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じっくり解説! 令和4年度共通テスト小説(2)~大学受験生応援コラム

小説の典型問題


’** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。

本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。前回から小説を取り上げています。

前回記事はこちら。

’** 1 9月のテーマ再確認 ***

前回から、2022(令和4)年度共通テストの大問2・小説を取り上げています。具体的には、以下のテーマに沿って考察を試みています。

1 各設問を具体的にどのように解くのかを説明し、そこから実践に役立つ技術を学ぶ
2 各設問が外部識者によってどのように評価されているのかを紹介し、次回共通テスト受験の参考にする
3 小説のテーマのつかみ方を説明し、それが共通テストにどう役立つかを検証する

今回もテーマ1と2のみを扱いますが、小説でよく問われる設問形式についても説明しています。

なお、問題は以下からダウンロードできます。赤本などがあればそれをご覧ください。

https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kakomondai/r4/r4_honshiken_mondai.html

今回は、これも文章前半に仕掛けられた問2を検討します。

’** 2 2022(令和4)年度大問2、問2を簡単に解く ***

傍線部B「身体の底を殴られたような厭(=いや)な痛み」とは何か、という問題です。

◆「身体の底」と書かれていることから連想すれば、身体の底→人間の根底→存在理由

◆それを殴ることによって破壊する

これが選択肢①の「存在を根底から否定された」に合致するので、解答は①と決まります。実はこれだけで解けてしまいます。この点については後述するように、外部識者が選択肢の表現を改変すべきだったと指摘しています。ただこの問いのように、ワンヒントで答えの出る問題が一問くらいあるのが共通テスト国語の特徴です。

ただしかし、これはできる人とできない人がいるのが現実ですし、「ホンマにこの答えでええんかな?」と不安を抱かせる解き方でもあります。

これについては、「試験場ではそれでいいのだ」と書いておきましょう。共通テスト国語は、日本一制限時間の厳しいテストの一つです。そして、いずれ書くこともあると思いますが、この厳しさは今後も変わらないと思います。ならば、手早く解けたことを奇貨として、速やかに次の問題に進む方が現実的です。

というわけで、答えは①です。以下ではそれを分かったうえで、敢えて違う方法で解答することを試みます。

’** 3 小説でよく問われる設問形式 ***

小説でよく問われるのは、登場人物の心情です。「このときの心情は何?」という類のやつです。

登場人物の言動について、「そのようにした理由は?」というパターンもあります。前回も書きましたが、行動には心情の裏付けがあるというのが小説問題の鉄則ですから、これも結局人物の心情を問うていることになります。

さて今回の設問ですが、傍線部Bは「私」の心情そのものであると考えられます。何しろ、「厭な」と心情が書かれています。したがって今回は、その心情に至った理由を問われていることになります。

以上に挙げたどのパターンに関しても、基本的な考え方は同じです。以下で説明します。

心情というのは、何も理由のないところで変化するものではありません。理由もなしに突然怒ったり泣いたりするのも、何かきっかけがあるのが普通です。そして、そのきっかけは基本的に「出来事」です。登場人物の周囲で起こった何事かが心情を変化させます。

中学受験レベルなら、登場人物の言動の理由には「気持ち+理由」を答えればいい、という言い方をします。「理由」というのが、取り敢えず「出来事」だと思ってもらえればいいでしょう。

ただ、この「理由」にはもう一つ別の要素も含まれると、私は思っています。例えば、、、

(1)冬のある日、太郎君が晴天の空の下で裸木を見ています。さて、そのとき太郎君は何を感じるのでしょうか?

心情が発生する前提である出来事は「裸木を見たこと」です。しかし、…そんなの分かりません、となるでしょうね。では、少し情報を足してみます。

(2)冬のある日、学校でみんなにシカトされた太郎君が、晴天の空の下で裸木を見ています。

こうなると、推測がしやすくなります。例えば、自分はシカトされたぼっち状態、一方の木は葉をすっかり落としてなんだか寂しそうだ・・・自分と木の状態をリンクさせて寂しい思いを強くした、というような感じになります。別の例を。

(3)何かつらいことがあった太郎君。しかし、信頼している大人から「今は我慢の時だ」と言われた後に、やはり葉の落ちた木を見たとします。

すると、今度は太郎君の中で、さっきと違う推測が働くでしょう。自分は今は我慢の時、この木も今は寒さに耐える我慢の時。ならば自分もこの木と同じように、耐えてみせようと決意を固めた、というような。

(1)と(2)(3)の違いは、設定が少し加えられたことで、太郎君の思考が推測しやすくなったという点です。ここから分かるのは、心情を知るには人物の思考が分かる必要があり、人物の思考が分かるためにはある程度の状況設定が必要である、ということです。

これをまとめると、こんな感じ。



手書きで失礼します


「言動」の理由を知りたければ、状況を踏まえた上で「出来事→思考→心情」に相当する情報を本文から探す。ない情報については、得られた情報から推理・推測する。

「心情」の理由を知りたければ、状況を踏まえた上で「出来事→思考」に相当する情報を本文から探す。ない情報については、得られた情報から推理・推測する。

「心情」そのものが問われた場合は、状況を踏まえた上で「出来事→思考→心情→言動」に相当する情報を本文から探す。当然、心情は空白になる。ない情報については、得られた情報から推理・推測する。*この場合は、「この出来事があって、こんな行動を取ったのだから、こう思ったりこう感じていたに違いない」という推理・推測をすることになる。

