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じっくり解説! 令和4年度共通テスト小説第4回~大学受験生応援コラム9月

表現効果を問う問題


’** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。

本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。9月は小説を取り上げています。

’** 1 9月のテーマ(再確認) ***

9月は小説の問題について、過去2年分の問題を素材に、以下のテーマに沿って考察を試みています。

1 各設問を具体的にどのように解くのかを説明し、そこから実践に役立つ技術を学ぶ
2 各設問が外部識者によってどのように評価されているのかを紹介し、次回共通テスト受験の参考にする
3 小説のテーマのつかみ方を説明し、それが共通テストにどう役立つかを検証する

前回は「小説のテーマ」について扱いましたが、今回はテーマ1と2のみ。問題は以下からダウンロードできます。赤本などがあればそれをご覧ください。

’** 2 表現の意味や効果を問う問題 ***

表現効果や表現意図、あるいは象徴に関する問題は、現代文か古典かを問わず、センター試験時代から(もっと言えば、共通一次試験の時代から)出題され続けています。問いとしては1問程度ですが、すべての選択肢を検討し、本文に戻って表現を確認するという作業を強いられるケースが多いため、それなりに解答時間を要する問題にはなります。ただし、今回の設問では文章全体をチェックする必要はなく、前半部分だけで解答できるようになっています。解答時間に配慮したのでしょうか。

今回取り上げる問4では、二つ目の問題が表現意図を問う問題になっています。小説には、無駄な表現はない、というのが私の意見です。どの言葉も、作者にとってはちゃんと理由があって本文中に置かれています。

表現意図というのは、例えば、他に同じような意味の言葉があるのになぜその言葉を選んだのか、ということです。今回の小説では、主人公が少年とのやり取りの中で、明らかに言葉の選択ミスをしていると思えてしまう箇所があります(どこのことか、分かりますか?)。作者はなぜミスと思える言葉をチョイスした形にしたのか、それによって何を表現したかったのか。それを考えさせる問題を取り上げます。

’** 3 2022年(令和4年)度共通テスト小説、問4を解く ***

本文では、少年や看板の表記が様々に変化しています。それ自体、小説ではごく当たり前のことだと思われますが、表記の変化には主人公である「私」の心情の変化が関係しています。その関係性を問うために本問は設定されています。

問いは2つありますが、どちらも本文の前半部分に関するものです。(ⅰ)が少年について、(ⅱ)が看板について、それぞれ問うています。

まずは(ⅰ)から見ましょう。心情については問2を解く際に検討を終えています。当コラムでは第2回で扱いました。

第2回コラムはこちら。

相手を子ども扱いしないように丁寧に接したつもりだった「私」は、少年の態度に反感を覚えたのでした。それを踏まえたら、答えは②しかありません。

紛らわしいのは③です。しかし、③の書き方だと、少年と「交渉」している時点で既に「侮っている」ことになります。「私」が反感を持ったのは交渉後です。これで③は脱落。答えは②でした。

ありゃ、表現の検討なしに答えが出てしまった・・・。しかし、共通テストは時間との戦い。速やかに(ⅱ)に移りましょう。

(ⅱ)は、私が看板をどのように表現しているかを問題にしています。選択肢を見る限り、「交渉」前と「交渉」中をチェックすればいいようです。以下、本文の記述を確認します。

◆「交渉」前
「看板」「案山子(=かかし)」「裏の男」「あの男」「男(の視線)」
・・・「看板」は中立的客観的な呼称ですが、「案山子」以下は「私」が感じている不気味さや落ち着かなさを反映していると思われます。確かに、看板と分かっていても、毎日窓から見る看板中の人物と目が合うというのは、あまり気分のいいものではありません。

◆「交渉」中
「映画の看板(かい)」「素敵な絵」「あのオジサン」
・・・最初の「映画の看板」は少年に「あれは映画の看板かい?」と問いかけているのであって、選択肢②の「少年が憧れているらしい映画俳優」のように、確定した事実ではありません。ここで②は落としておきましょう。

