見出し画像

じっくり解説! 令和6年度共通テスト漢文(第3回完結編)~大学受験生応援コラム2月

資料の検討を終え、問題を全て解き終えます


’** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めていただき、ありがとうございます。大学受験国語の勉強に資する内容提供を目的に書いています。

過日行われた共通テストの漢文をずっと解説しています。ここまで解き進めてみて、大学入試センターが作りたかった理想的な形の問題になっているのではないかとの思いを強くしています。難易度自体はさほどでもないし、結果的によく知られた史実の確認に過ぎないという面はあるものの、それを資料を読解することで確認してもらうという試みには私は賛同します。では始めます。

’** 1 資料の検討を続ける ***

引き続き、【資料】の検討を進めていきます。今回はⅢとⅣです。

資料Ⅲ:
語句・・・
「人口に膾炙す」また古風な語句を出題したなと思いますが、用語集には結構載っています。受験生も少なからずご存知だったかもしれませんね。膾(=なます)も炙(=あぶった肉)も、よく人の口に合い好まれることから、「人びとに広く知れ渡っている」という意味です。

「幸シ」ハッピーだと言っているわけではありません。「シ」と送り仮名がついている以上、これはサ変動詞と取るべきであって、ハッピーでは形容詞または形容動詞になってしまい、品詞が合いません。これは「行幸(ぎょうこう)」、古文では「みゆき」と読みます。帝の外出のことです。古文常識の一つです(古文常識重要)。玄宗皇帝が10月に離宮に行ったと言っているわけです。ちなみに、読み方は「こうシ」。

資料の内容・・・今回出題されている「華清宮」の詩は大変有名であるが、歴史記録を見れば玄宗皇帝と楊貴妃が離宮に滞在した時期とライチが実る時期とが合わない。

前回検討したように、漢詩及び資料Ⅰ、Ⅱを見る限り、楊貴妃を愛するあまり人民の苦しみを顧みない玄宗皇帝への不満がふつふつと沸いてきます。しかし漢詩が史実と合わない内容を含んでいるとなると、話は少々違ってきます。この漢詩、玄宗皇帝への不満を煽るためにわざと作られたフィクションじゃないの? という、うがった見方すらできてしまいます。

しかし、一方で資料Ⅰ、Ⅱも無視できません。楊貴妃のご機嫌を散りたい玄宗皇帝の命でライチを運ぶのに多くの人員や馬が動員され、結果死ぬ者が出ているという記載があるわけです。注によれば、これらの資料は逸話を集めた書、あるいは随筆集とあります。逸話はしばしば誇張を含みますので全てが事実とは言い難いものの、何の根拠もなしにこのようなことは書かれないでしょう。これをどう考えたらいいのやら…。

なお、これで問2の(イ)が解けます。「人口に膾炙す」という語句の意味でした。答えは⓸です。

資料Ⅳ
語句・・・「因」漢文ではよくお目にかかります。「原因」の「因」、読みは「よりテ」。

資料の内容・・・ライチの実る6月に、楊貴妃は離宮にいたことがある。離宮では彼女の誕生日祝いの宴が催されたようである。新曲の合奏が行われたのだが、その曲にはまだ名がなかった。そこで、偶然献上されていたライチにちなんだ名を付けた。

楊貴妃が6月に離宮にいたことがあり、そこでライチを受け取ったことがあるという逸話でした。

なお、これで問2の(ウ)が解けます。「因」の意味ですね。答えは①。

’** 2 資料の解釈 ***

これで資料の読解は終わりました。これをどう解釈するか? 問5問6が関連するところですので、ここでこれらの選択肢の照合に入るのが試験場では現実的でしょう。

しかしこのブログは「じっくり解説」ですので、少し違ったことを試みます。与えられた4つの資料をどう解釈すればいいのか? それはつまり、出題者はどう読んでほしいと思っているのか? 選択肢に頼らずにそこに迫ってみます。うまく行くのか、それとも大外れに終わるのか…。