【 ここで追記 】

以上の情報整理の仕方は、別に私のオリジナルではありません。かつて予備校界で、現文古典何でもこなすオールラウンダーとして活躍されていた高橋義三先生の「OUT-INの法則」という情報整理法(今ならフレームワークと言った方が適切かもしれません)です。私がこの世界で中堅どころになった頃に偶然その存在を知り、私淑していました。今もお元気でいらっしゃるのかしら…小説典型問題の記事を書くにあたっては、どうしてもこの法則に触れないわけにいかず、しかし連絡先不明で許可の取りようもなく…そこで今回は、このように記事中でオリジナル・発案者をご紹介する形を取りました。

’** 4 2022(令和4)年度大問2、問2をまじめに解く ***

’*3で挙げたフレームに則り、本文の情報を整理し、正解の選択肢①と比較します。

状況設定=少年が設置した看板に描かれた男の視線が妙に気になる私は、説得する自信はないものの、設置した本人である少年に直接礼を尽くして撤去・移動を依頼した。
選択肢①=「頼みごと」「話しかけた際の気遣い」

出来事=少年の「無視と捨台詞にも似た罵言(=ばげん、悪口のこと)」(傍線部Bの次の段落にある表現)
思考=上記出来事を、「中学生の餓鬼にそれを無視され、罵られた」と受け止め・認識している
→状況設定と重ねてみると、こちらは礼を尽くしたのに相手からは礼儀を感じないどころかそもそも相手にもされなかったと受け止めています。

以上「出来事」と「思考」をまとめたものが、
選択肢①=「耳を傾けてもらえないうえに、…気遣いも顧みられず一方的に罵言を浴びせられ」

心情=「ひどく後味の悪い」及び傍線部A
→「後味の悪い」とは、終わった出来事について不快感や残念さを感じたことを表す慣用句です。
選択肢①=「解消しがたい不快感」

どうやら、整理した情報と正解の選択肢はきれいに対応していると言ってよさそうですね。

この問いは、情報を整理して即答してしまう方が楽な問いだと思いますが、念のために他の選択肢も見ておきます(試験場では、即答出来たならこの作業は不要です。速やかに次の問いに進んでください)。

② 特に、少年に「非難され」が出来事に合わず、また末尾の「孤独」が心情に合いません。
③ 特に冒頭の「分別のある大人として~説得できると見込んでいた」が状況設定に合いません。
④ 特に「少年を増長させ」たというのが、出来事に合いません。
⑤ 「妻の言葉を真に受け」が本文冒頭の記述と食い違っていますし、「少年に対して一方的な干渉をしてしまった」というのは「私」の思考認識に合いません。

’** 5 外部評価は? ***

前回もご紹介した「学校関係者」「国語の専門家」「問題作成者」それぞれの見解はどうでしょうか。リンクを貼っておきますので、興味のある方は是非。

https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r4_hyouka/r4_hyoukahoukokusyo_honshiken.html

ページを下にスクロールしていくと、教科ごとの問題評価一覧があります。

◆学校関係者
「『私』が感じた『厭な痛み』の内容について、「私」と少年とのやりとりやその後の叙述を根拠にして、心情を的確に読み取る力を問うている」

→その通りだと思います。なお「その後の叙述」について、傍線部Bの直後から始まる部分は、少年とのやり取りの、かなり時間が経過した段階で「私」が「痛み」を和らげようとしてあれこれ思考をめぐらせている場面です。一方、今回の問いは「痛み」を感じた理由を問うています。「痛み」を感じた日の夜にどう思ったかは問うていません。Bの直後の記述は本問とは無関係です

◆国語の専門家
「難しくはないが丁寧に読めば解ける問題。正答に『少年の若さ』の要素がもう少し入っている必要があるのでは。傍線部の『身体の底を』をそのまま言い換えた選択肢の『根底から否定』という表現は、あからさまに答えがわかるので、言い回しを変えた方が良い(以下略)」

→「身体の底を」の話は、’*2で述べたとおりです。「丁寧に」とは、ここでは心情変化の鉄則に則り、きちんと情報整理しようという意味でしょう。ただ、「難しくはないが丁寧に読めば解ける」という日本語にやや違和感あり。

◆問題作成者
 「少年の言動に『私』が受けた衝撃を、比喩で示される『私』の感覚について読み取る力を問う問題である」

→珍しく「適切であった」と自画自賛していません(笑)。狙いは比喩の理解だったようです。それなら、専門家の指摘通りにするか、紛らわしい選択肢をもう一つくらい作った方が良かったかもしれませんね。

’** 6 今回のまとめ ***

① 共通テストでは、一つのヒントであっさり解けてしまう問いも存在する。出会ったときはラッキーだと思って先に進むべし。
② 心情や言動の理由を問う問題では、状況設定を踏まえたうえで、「出来事→思考→心情→言動」の順に情報を整理する。本文に記述なき場合は、得られた情報から推測する(穴埋め問題を解く要領)
③ 共通テスト国語は、日本一制限時間が厳しいテストの一つ。これは今後も変わらない

最後までお読みいただき、ありがとうございました。こんな感じで一問ずつじっくり取り上げていく予定です。解ける方にはウザいくらいくどい解説ですが、どこかに引っ掛かりを感じている方に何かしら得るものがあれば幸いです。また次回です。


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