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じっくり解説! 令和4年度共通テスト小説(1)~大学受験生応援コラム

解答に必要な情報を探す、あるいは不要な情報を捨てる勇気



’** 0 はじめに ***

当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。

本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。

夏期講習ももう終わった頃でしょうが、皆さんの中には手ごたえや実りのようなものはあるでしょうか? 中にはものすごくたくさんの講座を受けたなんて方もおられるかもしれません。

夏休みももう終わりですし、リラックスタイムを設けたり休養したりするのも大切です。ただ、受講した講座の復習はきちんとしておきましょう。受けっぱなしでは何の意味もないのは無論ですが、後でやろうと思っていると、二学期に入ればまた怒涛の日々が待っています。授業、テスト、模試・模試・模試・・・。「後でやる」時間は予想以上に取れないと思った方がいいですよ。

さて、受験勉強のスケジュールを考えたときに、二学期というのはいよいよ問題演習を増やしたり、過去問演習を取り入れたりする時期になります。夏休みまでが基礎力の充実をテーマとするのに対し、二学期以降は得点力アップがテーマとなります。

本コラムも、それを想定した内容にしていくつもりです。今回から9月にかけては、今まで取り上げてこなかった小説を扱います。現時点では、かなりの長期シリーズになる予感しかしません(書くことがいっぱいあるのよ)。

’** 1 9月のテーマ「共通テスト小説」 ***

今回から、共通テストの大問2・小説を取り上げます。具体的には、過去2年分の問題を素材に、以下のテーマに沿って考察を試みます。

1 各設問を具体的にどのように解くのかを説明し、そこから実践に役立つ技術を学ぶ
2 各設問が外部識者によってどのように評価されているのかを紹介し、次回共通テスト受験の参考にする
3 小説のテーマのつかみ方を説明し、それが共通テストにどう役立つかを検証する

まあまあ欲張りなテーマ設定であって、全部で何回分の連載になるのか、現時点で全く想像がつきません。いつもより更新を頑張らないといけないなとも思っています。よろしければ少し気長にお付き合いください。

今回はテーマ1と2のみを扱うことになります。


’** 2 2022(令和4)年度共通テスト・大問2 ***

問題は以下からダウンロードできます。赤本などがあればそれをご覧ください。

https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kakomondai/r4/r4_honshiken_mondai.html

「じっくり解説」の名の通り、一問ずつきっちり説明しきることを目標に書いていきます。今回は文章冒頭に仕掛けられた問1を検討します。実は意外と正当率が低かったようです。


’** 3 問1解説~設問チェック ***

主人公の「私」を傍線部Aの行動に駆り立てた要因を答える問題です。小説問題の鉄則「行動には必ず心情の裏付けがある」から考えると、本文冒頭から読み取れる「私」の心情は「看板を撤去してほしい」ですから、それが書かれている選択肢⑤が正解候補になるだろうことは、おそらく多くの受験生が看破できるでしょう。ただし、選択肢前半の吟味は必要です。

この設問で気を付けることは、

◆解答は2つ選ぶこと(→これを見落とすと、以下の解答番号がすべてズレてしまうという悲劇が起こります。意外と多いミス

◆少年を見た瞬間に起こした行動の理由を問うている点。「私」が少年及び彼が設置した看板に関係する理由を答える(→後で述べますが、少年の親は関係ない)

ここまで確認した上で、本文を見ましょうか。


’*** 4 問1解説~本文の確認と解答 ***

本文冒頭の設問ですから、前書き及び最初の3つの段落を読んで答えるのだろうという予測はつきます。

今回の注意点は、最初の3段落には主人公「私」の思考がつらつらと書かれている点です。このような場合、思考は筋道立てて行われるのが通常ですので、その筋道をきちんと追うことです。評論読解と同じような読み方が求められます。

さて、この冒頭3段落は、先に述べたように「少年に看板を撤去してほしい」のだが、そのためにどうしたらよいかをあれこれ考えている部分です。この結論と関連する、(’*3に書いたように)少年及び看板に関する記述を拾います。

◆前書き
「(看板の)存在が徐々に気になり始めた」
「自分が案山子(=かかし)をどけてくれと頼んでいる雀(=すずめ)のようだと感じていた」

雀は案山子がこわくて田んぼに近づけない、ということがまず分かること(問5を見て理解できてもいいですが)。「私」はその雀のように看板を恐れていると分かります。だから、撤去してほしいのです。

