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【株価暴落】SNSサームルール拡散犯人説

8月5日月曜日に日経平均株価が大暴落した。下落幅では、1987年に発生したブラックマンデーを上回り史上第一位。より現実的な下落率でも史上第二位の12.4%にも達した。
前の週に日銀の18年ぶりの利上げがあったことから、ある程度の下落(暴落)は避けられないと誰もが覚悟していただろうが、それにしても凄まじい暴落だった。
この暴落の原因を巡っては、「植田日銀総裁戦犯説」や「岸田首相犯人説」など様々な説が飛び交っている。
しかし冷静に考えれば、中央銀行がたかが0.15%利上げしただけで、10%を超える下落を一日で演じる必然性はない。
そうなると「何か別の要因」があった可能性を疑ってみるべきだろう。
それが「SNS、スマホ犯人説」だ。

ブラックマンデーはシステム売買が原因

今回の暴落と何かと比較されることの多い、1987年に発生した「ブラックマンデー」だが、暴落の犯人と言われているのが、当時流行し始めていた「ある種のシステム売買」だと言われている。
この暴落の後に、米政府は暴落の原因を探る調査委員会を設置した。その調査委員会が出した結論が、「ポートフォリオ・インシュアランス」という当時流行し始めていた一種のシステム売買が暴落の原因とするものだ。
もちろんファンダメンタルズ面でも株価下落の要因は存在したが、暴落の直接の引き金を引いたのは、このシステム売買だという結論だった。

ポートフォリオ・インシュアランス

このポートフォリオ・インシュアランスについて少々マニアックになるが、説明してみたい。
これは、生命保険会社など機関投資家が保有している株式ポートフォリオに「下落ヘッジ」を掛ける仕組みだ。
普通、株価の下落に保険を掛ける王道は「プットオプション」の購入だ。しかし、当時は市場が未整備だったこともあり、機関投資家の数千億円にも及ぶ保有株式の全体をカバーするプットオプションを購入することは困難だった。
そこで考えられたのが、当時普及し始めていた「株価指数先物」を利用したヘッジ方法だった。
具体的には、顧客の機関投資家の持っている”株式ポートフォリオ全体のポジション”を計算する。普通はDOWやSP500などの指数に換算した場合にどれぐらに相当するかを計算する。このポジションをオプション用語でデルタという。
そして、この株式ポジションの価格変動率を模倣するようにコンピューターを利用して先物を小刻みに売買していく。具体的には、ある一定幅で下落すると、デルタに相当する先物を売り建てる。更に下落したら計算された量の先物をさらに売る。逆に上昇した場合には、売っていた先物を買い戻す。株価が当初価格より純粋に上昇した場合には、何もしない。これはプットオプションを模倣するためだ。
このオペレーションを請け負っていたのが、当時システム売買の開発を行っていた”バーラ社”というカリフォルニアの会社だった。
このポートフォリオ・インシュアランスのシステムは、市場が通常の動きをしている間は上手く機能した。
しかし、ブラックマンデーの当日には、株価がただ下落しただけでなく、ジャンプした。当然システムは、大量の先物売りを出した。
大量の先物の売りが出て、先物価格が現物の指数から乖離すると、今度は先物価格と現物価格の裁定取引が発動されて、現物に大量の売りが出された。通常の市場の状態なら、裁定が働いて先物が戻し現物が下落して安定する。しかし、この時には大量の株の売りが出たため、多くの銘柄で売買が止まる事態になった。現物が取引不能になると同時に、先物には更に大量の売りが出され、売りの連鎖反応が始まってしまった。
こうして史上最大の株価下落であるブラックマンデーが突然発生した。
ちなみに暴落が止まったのは、シカゴで取引されている先物に引け間際に大量の買いが入ったことが切っ掛けだったそうだ。
このような小さな切っ掛けが大惨事に発展するのを科学者は、「カスケード効果」などと呼んでいる。新型コロナウィルスの指数関数的な爆発もある種のカスケード効果と言えなくもない。いったん連鎖反応が始まると止まらなくなる。
ちなみにポートフォリオ・インシュアランスを開発したバーラ社は、オルカンで有名な指数を開発したMSCI社に2004年に買収されている。