このような場合、評価のポイントというのでしょうか、論点は何かをきちんと設定することが肝要だと思われます。皆さんも考えてみてください。

私の設定する論点は3つです。「玄宗皇帝と楊貴妃の関係」「皇帝の治世」「漢詩の真偽(事実か否か)」です。順に見ていきましょう。

(1)「玄宗皇帝と楊貴妃の関係」資料Ⅱによれば、皇帝は楊貴妃のために遠方の特産物を取り寄せています。プレゼントということでしょう。現代のように物流の発達していない時代ですから、権力にものを言わせて取り寄せたと考えても間違いではありません。皇帝だからこそできることと言ってもいいでしょう。皇帝は楊貴妃をかなり気に入っており、権力を用いてでも喜ばせようとしていたと理解しておきましょう。

(2)「皇帝の治世」上で書いたように、皇帝は権力を行使して遠方の特産物を取り寄せています。そのため、資料Ⅰ、Ⅱにあるようにかなりの無理を庶民に強いています。今風に言えば、権力の私的乱用です。
もっとも、この話は世界史選択者には半ば常識です。玄宗が楊貴妃との愛に溺れ、政治をないがしろにしたことが世の乱れを呼んだ…そこから唐の国の衰亡が始まっています。私が冒頭で、よく知られていることの確認に過ぎないと書いたのは、こういう意味です。

(3)「漢詩の真偽」資料Ⅲにあるように、皇帝夫妻が離宮に滞在した時期とライチの実る時期とはずれています。しかし一方、資料Ⅳにあるように、楊貴妃が離宮でライチを受け取ったこともあったようです。そのライチは偶然献上されたに過ぎないようですが、6月に離宮でライチを受け取ったという事実はあったらしいことは分かります。

上にも書いたように、逸話というのはしばしば誇張されます。楊貴妃が毎年誕生日の時期に離宮にいたかも分かりません。
従って、真偽については偽の可能性が高い。全くの空想で作られたものではないがフィクションであろうと思われます。

’** 3 問5と問6を解く ***

以上を踏まえて、問5問6を解きます。ただ、先に書いたように、資料を読み終えた後で、すぐに選択肢の検討に入る方が試験場ではよいでしょう。

問5について。選択肢は2文構成で、第一文が資料Ⅲ、第二文が資料Ⅳの説明です。資料Ⅲはライチを食する時期と楊貴妃らが離宮に滞在する時期がずれていることを指摘していました。これで選択肢①②が脱落。資料Ⅳは献上されたライチにちなんで曲の名が決められたことを述べていました。これで答えは⑤に決まります。 

あら、資料の読解だけで解けますね。なんだ、あんまり資料を解釈統合した意味がないな。

問6について。既に②⓸⑤の3択に絞り込んでいますので、その3つだけ検討しましょう。

② 世界史選択者には半ば常識の内容ですが、先の資料解釈でも同様の結論が出ていましたね。〇です。

⓸ 玄宗皇帝への感嘆を表現した詩ではありません。✖。

⑤ 皇帝と楊貴妃の愛の詩ではありません。✖。

この問題は、資料を解釈した甲斐がありましたかね。結論は半ば常識的ですが。

’** 4 今回のポイント ***

1 語句の意味を考えるときは、品詞も考慮することが大切です。「幸」という字があったら即ハッピーの意味だと捉えがちですが、今回は違いましたよね。

2 複数資料を解釈する場合、論点の設定が重要です。これは共通テストに限らず、小論文の資料問題でも同様です。

3 本設問は、大学入試センターが目指していた一つの理想形ではないかと、私は思っています。本文とそれを解説・批評した資料を並べ、受験生に考えさせる形式です。難易度がさほど高くありませんから漢文の平均点は少し高めでしょうが、一つの完成形として、今後も踏襲されていく形式ではないかと想像します。惜しむらくは、この問題、世界史選択者に相当有利です。最終問題は世界史の知識だけで解いても答えが合います。これが習ったこととは違うが、そんな一面もあるんだという発見のあるような結論だったら、これはもう入試センターの狙いが100%実現したような形になるでしょう(但し、平均点は下がる)。

令和6年度共通テスト漢文の回、以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?