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完全論破 フリーマーケットのテレビ問題

あなたはいわゆる『フリーマーケットのテレビ問題』をご存じだろうか。
金額については若干の差異があるが概ね以下の内容である。

あなたがフリーマーケットでテレビを30,000円*で売ろうとしているとする。すると、隣に知らない人がやってきてあなたが売っているのと同型で状態も全く同じテレビを28,000円で売り出した。この時、あなたがとるべき最適な戦略は?
*金額は『フリーマーケット テレビ クイズ』でgoogle検索した際一番に出てくる『教えてgoo』のものを採用した。

聞いたことのない方もおられると思うので先に『解答』とされている内容をお伝えする。
解答:隣の人のテレビを28,000円で買い取り、自分のテレビと同額の30,000円で販売する。

以前にこの問題を出題され、解答を聞いてその時はなるほど、と思った方は改めて、また、はじめてこの問題、解答をみて『それはいい考えだ』とお思いになられた方は胸に手を当ててよく考えてもらいたい。
もし、ご自分が実際に問題と同じ状況に置かれた際、本当に『解答』の行動をとるだろうか。
もちろんやる、とお考えになった方には『人から勧められた投資の話とかマジでやばいから絶対断ったほうがいいっすよ』と強く強くご忠告申し上げたい。
この問題はたとえ話で、安易な値下げを戒めるためのマーケティング的な寓話なのだ、だから話に多少おかしな点があっても仕方がない、という考え方はある。確かに、買い占めと価格のつり上げ、という手法が有効な状況というものは、法的・道義的な問題を抜きにすれば存在はする。しかし、状況がフリーマーケットで、扱うブツがテレビ、というのはたとえとして成立しないレベルでひどすぎる。なぜひどすぎるのか、以下で解説していこう。

①前提の整理
状況はフリーマーケットで商材はテレビである。
これが何を意味するか、箇条書きで挙げていこう。
・期間が限られている
普通、フリーマーケットって開催期間1~3日位で結構短いよねえ。
まあ、ここからの解説での注目ポイントは期間が短いか長いかでなく、期間が限られてる=無限じゃない、ってことなんだけど。フリマアプリなら期間は限定されないけど、問題で隣がどうのこうの、と言っているのと、昔からある話であることからネットのフリマアプリは想定されてないってみなすよ。
・当方も競合も商品は1点のみである
フリマって普通家にあるいらないものを売るわけでしょ?普通の家に同型のテレビって1台しかないよね。実は無限台数でなきゃ何台でも結論は変わらないんだけど色々めんどいからまあ1台って考えていこうよ。
・売れ残った場合自宅に商材は持ち帰らないとならない
現代日本の想定だとそうでしょ。売れなかったらその辺のどぶに捨てて帰る、って前提でも結論は変わらないんだけど一応付帯事項として付け加えとくよ。

②『解答』とされている『28,000円で隣のテレビを購入し、30,000円で販売する』の対案を設定する。
対案:何もしない。30,000円の値札をつけたままあなたはあなたのテレビを販売する。
えっ?と思うかもしれないけどこの話が値下げに対する戒めの寓話とされている以上、値下げしてあなたの利益を下げるわけにはいかないのよ。

③起り得る結果ごとに『解答』『対案』それぞれで得られる利得・損失を確認していく。
ここで見なければならない結果は、『このテレビを30,000円でほしい人が二人以上いるか、ひとりしかいないか、一人もいないか』の3パターンのみである。各パターンで『解答』『対案』の利得、損失を比較する。

パターン1 このテレビを30,000円でほしい人が二人以上いた場合
『解答』の戦略をとった場合
自分のテレビが売れて30,000円、28,000円で買ったテレビが30,000円で売れて差し引きプラス2000円、合わせて32,000円の利得
『対案』の戦略をとった場合
自分のテレビが売れて30,000円の利得

『解答』のほうが32,000円の利得、『対案』のほうが30,000円の利得で解答のほうが差し引き2000円儲かる。問題製作者の意図通り儲かったよ。よかったね!!

