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じっくり解説! 令和5年度共通テスト小説問6問7~大学受験生応援コラム11月

小説のテーマを利用する/複数資料問題について一言


’** 0 はじめに ***

当記事に目を留めていただき、ありがとうございます。大学入学共通テストの国語問題を題材に、受験対策に役立ててほしいという主旨で始めたブログです。毎回かなり長くなってしまうのですが、解ける方には「ウザい」くらいの解説を目指して書いています。

前回からは、令和5年度共通テスト本試験の小説問題を扱っています。今回も引き続き、小説のテーマを利用して設問を解いてみます。

問題文は以下からダウンロードできます。赤本などがあればそれをご覧いただいても結構。それでは始めます。

https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/kakomondai/r5/r5_honshiken_mondai.html

’** 1 本小説のテーマについて整理整頓 ***

前回は5年度の小説「飢えの季節」のテーマを把握するために、内容を要約しました。再掲します。

変化前:企業は個々人の夢や理想のためでなく営利目的で動くものだと理解した「私」は、給料のためだけに企業の儲けに貢献する道を選んだ
 ↓
きっかけ:従業員を低賃金で雇用し、おそらく相当の利益を挙げて上層部の者は裕福に暮らすことができている。企業である以上儲けの出る仕事をするものだが、この会社は特に自分たちを儲けさせてくれる政府と節操なく手を組み、庶民の飢えや空腹などには関心がない。そしてこの傾向は戦前も戦後も同様である
 ↓
変化後:普通に会社勤めをしていても満足に食べられないと思い知った「私」は怒りを覚え、会社を辞めて新しい生き方をするしかないと決断し、退職に踏み切った

戦前も戦後も変わらない利権構造vs衣食住に苦しみ続ける一般市民」という対立構図です。これを用いて解答できる問題に当たっていきます。

’** 2 問6解答&外部評価 ***

「変化後」の情報をきちんと盛り込んでいる選択肢は④しかありません。③はあまりにもとんちんかんな選択肢なので説明は割愛します。残りの選択肢を見ておきます。

①:序盤の「静かな暮らしが実現できないことに失望したが」について。前回も触れたように「静かな暮らし」が何を意味するのかという問題はありますがそれは措きます。逆接の接続助詞「が」をはさんで後半につないでいますが、むしろ「実現できない」と分かったことが理由になって「私」は退社を決意しているのです。ですから、前半と後半を逆接の関係でつなぐことは誤りです。
また、中盤の「その給料では食べていけないと主張できたことにより…自由に生きよう」と思ったという因果関係も問題です。そのような関係は本文に書かれていません。

②:前半。「静かな生活はかなわないから新しい道を切り開く」とするのが正しいですね。因果関係が逆です。

後半。課長の言葉が「私」に自信を与えたような書き方ですが、それは本文と矛盾します。

⑤:後半が③と同じ理由で誤りです。

ここで、恒例の外部評価を見ましょう。リンクを貼っておきます。

https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/hyouka/r4_hyouka/r4_hyoukahoukokusyo_honshiken.html

ページを下にスクロールしていくと、教科ごとの問題評価一覧があります。

問6は、各方面からどのように評価されているのでしょうか。

◆学校関係者
「今の職では満足に食べていけないことに絶望し、その飢えを解消するために新たな生き方を模索しようとする『私』の心情を、的確に読み取る力を問うている。」

→そうですねえ、としか言いようがないコメントですね。

◆国語の専門家
「問わないわけにはいかない部分。バランスも取れている」

→最終的に主人公がどうなったのかという部分ですから、こういう評価になるでしょうね。ただ、解答の内容が問5と似通っているのが気にはなります。問5問6を一体化してもよかったのではないかと、この2問を解いてみて私は思います。

◆問題作成者
 「期待した給料を得られなかったことに絶望したことを機に、『私』の考え方が大きく変化する場面について、その変化の内容と背景をなす『私』の心情を捉えさせる問題である。正答率が8割を超えて高くなっているが、各層に対応した分布から、誤読を排除することができる読解力を問う適切な問題であった

→私の拙い作問経験から言わせてもらうなら、「読解力を問う適切な問題」は正当率が6割程度になるのが通常だと思います。正当率8割は高すぎるのではないでしょうか。

それに「誤読を排除」と言いますが、同じような答えになる問5の正答率が低い以上、誤読を排除できているとは言い難いのではないでしょうか。

’** 3 問7解答&外部評価&ちょっと苦言(ここから長いです) ***

本問は共通テストでは必ず出題される、複数資料問題です。そこでまずは、資料と本文をもとにして解答を導いてみます。

【資料】から分かるのは、

▼戦後の物資不足の影響でランプの生産に支障が生じ、需要を満たすに十分な量を生産できていないこと
▼戦争中は家庭へのランプの供給は後回しにされていたこと
▼以上2点から、戦時中も戦後も、国民へのランプの供給が滞りがちである状況が継続していること
▼広告自体も「継続」を象徴するように、戦時中と同じものが使われていること

また、設問や【構想メモ】には「焼けビル」という語が登場します。これは主人公が勤めた広告会社のビルですが、表現からこのビルもまた戦前から存在し戦後も破壊されずに残ったことが分かります。

