偽体験話①シールを剥がすだけのバイトをした話
【あらすじ】あらすじと言っても私柴島(くにじま)がただ街中に貼られてあるシールを数字が小さい順に剥がすという変わった仕事を頼まれたお話です。
あれは一体何だったのか、何の為だったのか今でも分かりません。
改めましてこんにちは。
私は柴島ちゃちゃと申します。
メイド(見習い)兼しがないVtuberであり、普段は動画やnoteで映画や本の話をしておりますが今回は私の体験談をお話しようと思います。
いつもより長めに書いております。
私が数年前から働かせていただいている関西某所にあるメイド喫茶風カフェには何故か少し変わった方が多く来店されます。今回話そうと思ったエピソードもうちの常連さんがきっかけでした。
「柴島さんさ、最近お金足りてる?」
とストレートに話を振ってきたのは先輩達いわく私が働く前からずっと毎日のように通い詰めている…らしい山田さん(仮)
なぜAさんとかではなく山田さんにしたのか?山田孝之さんをスポーツ刈りにして2、3発ビンタいれたような顔だと周囲が話していたからです。
嘘のような話ですが本当にその通りなんです。
「いやぁ、いつも通りカツカツですね」
趣味の映画だったり本代で月の中旬から月末までいつもギリギリで生きる羽目になる私は素直にそう答えました。ちなみにこれを書いている今もです。
もしここで見栄を張って大丈夫だと答えていたらあの少し不思議で気味悪い出来事と遭遇していなかったと思ったら過去の自分を注意したくなります。
「簡単な仕事だから柴島でもできるよ」
「そんな簡単なんですか?」
「僕の知り合いがシールを剥がす仕事を手伝ってくれる人を探してるんだよ」
「シールを剥がす仕事?」
「うん。詳しくは知らんけど」
そんな怪しい仕事を引き受けるか少し受けるか悩みましたが、その時欲しいDVDがあったし話のネタになると思ってそのシールを剥がす仕事やらを手伝うことにしました。(ウダウダ悩むシーンはこれといって面白くないのでばっさり省略しますね)
後日山田さんから送られてきた地図を頼りに目的地に行ってみると、シールを剥がすという良く分からない仕事をさせるわりにはちゃんとした事務所があり正直驚きました。失礼な話ですがプレハブ小屋的なものを想像していもので…
細かい部分までは覚えていませんが、スーツを着たおじさんが座っている小さな受付とその受付の奥で何人か何らかの事務作業をしておりました。
その人達も全員スーツでした。
待合スペースであろうパイプ椅子が数脚置かれているところには多分私と同じ仕事を引き受けたであろう男女が座っていたと思います。顔は見ていませんが、服装から同年代ぐらいだろうなと感じました。
「では番号順に赤いシールを剥がしてください。全部で20枚あるので頑張ってくださいね」
ザ・公務員という感じのニコニコ顔のおじさんからシンプルにもほどがある説明の後に1枚のプリントと茶色い封筒が渡されました。見事なニコニコ顔だったので以降はニコニコおじさんと呼ばせていただきます。
そのプリントにはシールの見本と先程言われた通りに番号順、つまり1と書かれたシールから順に剥がすようにと証拠としてシールは捨てずに封筒に入れて受付に渡すように書かれているだけでした。
シールは非常にシンプルで真っ赤なシールの真ん中に大きく数字が書かれている可愛さや綺麗さとは無縁なとても無骨なシールです。
シールを剥がす理由すら教えてもらえない何から何まで至極シンプルな説明だけでしたが山田さんから提示された通りなかなか給料も良かったし暇だったのでしっかり働こうと思いました。
引き受けたものの未だに何のためか分からないままスタートしました。けれど秘密の任務をこなしているようで私、若干ワクワクしておりました。
1枚目は事務所から少しだけ離れた電柱にはってありすぐに発見できました。2枚目はそこから少し離れた壁にありました。
その時点で単純な私は若干楽しくなっていました。
実際宝探しのようで非常に楽しかったです。
いつの間にか極秘任務ではなく宝探し気分になっていました。
少し高い場所や人が滅多に入らないであろう薄暗い路地裏でお目当てのシールを見つけた時は本当に貴重なお宝を見つけたようにテンションが上がりました。
そんな感じで12枚目のシールをポストの角から剥がそうとした時、なんとなく視線を感じて振り返ると、無表情のおばさんがこちらを見ていました。
それに気付いた瞬間私はあまりにも驚きすぎて心臓がギュッと縮んだ感覚がしました。
ただ単に偶然目が合っただけだろうと思っている方の為にもう少し詳しく説明すると、
“曲がり角から顔だけ突き出して明らかに私をジッと見ていたであろうおばさんと目が合った」
という状況です。そのおばさんは私が気が付いた数秒後に顔を引っ込めてしまいました。
