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大学受験生応援コラム・5月~漢文1

返り点をつける問題は、いかに攻略するのか? (1)

’*** 0 はじめに  ***

当コラムに目を留めてくださり、ありがとうございます。

本コラムは、高校生や大学受験生の役に立てればとの思いから書かれています。主に大学入学共通テストの国語を素材として、問題の解き方や勉強法のヒントになりそうなことを書いていきます。

月ごとにテーマを決め、何回かに分けて掲載していきます。今月は「漢文」を取り上げることにしました。

共通テストでも過去のセンター試験でも毎年必ず出題され、今後も間違いなく出題されるだろう問題。そして、毎年受験生からの質問の多い問題。

「白文(漢字ばかりの文)に返り点(レ点とか一二点とか)をつけなさい」

これを取り上げたいと思います。なお、今回は返り点の規則を分かっているものとして話を進めますので、ご存じない方は確認の上で以下をお読みください。

’*** 1 漢文にも文型がある  ***

「漢文の組み立ては英語とよく似ている」

こう言うと、皆さんはどのような反応をされるのでしょうか? 私の経験では、「漢文の文型なんて意識したこともない」(知っている、知らないではなくて)という反応が大多数です。

漢文という科目では、古代中国から伝えられた漢字ばかりの文を、古文に変換する技術を学んでいます。漢文と日本の古文とでは語の並べ順が異なるので、上から読んでいくのに途中の漢字をすっとばしたり、前に戻ったりすることで日本語の語順に合った読み方に変えていきます。そのために返り点が必要になります。

返り点に従って漢字かな交じりの文に直す(これを「書き下す」と言います)練習をひたすら行い、慣れていくにつれて意味を取れるようになる…というのが、昔も今もさほど変わらぬ学習スタイルです。この練習はもちろん重要です。大いにやって慣れておくべきものです。

ただし、それだけ練習しているはずなのに、「白文に返り点をつける問題」への質問は毎年絶えないというのが実情です。漢字がずらっと並んだ塊を眺めて…どうしたらいいの、これ? 合ったり間違ったりの繰り返し…。

そういう方はまず、漢字を並べる際の基本ルールを意識するところから始めるのがいいかもしれません。最初に書いた「文型」です。

漢文も基本的には「主語+述語」から始まります。この述語は日本語と同じで、動詞だけでなく形容詞、あるいは名詞を置くことも可能です。

英語では述語は動詞のみなので、そこは相違点ですが、「S+V」から始まるのが原則、という点ではおおよそ共通しています。そして述語の後に「~を」「~に」と訳す目的語が続きます。英語でいうS+V+OとかS+V+O+Oです。

もちろん、言語が異なる以上、あくまで英語と「似ている」のであって、実際には少なからず違いがあることは事実です。今月取り上げる問題でも、冒頭にある名詞が主語でない、というものが登場します。

しかし、大学受験生は皆、英語を一生懸命勉強している(というか、せざるをえない)状況に置かれています。それなら、英語で学んだことを漢文でも応用してみようという発想はアリだと思います。

さて、次のセクションも、同様に英語の知見を利用しようという趣旨です。


’*** 2 動詞を発見し、その語法を考えよう  ***

英語には「語法」という学習項目があります。簡単に言えば、「その単語はどういう使い方をするのか?」ということです。

中学英語でも意識しなければならない項目としては、特に動詞の語法が挙げられます。なぜなら、先に挙げた文型と関わるからです。文型が決められないと、読解も英作文もできません。

例えば、makeという動詞なら、第三文型(目的語Oを一つとる)・第四文型(目的語を二つとる)・第五文型(目的語と補語Cをとる)という3つの使い方ができます。

同じことが、漢文の動詞にも言えます。動詞の下に何が続くのか? 「~を」か、「~に」なのか? それを考え、確認する必要があります。

そこで役に立つのが、昔から漢文学習でよく言われるこの言葉です。

「鬼と会ったら返れ」(普通は「帰れ」でしょうが、敢えてこう表記します)

「鬼と」=「を・に・と」の三つの助詞です。漢文を読んでいてこの3つの助詞に当たったら、必ず前にある動詞に戻る=返読する、という意味です。

動詞を見つけたら、下に「~を」「~に」「~と」どれが来るかな? とまずは考えましょう。

また、動詞を見つけるときには、同時にある置き字を意識しておきましょう。漢文でよく見かけるでしょう、「於」です。

これは英語の前置詞に相当します。V+於+名詞の形で用いられます。

この形の場合、名詞には「~に」という送り仮名がつくケースが多いのです。重要な目印ですので、意識しておきましょう。

ちなみに、この場合は、「於+名詞」をひとかたまりとして上から下に読み下ろした後、Vに戻ります。例えば、

「婦人哭於墓」(孔子の「苛政は虎よりも猛なり」より)

婦人が主語、哭が動詞(「コクする」と読みます。「慟哭」の「哭」、激しく泣く意)。

その後に「於墓」があります。「墓に」と送り仮名をつけて読みます。

よって、読む順番は「婦人→於墓→哭」となり、返り点は

婦人哭 二 於墓 

のように付けられます(本当は一二点を小さくしたかったのですが、文字サイズを変えられないようなのでこれで勘弁してください)。

なお、置き字は読まないため、書き下す際には無視しようという指導もよくなされます。それは一理ありますが、少なくとも白文に返り点をつける問題においては、あまり推奨しません。

「於」は動作の向けられる対象や方向を指示する語で、上の例の場合、その意味合いは「墓」につく送り仮名の「に」に表されています。ただの飾りではありません。

それに、無視する気持ちが強いと、「於」をないものとして考え、墓から哭までをレ点で返読しようとする方が出てきます。読まなくても存在するものとして、ここは一二点で返読するようにしましょう。

ところで、今までの話は、前提として動詞そのものをまず発見できなくては成り立ちません。ただ、動詞の発見は皆さん結構できます。ですので、特に動詞の下に「~を」「~に」「~と」のどれが来るだろうか? と立ち止まって少し考える習慣を、是非身に付けていただきたいと思います。


今回のお話はここまで。次回は今回のおさらいを軽くした後で、実際の問題に当たってみます。最後までお読みくださり、ありがとうございました。


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