でも、なんで『対案』のほうもテレビ売れてるの?って思う?
30,000円でもほしい人が二人以上いるんだから隣の1台が28,000円で売れた後は向こうはもう売り切れてるんだから次の人は君の30,000円のテレビ買うでしょ?当たり前じゃん。
『隣のやつが同じのを28,000円で売ってたんだからお前も28,000円にしろよ』って値下げ交渉されるって?
問題の前提条件に、『売れた後でも隣の価格がわかる』かどうか明示されてないからわからないけど多分出題者は『売れたら隣の価格はもうわからない』って考えてると思うんだよね。
だってさ、もし、もしもの話だよ、売れた後でも隣の価格が残ってるとしてさ、君が28,000円で隣のやつのテレビ買い取って30,000円で売ってるとすんじゃん?そしたらきみはフリマで30,000円のおんなじテレビ2台売ってるわけだよねえ。隣に28,000円売り切れ、の札がある状況で。どう考えたってお客は『こいつ転売ヤーだな』って思うわけじゃん。『対案』のほうで、『隣の人のはもう売れちゃったし、俺は値下げする気ないんで』っていうだけのやつと転売ヤー、君だったらどっちからより買いたくない?もっといえばさ、これがさ、フリマでテレビだからお客は内心で『このくそ転売ヤーが!!』って思うくらいで済むけどさ、状況が江戸時代の飢饉のときでブツがコメだったら打ちこわしにあって一族郎党皆殺し案件だぜ?
ということで隣の28,000円の履歴は残らない方向で考えようよ。君の一族が滅びても困るし。

パターン2 このテレビを30000円でほしい人が一人だけいた場合
『解答』
テレビは1台のみ売れる。となりから28,000円で買ったテレビか君が持ち込んだ方かはどうせ同型だから関係ない。いずれにしても28,000円払って3,0000円もらえるから利得は2,000円
『対案』
30,000円でもほしいとしても、当たり前のことながら隣で28,000円で同一品を売ってるんだから30,000円でもほしい一人は28,000円のほうを買う。利得はゼロ。
パターン2における『解答』の利得は2,000円『対案』の利得は0で、利得の差はパターン1と同じく『解答』のほうが2,000円のプラスとなる。

パターン3 このテレビを30,000円でほしいと思う人が一人もいない場合
『解答』
テレビは1台も売れない。君は隣のテレビを28,000円で購入してしまっているため損失28,000円
『対案』
同様にテレビは1台も売れないが何もしていないのでプラスマイナスゼロ。
パターン3における『解答』『対案』の利得差は損失のない『対案』がプラス28000円となる。

パターン1 『解答』が2000円の得
パターン2 『解答』が2000円の得
パターン3 『対案』7が28,000円の得
となる。

2/3の確率で『解答』のほうが得だって?そんなんだから投資詐欺にだまされるんだよ君は。

パターン3のときのマイナス額見ろよ。パターン1,2のプラス額に対して明らかにやばいマイナスだろ?

俺は全然やんないんだけどギャンブルやる?競馬で例えるとさ、『解答』の選択肢っていうのは要は28,000円の馬券買ってあたれば配当30,000円ってことよ。30,000円÷28,000円で配当1.07倍の馬券買うのと同じってこと。
逆から見てやれば28,000円÷30,000円で93.33%*以上の確率でテレビが売れるっていう何らかのデータなり確信なりがあれば『解答』を選んだ方が期待収益は高いけどそうじゃなければなんもしないで黙ってた方が得ってことよ。

*もちろん当方の売価と競合の売価の差によって配当=期待収益は変動する。
こちらの売価が50,000円で競合の売価が10,000円であれば20%の確率でテレビが売れればいいわけで勝負をかけてもいいレベルの期待収益になる。
ただ、これまでの経験上、この問題の売価の差は大きくても20%程度の設定となっていることが多い。そもそも1つの解答が期待されているクイズ形式で確率勝負を考慮すること自体前提としておかしいわけだが。

もちろん、期間が充分にあれば高い金額でもテレビは売れる可能性がある。でも、前提で見た通りフリマの話なんだから期間は有限なわけだ。3日間くらいで売れるほどいいテレビなのかどうか、問題からは一切判別つかない以上、俺だったら絶対『解答』のやり方は選ばないね。そもそも、雨降ったりして客入りが悪い、みたいなリスクを考慮すべきだろ、普通。あとね、金に換算するのがむずいから利得損失の計算には入れてないけど、パターン3の場合、いらないテレビ2台持って帰んないといけないんだぜ。まあ、どぶに捨てて帰ってもいいけどさ。そのペナルティいれると28,000円のテレビ買うくらいなら馬券買う方がましだろ?



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