見出し画像

私は運動ができない(ゴム風船)


テレビとか漫画とかで、チューインガムで風船を膨らます光景を目にしていたが、私はそういうことに憧れていた。

兄はチューインガムで風船を作ってみせ、私に風船の作り方を教えてくれた。
「ガムをよく噛んで、柔らかくなったら舌に薄くガムを巻いて、それでふぅっと息を吹くと風船ができる」
私は兄の言うとおりしてみたが、風船はできなかった。

「チューインガムは風船を作りにくいけど、これは風船を作りやすいガムだから」
と、兄はパッケージに「フーセンガム」と書いてあるガムを買ってきてくれた。
私はガムをよく噛んで柔らかくし、下に巻いてそれを一度兄に見せて、膨らまそうとしたが、やはりフーセンは作れなかった。
そのうち私はガムそのものが嫌いになり、ガム風船は今に至るまで作れていない。

どこかでもらった新品のゴム風船が家にあったが、私はゴム風船を膨らますこともできなかった。
それで、母に頼んで膨らましてもらっていた。
「おまえは歯並びが悪いから、息が一か所にまとまらない」
と母は小言を言いながらも、いつも風船を膨らましてくれた。

自分で風船を膨らましてみたくなり、私は自転車の空気入れのホースの口金に風船の先を被せ、そこをゴムで縛り、両手でグリップを上下に動かした。
すると、ポンプから出る空気圧の方が強くなり、ゴムで縛った風船はひゅるると飛んで行ってしまった。
私は風船を拾いに行き、もう一度空気入れのホースの口金に風船を被せてゴムで縛った。
そしてその風船を縛ったゴムの部分を左手で強く握り、右手で空気入れのグリップを上下に動かそうとした。しかし、私は握力も背筋力も人より劣っている。私は膝を大きく曲げ、渾身の力を込めてポンプを下に押した。
膝を伸ばしてポンプを上に戻した。
もう一度、膝を大きく曲げポンプを下に押し、また戻し、もう一度、もう一度。
すると風船は膨らみ、何度も繰り返していたら、半分くらい風船は膨らんだ。
そもそも、風船を膨らますことのできない理由のひとつは、風船のゴムが厚いからである。半分くらい膨らんだことでゴムが少し薄くなった風船なら、私は膨らますことができる。
私はホースの口金に止めていたゴムを外し、風船をとった。そして大きな息を風船に吹き込んだ。すると風船は大きく膨らんだ。

それが私が自分でゴム風船を膨らませた最初だった。

運動会の前とか、学校でも風船を膨らますのが必要な機会というのがあった。
そういう時は隣の席のタケダくんとか、前の席のタカシくんとかに「風船ふくらませて」と頼んだら、普通に膨らましてくれていたから、風船を膨らますことができないからといって別段困ることはなかった。
ある時、いつものように隣の席の男の子ヒデキくんに「風船ふくらませて」と頼んだら、「えぇー、唾がいっぱいついた風船汚いわー」と言って膨らませてくれなかった。
冷静に考えたら、そのとおり。
しかし、私は瞬間的にこういうことは男の子に頼まないといけない、と判断した。
私は風船の先をハンカチで拭き、もう一度ヒデキくんに言った。
「タケダくんもタカシくんも膨らませてくれたんだから膨らまして。ハンカチで拭いたから」
ヒデキくんは「汚いのにぃ」といいながら嫌々風船を膨らませてくれた。

家に帰り、私は本格的に風船を膨らます練習をした。
右手をVサイにして唇の真ん中に指を当てて息を吐くと、歯並びが悪いせいか唇の左側から息が漏れていた。
真ん中より左側に風船をあてて息を吹き込むと膨らむんじゃないのか、と考え左側で風船を膨らました。
すると力が入り、風船は膨らんだ。
初めて私は自分の息だけで風船を膨らますことができた。

小学校高学年の頃の思い出である。

#創作大賞2024 #エッセイ部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?