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実家じまい奮闘記 序章

実家に築80年ほど経っている古い大きな家がある。
祖父が戦後のどさくさに紛れて
木材や廃材などをせっせと集めてきて建てたそうだ。
座敷には大きな梁が巡らされている。
台所には竈門があって、
水回りには水色の小さな四角いタイルがぎっしりと貼られている。
当時お風呂はなく、私が学生の頃にトイレとお風呂が増設された。
本当に「まっくろくろすけ」が出てきそうな家だ。
そこに住んでいた祖父は、もう30年前に他界しており、
ほどなくして祖母も施設に入り、その後亡くなった。
もう20年近く前のことだ。

先日のお正月、家族で集まった時にその家が話題に上がった。
実家の近所では、古い空き家の解体が目を見張る早さで進んでおり、
久しぶりに遠方から帰ってきた弟などは、
町並みのあまりの変化にただただ驚いていた。
「うちもそろそろ思いつかないとな・・・」
父がポツリと言った。
その家は、父が生まれ育った家。
寂しくないのかと聞くと、
寂しさよりもちゃんとしておきたいという気持ちの方が勝っているという。
そう、それなら早い方がいいよねと、満場一致となった。
昨年の秋、実家のある地域一帯に大粒の雹(ひょう)が降った。
古い家の屋根や壁は穴が空くなどの被害に見舞われ、
実家もその例外ではなかった。
そんなこともあり、両親は早く片をつけたい、と思っていたようだ。

お正月が明けて、3週間。
最近、母の友人が実家の母屋を解体したらしい。
両親は完全にお尻に火がついていた。
実家じまいに向けて、もう家の中はすでに空っぽにしているため、
あとは業者に依頼するだけだ。

私は念のため、書類を確認しておこうと
固定資産税の納税通知書を見せてもらった。
・・・!?
なんと、30年前に亡くなった祖父の名義になっているではないか!
どういった経緯なのか不明だが、
土地は父の名義にきちんと変更されているのに
建物だけが祖父名義になっている・・・。
ちゃんと調べようと、翌日法務局へ謄本を取りに行った。
そこでまたまた驚くことを聞かされた。
まったく知らない人の名義の家が、
父の土地に謄本上、建っていることになっているというのだ。
父も聞いたことがない、誰も知らない人の家。
でも、そんな家は実在しない。

ああ、これから法務局へ通う日々が始まる。
物事というのはとかく、自分がやりたいと思っても一筋縄ではいかないものだ。
今、世間では空き家問題がかなり深刻化していると聞く。
そりゃあそうだろう。
特に田舎はこんな現状、珍しい話ではないはずだ。
次の世代へ移れば移るほど、状況は複雑化していく。
また、親近者とも疎遠になっていた場合、
事はさらに複雑になって、匙を投げてしまうこともあるだろう。

ここで挫けることなく、粛々と終わらせなければ!
という変な使命感が湧いてきて、
なぜか私は、俄然張り切っているのである。

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