転機

　私は、特別な才能はない。頭も良くないし、容姿が優れているわけでもない。突き抜けた個性もないし、本当に印象に残らない人だと思う。
　私はただの通行人くらいの存在だと思う。通行人Aでも通行人Bでもない。ただの通行人。そんな私の境遇を理解してくれようとする大人がいて、受け入れてくれる大人がいて、進む道を肯定してくれる大人が側にいる。私ごときにそんな素敵な大人がそばに居るのだ。

　みんな私の過去を見ない。どんだけ情けなくて、どうしようもない人間でも、朝会えば態度も変えずに挨拶してくれる。名前を呼んでくれて、声をかけてくれる。みんなただ今の私を受け入れてくれるんだ。

　今までの考え方ではダメなんだと気付かされた。本当にダメ。過去ばかりに目を向けて、自分の悲しい感情とか情けなさとかそんなことばかり考えて、自分で自分の未来を潰す。周りにいる人たちがどんなに応援してくれていても自分には出来ないと諦める。そんなんダメだ。私は考え方を改めなきゃいけない。前と今では環境も関わる人たちも違うのに私の思考だけは古いままだ。変わらなきゃ。

　私はこれから先、幾度と今を思い出すだろう。そばにいてくれた大人たちを、他人なのにこんなにも私という人間を理解してくれた人たちのことを思い出す。

　いつでも帰ってこいって言ってもらえた。安心できる環境にいさせてもらえた。人生で初めての経験だった。