スマホ・SNS暴落

40年近く前に起きたブラックマンデーの大暴落と今回の株価暴落は、よく見るとかなりの類似点がある。

ファンダメンタルズでは説明できない

まずファンダメンタルズだが、当時は利上げを巡って、米政府とドイツのブンデスバンクの間で対立が表明化していた。また中東では、当時戦われていたイラン・イラク戦争に絡んでペルシャ湾でタンカーが攻撃される事態が発生していた。
今回の暴落の前には、FRBが利下げモード、逆に日銀が利上げモードと主要国の間で、金融政策の方向性が真逆になっていた。またイスラエルとイランの間で緊張が高まっている点も似ている。
ただいくら日銀が利上げしたと言っても、これほどの暴落を引き起こすには力不足だろう。

スマホが売りを誘発

そんな中、今回の暴落で私が注目したのが、「スマホとSNSによる情報の拡散」だ。
今では、株式もFXもスマホで取引するのが常識だろう。しかし、モバイル端末での株取引が普及したのは、たかが10数年ほどのにしか過ぎない。
元祖暴落のブラックマンデーが発生した当時はインターネットもなかった。株価を知る手段は、NHKのお昼のニュースで日経平均の動きを知るぐらいだった。
もし個別株の値段を知りたければ、証券会社に電話して聞くか、証券会社の支店に出向いて株価ボードを確認する必要があった。あとは翌日の日経新聞の株価欄をみるまで自分の持って切る株が上がったのか下がったのかもわからなかった
多くの投資かは、日経新聞を見てからおっとり刀で行動していた。情報伝達から株価に影響がでるまで、相応の時間がかかったのだ。
しかし今ではスマホさえあれば、「どこでも・いつでも」取引可能だ。

SNSによる情報拡散

またSNSを通じて様々な情報がリアルタイムで投資家の元に届く。パウエルFRB議長の記者会見の模様が、Xを通じてライブで見れる。
これは、10数年前ならメガバンクや生保など大手の機関投資家しか利用できなかった環境だ。それが今では、誰でもほぼ無料で利用できるようになっている。
またSNSによる情報の拡散も以前にはなかった現象だ。以前なら情報が伝わるにはある程度の時間が必要だった。新聞は毎日発行されるが、翌朝まで待たなければならなかった。雑誌に至っては週一だ。TVはリアルタイムだが、一日中株式情報を流しているわけではない。一昔前までは、準リアルタイムの市場情報と言えば「短波ラジオ」ぐらいだった(懐かしい)。
それがSNS時代になると一瞬で数十万人、場合によっては数百万人に同じ情報が伝わるようになっている。

サームルール拡散

今回の暴落を前にSNSで拡散されていた情報に「サームルール」というものがある。
このサーム・ルールとは、元FRBエコノミストのクラウディア・サーム氏が考案したもので、「失業率の3ヶ月移動平均が、過去12ヶ月の最低値から0.5%上昇した時に景気後退が示唆される」というものだ。
そして、先週末の8月2日に発表された米雇用統計により、このサームルールが発動した。このサームルールの発動で米景気後退を確信した投資家たち、とくにSNSで情報収集をしている個人投資家が一斉に株を売りに出た。これが今回の尋常でない暴落の端緒を作ったかもしれない。

大衆パニック

そして、数々の経済学者や心理学者、社会学者が説明している通り、大衆は同じ時に同じ行動をとる傾向がある。
今回の暴落に関しても、SNSで同じような情報を得た同じような属性の人たちが、ほぼ同じ時刻に同じように売り注文を出したことが、まるで津波のような売りとなって市場を襲ったのではないだろうか。
ちょうど暗い満員の映画館で、誰かが「火事だ!!!」と叫んだような状態だ。パニックになったお客(投資家)は、一斉に出口に殺到(売りが殺到)して、将棋倒しになる(暴落する)という具合だ。

収まるのも早い?

今後の動きを予想すると、「案外パニックが収まるのも早い」ということになるかもしれない。
これは情報の伝達が早いだけに、多くの投資家が一斉に行動し売りが一日で出尽くしてしまうからだ。
もちろん、ファンダメンタルズの効果は今後も徐々に市場に織り込まれていくだろうが、パニック売りが案外早く終わる可能性がある。
投資家は、この新しい現実になれる必要があるかもしれない。

政府は調査を

仮に今回起きた暴落が、史上初のスマホ・SNS暴落だったとした場合、政府は調査をすべきだろう。
これは「犯人捜し」の調査ではない。このスマホ・SNSという新しい情報ツールが市場の価格形成や投資家行動に与える影響も調査し、場合によっては、市場に必要な規制を導入する参考にするためだ。



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