問題は「あのオジサン」という表現です。私自身、初めてこの文章を読んだ時に違和感を覚えました。同じように、一読して「あれ?」と思えていたらしめたものです。

「私」は少年に気を遣って、看板や絵をけなさないように発言しているように思えたのですが、最後に「あのオジサン」という言い方をする。気を遣っていた「私」はどこに行ってしまったのでしょう。これで答えは①に決まります。

(ⅱ)問2で検討した心情変化と、本文表現検討との合わせ技で解く問題です。念のため③④も見ておきますと、

③は「あのオジサン」が親しみを込めた言い方だと表現している点で✕がつきます。看板の絵を褒めるのに「オジサン」という言い方は不自然でしょう。

④は「素敵な絵」という言い方が「とっさに…表してしまった」とされている点で✕がつきます。「私」は少年に気を遣っているのです。「素敵」というのは、少年への配慮から出たお世辞なのであって、とっさに(ということは無意識に)出た言葉ではありません。

’** 4 外部評価は? ***

いつものように、問4の評価を見ましょう。例によってリンクを貼っておきますので、興味のある方は是非。

さて、今回取り上げた問4は、各方面からどのように評価されているのでしょうか。

◆学校関係者
 (ⅰ) 「少年」を示す表現が変化することに着目し、その変化の背景にある「私」の心情を的確に読み取る力を問うている。
 (ⅱ) 前問(ⅰ)と同様に、「看板の絵」に対する表現が変化することに着目し、その変化の背景にある「私」の心情を的確に読み取る力を問うている。

’*3 冒頭に書いた通りです。特に補足はありません。

◆外部識者
 (ⅰ)「私」の心情を劇的に読んでいるのが正答だが、会社勤めを引退した主人公が、果たし てそこまで大きな感情をもっていたと読み取れるのか疑問。③の「侮る」は紛らわしい。「つねに」抱いていた感情なのか、というところで読みが分かれた
(ⅱ)「何が書かれているか」よりも「どのように書かれているか」を重視する問題を今後も大事にしてほしい。 

(ⅰ)について。「劇的に」というのは、心情が180度変わったことを述べているのでしょうか。しかし第3回コラムでも述べましたが、テーマ把握には作中人物の対照的な状態に着目するのが基本です。その意味で、私自身はこの選択肢にさほど違和感を覚えませんでした。最近は、血気盛んにやたらと怒りまくって警察のご厄介になるご老体も…これ以上はやめます。「つねに」抱いていた感情なのか、というのは私も設問を解く際に利用した観点です。
(ⅱ)について。表現効果に関する設問は今後もきっと出題されるでしょう。「何が」(内容)ではなく「どのように書かれているか」(表現)、そしてそれは何故か(表現意図)。今回ならば看板の絵を「あのオジサン」と表現した、それは「私」が一貫性を保てない状態であることを示すため(意図、選択肢②)となります。

◆出題者
(ⅰ)隣家の少年への呼称の変化から「私」の心情を読み取る力を問う問題と、(ⅱ)看板の絵に対する呼称の変化から「私」の様子や心情を読み取る力を問う問題からなる。

 →学校関係者と同じことを述べていますね。コメントはありません。

’** 5 今回のまとめ ***

① 小説には無駄な言葉はない。もし違和感のある表現があった場合でも、必ず理由があってそう書かれている(ミスプリや誤文訂正問題でない限り)。その理由は設問で問われる可能性がある。

② 上に書いたような表現意図を問う問題などは、今後も出題される。外部識者がそれを望んでいるという事実がある。

③ 問4(ⅰ)を難しくしているのは選択肢③。「つねに」侮っているのか、交渉後にそうなったのか。「私」の変化を見極めるのも大切だし、②が交渉中と交渉後両方に触れているのに対し、③は交渉中のことしか書かれていないことにも留意。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。こんな感じで一問ずつじっくり取り上げています。解ける方には「うざい」くらいくどい解説ですが、どこかに引っ掛かりを感じている方に何かしら得るものがあれば幸いです。また次回です。


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