怖がりの私はビビっている心を無理矢理好奇心で押さえ込んでおばさんがいた角を覗きこんでみましたが影も形もありませんでした。
その後も自分自身が少しビビっている事に気が付いていないふりをしながら、そしてきっとあの人は“ちゃんとバイトがサボらずに働いているのか見張る係”の人だろうというと自分に言い聞かせているうちに段々恐怖心も薄れていき、なんとか言われた通りにシールを剥がし終えて事務所に帰りました。
「お疲れ様でした」
見送られた時と同じくらいニコニコ顔でニコニコおじさんは出迎えてくれました。
封筒にちゃんと20枚揃っているのを確認した後
「初日は大変だろうけどそのうち慣れるだろうか明日も頑張ってくださいね」
わざわざ丁寧に出口前まで見送ってくれました。
翌日
「では今日は緑色のシールを20枚剥がしてください。よろしくお願いします」
日によって色が違うのかなと思いながら事務所からでるとまた運良く1枚目は昨日とほとんど同じ場所に貼ってありました。
途中自販機でお茶を買って少し休憩していると、
昨日のおばさんがやはりこちらを見つめていました。昨日は目があうとどこかに行ってしまいましたが今日は微動だにしません。
何か心境の変化でもあったから上司にしっかり見張るように言われたりしたのか定かではありませんがとにかくこちらをじっと見ています。
やはり見張りなのかと思いちょっと気まずくなって休憩をやめて少し移動すると数メール離れた位置から付いてくるではありませんか。
振り向いておばさんを私も見つめ返してみましたがまったく効果がありません。
どこかで似た顔を見たような気がするなとうっすら考えながら、そしてずっと無言で監視されたままシールを探して剥がすという作業を繰り返しました。
1ミリもやましいことなんてありませんが、見張られているだけで段々自分が何か間違ったことをしてしまったのでは?という気持ちが湧いて昨日のような宝探し気分が全くありませんでした。
それでも何とか昨日より30分遅くノルマを終えて事務所に戻りました。事務所までおばさんと一緒か…と憂鬱な気持ちでちらっと後ろを見るといつのまにかいなくなっていました。じっとりした監視の目がなくなったことが嬉しすぎてどの段階でいなくなったのかなんて気にしませんでした。
昨日と同じようにシールが入った封筒を渡す際に事務所内を少し覗いてみましたが、あのおばさんはどこにも見当たりませんでした。
「そういえばあの社員さん(仮)はもう帰られたんですか?」
「え?」
その時僅かにニコニコおじさんのニコニコが少し崩れました。流石にこれだけだと説明説明不足だと思い慌てて昨日から私の後ろにいたご年配の職員さんですと付け足した。
すると、ニコニコおじさんはうしろにいた若い社員さんを1人呼び止めてなにやら相談し始めました。
非常に小さな声で喋っていたので何も聞き取れませんでした。
帰って良いのかも分からずその場で待機していると、急に顔を曇らせたままのニコニコおじさんから
「その人から何か話しかけられましたか?」
と質問されました。
想定外の質問に驚き即座にいいえと答えると、安心したようにまた元の笑顔に戻りました。
その夜、流石にちょっとおかしいんじゃないかと思い自分なりにこの仕事について考えてみました。
①そもそもあのシールって何
→色分けや番号の意味があるの?
②そもそものそもそも、何故シールを剥がす必要があるのか
→イタズラで貼られた物だから?
③付いてくるおばさんは誰?
→今日の反応を見るに職員じゃなさそう。
今のところ情報と呼べる物を入手できていない為推理のしようがありません。
ただおばさんがシール何か関係があるような予感だけはありました。あのおばさんが何らかの理由でシールを貼り回っていてそれを剥がす私が気に入らなくてじっと見ていたのかもしれません。
そこまで考えましたがじわじわと眠気が襲ってきたので中断して眠ることにしました。
翌日、正直ちょっとこのバイトやめたいな…と思いながら事務所に行くと今日は黄色のシールを剥がしてくるように指示を受け玄関をくぐると、
数歩歩いた先の地面に黄色いシールが貼られていました。数分前までは絶対にありませんでした。
黒い地面に眩しいほど黄色なシールなんて見逃すはずがありません。
そしてもう一つあることに気が付きました。
「シールが少しずつ事務所に近付いてきている」
そこにあった1枚目だけでなく全てのシールが事務所の周囲に近くなっていたから昨日おばさんによる精神的なアクシデントがあっても初日とあまり変わらない時間に終わらせられたのかもしれません。
このシールは一体何なのでしょう?
2枚目3枚目を探している最中にもふと
そういえば初日に同じ仕事を受けに来たと思った2人どころか私の他にシールを剥がしている人を1人も見かけていないことに気が付きました。
これは本当に安全な仕事なのでしょうか?
