Shadow in the Cloud/シャドウ・イン・クラウド 凝縮された連綿と続く混沌

米公開日:20210101
日本公開日:20220401

 先日拝見。83分という短い時間の中で展開されていく物語で、この作品では初めに登場人物の細かい日常描写や関係を掘り下げるような人によっては退屈であると感じる描写は無く、「出来事」から物語の幕開けとなる。
 モード・ギャレット空軍大将演じるクロエ・グレース・モレッツさんが入る「ポールタレット」という球形の銃座の中での映像のみで前半の大部分は進む、という珍しくワンシチュエーションで撮影されている。他の男性乗員の様子はほとんど声のみであり、銃座の上の視覚的な様子は観客の想像に委ねられる。後にインタビューで言及されているが、クロエ・グレース・モレッツさんは閉所恐怖症であり、そのことを知った上でこの作品を見ると、他の登場人物が一切映らない場所での演技の難しさに加え、精神的な面でも苦労したということが理解できる。

愛くるしさから本来の顔に

 この作品では「グレムリン」が乗組員を悩ませる。「グレムリン」と聞けば私は反射的に1984年の愛くるしいモノを想像してしまうが、この作中では対極的な存在となる。都市伝説として語られる本来のグレムリン像は「機械をダメにする悪戯好きのモンスター」であり、この作品ではそのままのイメージが採用されていた。戦闘機を壊し、墜落へと導こうとする様はただの悪戯好きでは済まされないが。
 しかし、物語の脅威はグレムリンだけでは無く、第二次世界大戦下であるために、日本のゼロ戦もギャレット達を悩ます。「こんなところまで日本軍が来るはずがない」と、ギャレットは自身が銃座の中から見たゼロ戦の影の話を男性乗員から幻影、虚言だと疑われるが、後に本物であると乗員全員が認知するのである。女性の発言が軽視される様子は、この作品がおそらく掲げているであろうテーマとも繋がる。最後の戦闘機に描かれた女性を軽視しているような絵が焼かれたシーンでは、ギャレットが他の男性乗員にその価値を認められたことを示していることのようにも見て取れた。
 さて、グレムリン、ゼロ戦、男性乗員という三つの悪夢にどう立ち向かっていくのか。主人公のギャレット演じるクロエ・モレッツさんの、戦時下に張り巡らされた忌々しい「女性らしさ」という固定概念を払拭する勢いの勇敢で、躍動感ある演技にも注目しつつ、結末を追うことをお勧めします。

最後にこの映画を一言で表現。
「次々と襲う不安の中で、観客を更に異なる意味で襲うのは、驚愕と安寧のセットだろう。」


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