以上のことから、設問に言う「ランプの広告」と「焼けビル」の共通点とは、戦時中の状態の継続である、と結論付けてよいでしょう。もう少し言葉を足すと、これは国民側から見た状況ではなく、財界などの権力者側から見た状況であることにも注意した方がよいでしょう。ランプの会社は(物資不足という事情はあるにせよ)国民に我慢を強いています。また「焼けビル」の広告会社は、空欄Ⅰの直後「会長の仕事のやり方」という表現もヒントにすれば、市民の飢えなど気にかけてもゼニにはならん、という態度です。

これで問7(ⅰ)を解答することになります。選択肢はどれも何かがずっと継続しているという書き方ですので、その「何か」を比較して答えを出します。

①「戦時下の軍事的圧力の影響」→これは主体(圧力の影響を受けたもの)が国民になるでしょう。
②「戦時下に生じた倹約の精神」→主体が国民です
③「戦時下に存在した事物」→主体がはっきりしませんが、逆に言えば①②のように誤ったものに限定もされません
④「戦時下の国家貢献を重視する方針」→これも主体がはっきりしませんが、戦後の物資不足や会長の仕事のやり方は国家貢献ではありません。

これで解答は③ですね。これが間違いなく正解だ! とズバッと言いづらいというのか、比較した結果最も無難なものを選んだというのか。正答率も4割ほどだったようです。

問7(ⅱ)。本文ではビルは主人公の「飢えの季節」の象徴だとはっきり書かれていること、そしてこれまで見てきたような戦時中の状態が継続する社会情勢を合わせて考えれば、「飢え」「継続」という語が入る②しか答えはないでしょう。こちらの正答率はさすがに5割は超えたようです。

なお、今回は「テーマ理解を設問解答に活用する」のが主旨ですので、そちらも軽くやっておきます。

’*1でも書いたように、本文に書かれている対立構図は「戦前も戦後も変わらない利権構造vs衣食住に苦しみ続ける一般市民」です。この前者が(ⅰ)に、後者が(ⅱ)に対応します。特に(ⅰ)に関してはテーマを利用する方が、主体が明確になる分よいかもしれません。

では、外部評価を見ます。

◆学校関係者
(ⅰ) 本文の内容の理解を深めるために、教師が提示した【資料】と本文とを関連させて 【文章】にまとめるという学習の場面を通して、【資料】の内容と本文における『焼けビル』との共通点を的確に理解する力を問うている。 (ⅱ) (ⅰ)を踏まえて、本文における『焼けビル』が表す象徴的意味を的確に理解する力を問うている」

→これまた、そうですねえ、としか言いようがないコメントですね。

◆国語の専門家
新しい形式で問いを作る、という意識が強すぎる。リード文が唐突で、誘導しすぎている。情報量が多くなりすぎている割には、構想メモを見れば解ける。また、他人の構想メモを見て、何かを考えるということは現実から離れすぎている。(ⅰ)の正答「事物」は抽象的すぎて答えになりきっていない。問7の選択肢は、全体的に抽象度がそろっておらず、課題を感じる 」

→なかなかのダメ出しっぷりですが、それでも大学入試センターは「新しい形式」にこだわり続けるのでしょう。

まず、確かに本文とメモの内容があれば2問とも解答は出せます。ただし、私があれこれ考察してみたように、【資料】のある方が助けにはなります。むしろ、令和4年度にも専門家から提起された、「受験生は制限時間に追われる中で考察などやっている暇はない」という問題ではないでしょうか。

次に「事物」という表現には私も違和感を覚えます。「こと・もの」という意味になる語を用いて選択肢を抽象化しようとしたのは分かるのですが…。いっそ「体制」くらいにしてくれた方が、先にも書いた主体が明確になるという意味では良かったように私は思います。

抽象度の不揃いは、特に(ⅱ)の選択肢について感じます。

◆問題作成者
 「(ⅰ)は、本文の理解をより深めるために、終戦前後の広告を含む【資料】を用いて考察するという学習場面において、文章の完成度を高めていく問題である。正答率は4割台前半と低くなっており、ポスターなどの非連続型テキストなどの複数の情報を組み合わせて読むことに課題が見られた最上位層の正答率は6割を超えており、思考力を問う問題として適切であった。(ⅱ)は、終戦前後の広告を含む【資料】を用いて考察するという学習場面において、本文と【資料】とに共通する象徴性を捉え、適切な結論を導く力を問う問題である。正答率は5割台半ばで、下位から上位までの分布も適切であり、複数の資料から思考を深めていく問題として適切であった」

→「複数の情報を組み合わせて読むことに課題が見られる」のは、専門家も指摘してきたように「そんな暇は試験場ではない」からです。試験時間を延ばすとか、設問数を減らすとか、何らかの対応をしない限りこの状況は永遠に続きます。おそらく出題者側もそれを薄々分かっているから、構想メモを見れば解けるようにしているのではないのか…? と勘ぐりたくもなります。

また(ⅰ)について「最上位層の正答率は6割を超えており、思考力を問う問題として適切」とありますが、私は平均的受験者の正答率が6割に達しないとそれは問題としては失敗だと考えます。例えば模擬試験でこんな設問を作ったら社内で問題になると思います(少なくとも昔は問題になりました)。

私立の中高、あるいは大学独自の試験であれば、これらは「落とすための試験」なので、超の付く難問や、本当に深く理解できていないと解答できない問題が出されても許容される余地はあります。一方で、共通テストは受験生の学習の成果や到達度を測るという、大学独自の試験とは別の目的を持っています。もし受験生の複数資料を検討する能力を見たいならそれなりの配慮がなされるべきです…他にも書くべきことがあるでしょうが、今回はこのくらいに留めておきます。

また次回です。


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