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『羆嵐(くまあらし)』を読みました。

獣害というワードを聞いて真っ先に三毛別羆事件を連想する方は多いのではないでしょうか。

かなり衝撃度が強い事件ですからね。

はじめて事件についてのwikipediaを読んだ時はあまりにも衝撃的でしばらくリラックマすら視界に入れたくありませんでした。

昔の事件を再現する系のテレビ番組でも取り上げられたことがある事件なのでそちらを視聴してトラウマになったという方も多そうですね。

そんな三毛別羆事件をモデルにしたドキュメンタリー長編小説が『羆嵐』でございます。

『羆嵐』と検索すればサジェストに検索してはいけないと出てくるらしいです。
ここでは必要がないので書きませんが、どれだけヒグマ被害者の表現をマイルドにしようとしても無理なほどなかなか凄惨なお話なので人によっては注意が必要でしょう。

『羆嵐』はヒグマとの戦いだけではなく、まだまだ開拓途中の北海道で生きることの厳しさや人々の苦悩、絶望が書かれています。
皆細々と、けどようやく環境にも慣れてきてこれからという時に超巨大なヒグマが出没するなんて…
最悪にも程がありますよね。

これはフィクションではないし対抗する術が限られているので、

「まさかりや鎌が通用しなくても銃が複数あるから大丈夫だろう」
→五丁あったけど一丁しか弾が出なかった上に当たりませんでした。

「獣は火を恐れるから焚き火やランプがあればヒグマは来ないだろう」
→むしろ人(食料)がいる目印と捉えられ、襲ってきたかもしれない。

と村落の人間達は少しずつ自分達の無力さを実感していきます。まさに絶望的な状況です。

そして改めてゴールデンカムイはマンガだからという事を抜きにしても登場人物達が強すぎたんだなと思い知らされました。

このままでは村落にいる人間全員が食べられてしまいかねないので僅かな荷物をだけを持ってヒグマから逃げることになってしまいます。

避難先に来てくれた警官達も最初は頼もしく感じていましたが、徐々に装備が違うだけで中身は自分達と同じ人間だと実感し失望していきます。

ここからどうすれば良いのか?
三毛別事件について知っている方ならこの後どうなるかご存じでしょう。
そうです、

伝説のマタギこと「サバサキの兄」です。
羆嵐の作中では銀オヤジ、宗谷の銀という渾名がついております。

最初から彼を呼べば良いのにと思われるかもしれませんが、六線沢・三毛別の辺りから銀オヤジがいる鬼鹿村までは道が険しく、山を超える必要もありました。
そして沢山のヒグマを仕留めてきたという噂と粗野でしかも酔うと暴れて手が付けられないという噂が同じくらい有名だったので皆彼を呼ぶことを躊躇っていました。

しかし実際に来てくれた銀オヤジは前評判が悪すぎたこともあり、まともかつ冷静な頼れる男のようでした。
この少し前にヒグマに襲われた人々の検視にやってきたおじいちゃん医者といい、肝が据わっている人間が登場しただけで安心できます。

銀オヤジの登場で一気に物語が動きます。
クマが下流の方にいるかもしれないという勘が的中しただけではなく、

ヒグマは最初に襲ったのが女性だったので女性の肉の味を覚えてしまい、侵入した家で女性が使用した寝具や衣類を見つけては漁っているのだろうと語った時は内容が恐ろしいこともありましたが、あまりにも経験の深さを裏付ける推測すぎて怖かったです。

そして長かったヒグマと人々の戦いにもついに終止符が打たれます。

その一部始終はこれまでの大変さをずっと追ってきた私まで思わず胸が熱くなりました。

銀オヤジがヒグマを仕留める一連の描写がとてもシンプルでその後は雄叫びを上げたり勝ち誇ったりすることもなく静かに煙管をくゆらせていたのが渋すぎて非常に格好良かったです。

そこまで分厚い本ではありませんが、中身は文章を読んでいるだけのこちらにも寒さや疲労が伝わってくるような見た目より重い小説です。

今日は羆嵐というタイトルとクマは怖いということだけを覚えて帰ってください。


では今回はこの辺で、さようなら。

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