マルトリな親と育てにくい子

②面影

親と絶縁して、もうすぐ2年経つ。
いまだに姿形が似ている人を見かけると、一瞬で足がすくみ、身体が硬直する。

絶縁を決めたとき、家から出ず、食べる気力が無く、風呂にも入らず、ただ家で座っていた。気が付くと涙が出ている。

時々やむを得ない用事で外に出ても、似た人を見かけただけで吐き気を催し、気が遠くなる感じがした。父が乗っている車に似た色や形の車を見ただけで涙が止まらなくなった。
今でも動悸がしたり、過去の出来事がパンっと急に思い出されて、冷静でいられなくなることがある。

夜中ふと目を覚まし、まるでゼンマイ仕掛けのように、親を殺しに行こうとすることもあった。その時は、長年やられてきたことをまとめて返す、という思いで頭がいっぱいだった。

殺す、というより、返す、という気持ちだった。
その結果が死に至らしめる、ということは、これっぽっちも頭に浮かばなかった。

殺しに行く前に、警察署を通った。
通り道なのだ。
そこで我に返る、という行為を、少なくとも20回以上、繰り返した。
結局、殺さずに済んた。
ただ、私自身は死んだままだと感じている。

それまで、「死ぬとは思わなかった」と加害者が言うのを理解できなかったが、今は、少しだけ心情を慮れるようになった。

やられたことを返す、という思いでいっぱいになっている時は、その行為の結果には思いが至らない。衝動が突発的であっても、意外と手順などを冷静に考えている自分がいて、そのこと以外がすべて、頭の中から排除されていた。
ましてや、相手にされたことを返しただけなのに、自分自身が償う側の人間に転落してしまうなんて、みじんも思い浮かばない。

夜中に目が覚めて殺しに行こうとするまで、一連の夢の中にいるような感じ。他が一切排除された感覚のまま、突き進もうとしていた。

たまたま通り道に警察署があったからハッとしたが、無かったら私は今頃、ここにはいなかった、と思う。

私は私を守るために、離れたのだ。
他にやりかえす正当な方法があるなら、とは思ったりもするが、今は何も浮かばない。
ただただ、生きて、生きる。今のところ、それしかない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?