思い出します。
 ルリビタキは秋冬になれば都会でも見ることのできる鳥です。公園によっては鳥の飛来情報をネットで公開しているところがありますので、秋になったら調べて行ってみることをお勧めします。
 ルリビタキは、暗い林の藪の下などを好む鳥で、比較的決まった地点を単独で回っています。「藪系の鳥」とググると、ウグイスやミソサザイなどと一緒にルリビタキが出てきます。私の経験から「ここに来たよ」という情報があったら、その場所でじっと待つことをお勧めします。
 公園で、「まだルリビタキを写したことがないのでぜひ撮りたい」というお嬢さんに、「ここで一緒に待ちましょう」「ほら来たでしょ」と、初めての撮影を成功させたことがあって、とても感謝されました。

公園のルリビタキでフレームワークやカメラの設定を試してみた

10.心構え

  写真撮影は「行雲流水」という言葉がぴったりです。禅修行の言葉ですが、「空行く雲や流れる水のように、深く物事に執着しないで自然の成り行きに任せて行動するたとえ。 また、一定の形をもたず、自然に移り変わってよどみがないことのたとえ」と記されています。
 写真撮影はスポーツのように競争相手があるわけではないので、勝った負けたはありません。自然の中に身を投げ出して鳥が来るのを待ち、来ない日もあるので執着しないことが大切です。仕事をしていた時はYES/NOを求められましたが、鳥の写真に良い悪いはないので、ありのままを受け入れる心が大切だと感じています。


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