一度不安に陥ったら後はどんどん悪いことを考えてしまい…
「あの、すみません」
人が接近しても気づけませんでした。ビックリし過ぎて声も出せず思わず後ろに飛び下がってしまい、私に声をかけてきた人も驚かせてしまいました。
最初はあのおばさんがついに声をかけてきたのかと思いましたが目の前にいたのは30代ぐらいの事務員か病院の受付をやっていそうな女性でした。
体験談ぽくAさんと呼びましょう。とくに特徴とか似ている芸能人が思いつかなかったので。
「すいません驚かせちゃって」
「あ、いや私こそ無駄に驚いてしまって…」
Aさんは私が封筒にしまわずつい手に持っていたシールを指差して質問してきました。
「もしかしてシールを貼る仕事の最中ですか?」
「いいえ、剥がす仕事です」
「そうですか剥がす方なんですね」
貼る方?剥がす方?
「お姉さんがコレを貼っていたんですか?」
「私じゃなくて私の友達の知り合いがその変なシールを貼る仕事を昔やっていたらしくて」
「昔ってことは…」
「今はシールと無関係の仕事をしているらしいです。外を歩き回る仕事が合わないみたいだからやめるって言っていたそうです」
「なるほど」
もしかしたら友達の知り合いから何かシールについて聞いているかもしれないと思い聞いてみようとすると、
「ところでそのシールってなんですか?」
と逆に聞かれてしまいました。
「私も詳しく知らないんですよ」
結局何も情報を得られず私もAさんもやることがあるのでそのままお別れしました。
それ以降Aさんと会うことはありませんでした。
それから私は白いシールを探しましたが一向に見つかりません。黄色シールを剥がすためにウロウロしていると黄色のシールではなく黒いシールを発見しました。
しかし近付いてよく見てみると、それは黒いシールではなく真っ黒に塗りつぶされた白いシールでした。サインペンのような物で全体的に雑に塗りつぶされているのだと気付いた瞬間その行為の意味不明さにゾッとしました。
来た道を戻り改めて自販機の側面やカーブミラーを見てみると黒くぐちゃぐちゃに塗りつぶされたシールが何枚か貼られてありました。
黄色ではありませんでしたがそのシールを見せないといけないような気がしてその黒いシールを剥がしました。
それからこれ以上作業を続ける気には到底なれなくて見つけた数枚のシールを封筒に入れて急いで事務所に戻りました。そこまで暑い日ではないのにじっとりと汗をかき、それほど事務所から離れていないのになかなか近付かないように感じました。
「お疲れ様です!」
「お疲れ様です柴島さん」
事務所のドアを開けた瞬間足がもつれて文字通り事務所内に転がり込んで来たそれを目撃してしまいその時の私と同じかそれ以上に驚いたでしょうが、ニコニコおじさんは若干イントネーションがガタガタだったもののお出迎えしてくれました。
その日は無駄に他人を驚かせてしまう日でした。
「もう20枚見つけたんですか?」
「いえちょっと見てほしい物があって」
若干痛む膝をさすりながら立ち上がって先程発見したシールを机に置くとニコニコおじさんは先程は一切見せなかった驚きの表情をはっきりと浮かべていました。そして先程の私よりも酷い冷や汗が滝のように流れていました。
サスペンスやホラー映画では多くの取り乱した成人男性を見てきましたが、現実ではここまで狼狽えた成人男性を見たことがなかったので私はどうして良いか分からずその場に立っておりました。
そのまま立ち尽くしていると様子がおかしいことに気が付いた数人のスタッフがこちらにやってきました。塗りつぶされたシールを発見するとおじさんのように狼狽える人もいれば困ったような表情を浮かべる人もおりました。
それから事務所の隅に置いてある椅子に座らされてどこで見つけたのか、今日剥がすシールは何色だったのか、その時他に人はいたのか等とにかく様々なことを聞かれました。
ところが反対に私がシールについて聞こうとするとあからさまに話題を変えられて結局なんなのか教えてもらえませんでした。
どうやら私が見つけてしまった物は相当厄介な代物だったようです。なんということでしょう。
何やらよく分からない質問責めにあい何も分からないまま解放され帰ろうとすると、ニコニコおじさんでも質問をしてきた方でもないまた別の方に無言で封筒を手渡されました。
非常に疲れていたのでとりあえずお礼を言い受け取りました。
帰宅してから中身を見てみると数枚の一万円札が入っておりました。その日は最初説明された給料日でもない上に提示された金額よりも多く入っていたので本日何度目かの驚きに襲われました。
その日はお風呂に入った後いつの間にか眠ってしまっていました。
翌日いただいた封筒を持っていつもより少し早い時間に事務所へ向かうと事務所の鍵がしまっていました。いつもなら朝早くから誰かしらが仕事をしていたのに。誰かいないか窓から中を覗いてみると昨日まであった受付や机、椅子、棚等の全てがなくなっておりました。
その代わり昨日までなかった黄色いシールが1枚床に貼られていました。そのシールを見た瞬間私は封筒を置いて逃げました。他の番号が書いてあるシールを見つけてしまう前に。
それから約一ヶ月後、私はメイド喫茶風カフェでの勤務や動画制作諸々でそれなりに忙しく例のバイトについて忘れかけていました。
こういう話では大抵きっかけになった人物は行方不明になったり何かしら良くないことが起きがちでしょうが、山田さん(仮)はそれ以降もちょくちょく店に来ては先輩達と雑談をしております。
もぬけの殻となった事務所を見た次の日出勤すると普通に店にいたので一瞬文句を言ってやろうかしらと思いましたが、この人に当たっても意味は無いと思い直しやめました。あと山田さん(仮)が嬉しそうに往復ビンタ(800円税抜)を頂戴しているのを見るとどうでも良くなりました。
(これはシールの話とは関係ないのですが往復ビンタがこの値段で受けられるのはお手頃価格というのは本当なのでしょうか?)
