不肖▪︎ワタクシが脱帽したカメラマン
探偵駆け出しの頃はまだフィルムカメラが主流だった。
当たり前だがデジタルと違って現像するまで写り具合がわからない。
シャッターを切ってプレビューして
「あっ、失敗した。もう一回、てへっ」
とはいかないのだ。
カシャカシャカシャッと連写をしまくって、
「この光と角度いいんじゃない?これにしよう」
では、フィルムがあっという間に無くなってしまう。
そもそも映える要素は不要。
欲しいのは「証拠」
揺るぎ無い「事実」
時間が分かるホームの時計
場所の分かる電柱の住所表記
交差点名の書かれた標識
お店やホテルの看板
そんな「証拠要素」を素早く探しファインダー内に入れ、なおかつ対象者をきっちりおさえ、失敗の許されない一発勝負の一枚を撮るのである。
いま思うと大変シビアな世界だった。
昼間の写真は光があるだけまだいい。
問題は夜だ。
そして素行調査の重要なシーンは概ね暗くなってからである。
フィルムのISO感度は1600。
3200は粗すぎて極力使いたくない。
冷蔵庫に大量にストックしていたのが懐かしい。
徒歩だとバズーカのような望遠レンズを持ち歩いて尾行するわけにもいかないし、望遠になるほどブレるし暗くなる。
出来るだけ近づき、
出来るだけ正面から。
電柱や看板や車の屋根や、人の肩まで借りてブレないように固定した。
「シャッターを切る時は息をするな!」
「狙撃ポイントを探せ」
とは、先輩から散々言われた撮影のコツだ。
相手から絶対に気づかれず、確実にスコープ(ファインダー)におさめられるポイント。
ある有名デートスポット公園でのこと。
ベンチで愛を確めあう対象と相手を撮影すべく回り込み、ここだ!ってポイントを見つけると…。
「ここは俺の場所だ!他に行け!」
と、先客が。
覗きのオヤジだった。
「こっちは仕事だ!」
と逆ギレして追い払ったが、そのオヤジの行為の善し悪しはともかく、
やはりポイントはここだったかと妙に納得したことがある。
芸術的感性がもともと欠如しているのが幸いしてか(負け惜しみ~)、
証拠写真撮影には自信があった。
私だけではない。
当時の探偵はかなりの撮影技術の腕前を持っていたと思う。
そんな私たちの合言葉は
「報道カメラマンに負けるな!」
だった。
FRIDAYやFOCUSと言った写真週刊誌に、かつての勢いがなくなりはじめていた1996年。
週刊文春にとんでもない写真が掲載された。
あの写真だ。
この大スクープを撮影したのが、フリーカメラマンの宮嶋茂樹さん。
当時を語るこちらの記事は大変面白いのでよかったら。
宮嶋さんの著書「不肖▪︎宮嶋」シリーズはあらかた揃えて読むほど心酔した。
著書の中でも大スクープの話しは出てくるが、探偵よりも過酷な張り込みを続けてあの奇跡の一枚を撮ったのだ。
脱帽しかない。
私の中ではロバート▪︎キャパより宮嶋茂樹。
最近ではデジタル加工の技術も飛躍したし、それこそAIの創る画像なんか完全に創造の産物。
フイルムを使っていた時でさえ、現像は「長巻」で頼んでいた。
ネガをカットしないで、そのまま戻してもらうのだ。
「裁判証拠として扱うにはそうしておくのだ」
と教わって、独立してからもずっとそうしていたけど、実際のところはわからない(笑)
探偵を廃業してからも、写真は趣味として私の生活に残った。
そういえば父も写真を好んで撮っていたな。
一度、モノクロ写真を自分で現像して父に見せたら、
「モノクロは、この繊細な濃淡がいいんだよ。よく撮れてるな。」
と誉めてもらったことがあった。
上から目線なのがイラッとするが…。
それでも、滅多に誉めない父だったので驚いたし、やっぱり嬉しかった。
私も自分の息子にカメラを与えてみたけど、あんまり興味がわかなかったみたいだ(笑)
先日こんなLINEがきた。
ほんと、かわいいな、私の息子☺️
なんだ?この終わりかた(^-^;