◆第一段落
「(看板を撤去してほしい)理由を中学生かそこらの少年にどう説明すればよいのか見当もつかない。…雀の論理は通用すまい」

撤去を中学生の少年に依頼したいが、自分が恐れている理由を素直に話しても分かってもらえないだろう、ということ。

先に選択肢⑤が正解候補だと書きましたが、この部分が⑤前半の記述に合致しますので、これで⑤は答えとして確定します。

なお、これ以降第一段落の最後まで読むと、看板に関する記述が数か所ありますが、これらは撤去してほしい理由になっていませんので、本設問解答上は無視します。

◆第二段落
特に拾うべき記述はありません。「私」が看板に描かれた男の視線をやけに気にしていることが分かるだけです。看板を恐れていることを重ねて説明している段落です。

◆第三段落
「隣の家に電話をかけ、親に事情を話して看板をどうにかしてもらう」ことについて、「少年の頭越しのそんな手段はフェアではないだろう」

「私」はここまでの物語中で、相手の少年のことを「中学生かそこら」(第一段落)などと表現してはいますが、頼むなら本人に直接伝えるのが筋であると考えています。相手の立場を尊重するような書き方です。これで問1のもう一つの答えは②に確定します。

なお、上に引用した部分以降の説明は、少年の親が念頭に置かれています。’*3で軽く書いたように、交渉相手は少年であって親ではありません。傍線部Aには、「私」が少年に何とかしてもらいたくてつい行動を起こしたということが書かれています。ですから、「親に頼んだらどうなるか」という本文記述は本設問とは無関係なので割愛します。

「どの情報を拾えばいいのか」設問を読んで見当をつけてから行うこと。無関係と判断できた情報は潔く無視すること。

これが私の考える、本設問の教訓です。


’** 5 外部評価、ご存じですか? ***

突然ですが、共通テストは毎年、外部識者の評価を受けているのをご存じでしょうか。

共通テストを作成している大学入試センターは、独立行政法人です。つまり、そもそもは公営の機関です。また、共通テストは、毎年何十万人といる大学受験生の進路決定に重大な影響を及ぼす試験でもあります。その影響力ゆえに、毎年外部識者の批判の目にさらされます。

「学校関係者」「国語の専門家」「問題作成者」それぞれの見解が読めて、なかなか参考になります。例えば、問題作成者は作問意図や自己評価などを公表しています(当然ながら、作成者の自己評価は満点ですが)。リンクを貼っておきますので、興味のある方は是非。

https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r4_hyouka/r4_hyoukahoukokusyo_honshiken.html

ページを下にスクロールしていくと、教科ごとの問題評価一覧があります。

さて、今回取り上げた問1は、各方面からどのように評価されているのでしょうか。

◆学校関係者
「傍線部以前に書かれている『私』の心情についての叙述丁寧に読み取り、少年に無意識にも近寄っていってしまう『私』の心理的要因を的確に理解する力を問うている」

→「心情についての叙述」とは、本設問では看板撤去を望む「私」の思考を指します。「丁寧に」とは、設問の条件に合う情報のみをピックアップしましょう、という程度の意味でしょうか。

◆国語の専門家
冷静に読ませる問題。最後ではなく、最初に文章を広く読ませるという新傾向

→「冷静に読ませる」とは、学校関係者の「丁寧に読み取」るというのと同じでしょう。「最初に文章を広く読ませる」については、令和5年度の古文問3などに踏襲されています(これは最初の3つの段落の内容に合うものを選ぶ問題)。

◆問題作成者
 「隣家の少年に対する『私』の行動について、その背景や動機を文脈に基づいて読み取る力を問う問題である。完答率はやや低かったが冒頭場面の読みを問うには適切であった」

→最後の「適切であった」は無視しまして(笑)、「完答率は…低かった」理由が問題になるでしょう。答えは二つなのに一つしか選ばなかったという悲劇が原因かもしれません。ただ、もし最初に「どんな情報を拾うか」を明確にしていなかったのが理由だとしたら、この設問、実はかなり迷うことになります。なぜなら、一読した限り、各選択肢の内容は本文内容と食い違いがないからです。したがって、本文に書いてあることと矛盾していたり嘘があったりする選択肢を消していくという手が、本問では使えません


’** 6 今回の3つのポイント ***

① 小説であっても、登場人物の思考がつらつらと書かれている部分が問題になった場合、人物の思考の筋道をきちんと追うこと。評論読解と同じアプローチが要求される。

② 解答に当たっては、「どの情報を拾えばいいのか」設問を読んで見当をつけてから行うこと。無関係と判断できた情報は潔く無視すること。

③「最初に文章を広く読ませる」設問は、今後も出題可能性あり。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。こんな感じで一問ずつじっくり取り上げていく予定です。解ける方にはウザいくらいくどい解説ですが、どこかに引っ掛かりを感じている方に何かしら得るものがあれば幸いです。また次回です。


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