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音が言葉より痛かった。

ちょうど、THE MODSがMaxellのカセットテープのCMに出ていた頃。

クリスマス近くに、クラスの女の子から呼び出された。
その子はクラスの中でも飛び抜けて美人で、頭も良くて、でもあまりにも美人過ぎるのとクールな印象だったのとで、男子は近寄れず、女子の中でもどちらかというと一人で過ごしていることが多い子だった。

僕もそんなに話したこともなく、突然手紙をもらって驚いたことを覚えている。
*本編では当時の気持ちで「僕」と書かせてもらうのである。

呼び出された場所は、僕と彼女の家の中間あたりにある「神社」だ。
時間ははっきりとは覚えてないけど、真っ暗だったので夜遅めだったと思う。

もう記憶もだいぶ曖昧なんだけど、その子から告白された訳ではなかった。ただ、

「これ聞いて」

と、松任谷由実の「VOYAGER」と言うLPレコードを手渡された。


僕はその頃、友達の影響でSEX PISTOLSやThe Clashなんかを聞いていて、
ニューミュージックと言う言葉自体に、照れくさいような、流行りものみたいなひねくれた印象を持っていたから

「あっ、ありがとう」

と、ちょっと怒ったように受け取ったのを覚えている。

彼女にもらった「VOYAGER」は、しばらく聞くこともなくレコード棚に仕舞われていた。
パンクロッカーが聞いてはいけない音楽だとでも思っていたと思う(笑)

以前よりは話せるようになったけど、それからその子とは何かがあったわけではない。
同じ高校に行ったけどほとんど話したことはなかった。

VOYAGERをきちんと聞いたのは大学に入ってからだった。

僕が「俺はアナーキーにやりてぇんだ!利用されてたまるか!('Cause I, I wanna be anarchy!No dogsbody!)」なんて叫んでいた時、
彼女はこんな落ち着いて繊細な音楽を聴いていたんだと愕然とした。


AIで作ったけどなんか違う( ;∀;)

女の子の方が精神的に早熟だって言われるけど、家でこんな音楽を聴いていた彼女はすごく大人だったんだなぁと思った。


なんでこのアルバムを聞いて欲しいって渡してくれたのかもう分からないけど、告白とか気持ちを告げられるよりもこんなに心に残るのは何故だろう。


お互いに「好きだ!」って真剣に付き合ったことももちろんあるし、結婚だって二回もしてる。(二回とも終わってしまったけど・・・)
でも、告白されたわけでも、告白したわけでもない、そんな恋にも満たない記憶が色あせず一番印書深く僕の心に残っている。

「音が言葉より痛かった」は、Maxellのカセットテープのキャッチコピー。

今の僕にとっては、音は決して攻撃的なものではない。
そう思えるのも、この思い出のおかげかもしれない。

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