そこからさらに数日後、休憩室で遅めの昼食をとっていると同僚から茶封筒を渡されました。時々ご主人様お嬢様からお手紙をいただくので迷いなく封筒を開けると
その中にはあのシールが大量に入っておりました。
それを見た瞬間あの恐怖を思い出し思わず机の上に封筒を投げつけてしまいました。その音がなかなか大きくテレビを見ながらくつろいでいた何人かが振り返った程でした。机に叩きつけられた衝撃で中のシールが溢れました。赤緑黄白そして黒。
「この封筒だれにもらったんですか!?」
封筒を渡してきたメイドに訊ねると、
「やつれた公務員か会社員みたいな変なおじさんから預かった(もう少し過激な表現をしていたのをある程度まろやかに翻訳しました)」
とのことでした。確証はありませんがおそらくニコニコおじさんだろうと思いました。
あまり触りたくありませんでしたが自分が溢してしまった物なので仕方なく机に散らばったシールを片付けていると、ふと耳にニュースの断片が流れこんできました。
「…したとして、17日、殺人未遂の疑いで住所不定自称実業家の××谷〇〇江を逮捕しました」
××谷という少し珍しい苗字には聞き覚えがありました。なにせニコニコおじさんの苗字も××谷でした。
驚いてテレビを見ると
「…は調べに対し“私を見捨てた兄を呪ってやろうとした。人を雇ってやらせた。けど効果がでなかったから直接私がやるしかないと思ったから”と冷静に語っており警察は…」
画面にはあの時遭遇したおばさんの顔が映っておりました。ニコニコおじさんとあのおばさんが兄妹だったこと、殺人未遂、呪いといっぺんに気になることが襲いかかってきました。
あまりにも情報量が多過ぎます。
そしてそのままニュースは淡々と続き、最後にダンボール一杯のシールが数秒映った後次のニュースに変わってしまいました。
あれは呪いのシールということでほぼ確定でしょう。ならなぜ私にシールがぎっしり詰まった封筒を渡してきたのでしょう?
自宅に帰ってから状況を整理すると
・ニコニコおじさんは異変に気が付いたので人を雇って剥がさせていた。
・おばさんは反対に人に貼らせていた。
貼る側のバイトをしていた方は何かしら支障があったからその仕事をやめたのではないでしょうか?
自分には今の所異変が起きていないのは剥がす側だったからでしょうか?もしかしたら私に自覚がないだけで既に何かが起こっているかもしれませんが。
何か進展があったかもしれないと思い、夜にテレビをつけるとスポーツニュースや政治の何やらの後にようやく××谷さんの事件が取り上げられました。
昼間のニュースと同じ写真が使われているなぁとぼんやりテレビを見ていると、スタジオでさらに詳しく解説する為かモニターにおばさんの写真とシールが詰め込まれたダンボール、盗難された物のように色ごとに分けられたシールが映し出されましたがそこには白と黒のシールがありません。
ダンボールの方にもありません。
ではあの2種類はおばさんの物ではないのでしょうか?また疑問が増えてしまいました。
そのままニュースを見てみましたが結局新しい情報はなく、翌朝のニュースでは読み上げられることすらありませんでした。
この話はここでお終いです。
これ以降は何もありませんでした。
今でもどこかで誰かがあのシールを貼っていると思ったらかなりゾッとしますよね。
私は金輪際関わりたくないです。
また私自身や周りの方が体験した奇妙だったり不思議な話を思い出したらまた書かせていただきます。
それでは今回はこの辺で。さようなら。
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