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#002 小学校水泳指導の系統性

 「いざ、水泳の指導を!」と思っても何をどう指導したらよいのか困っている先生が多いと思う。その際、学習指導要領を手にすることが大切だが、見る時間もない。といったところが現状だと思う。そこで小学校の水泳指導を学習指導要領をもとに系統性をまとめてみた。
 もと水泳インストラクターとして、水泳の一般的な授業を見ていると、多くの授業は能力差がある子供達にスイミングスクールのレッスンを同時に行っているだけで、「学校体育」として狙いに沿った授業が行われていないと疑問に感じていた。また、泳力差が大きい子供たちが同じクラスにいるため、中身のある授業になっているかと問われるし難しい。無論私も納得のいく授業はまだまだできていない。
 そこで、低・中・高学年のねらいと指導内容を並べ、系統性を見ると縦のつながりを意識した授業が組み立てられたり、技能にこだわることによって技能の低い子の自信を奪うことを防いだりすることができるため、参考にしていただきたい。

第1学年及び第2学年

ねらい① 不安感を取り除く

 低学年の水泳で、第一に考えることは「水慣れを通して、水泳に対する不安感を取り除く」ことである。そのために、ゲーム性の高い活動を多く取り入れたい。水の中を移動する際も、走って競争させたり、水の掛け合いをチームで行わせたり、普段行う活動に+α工夫し、ゲーム性を持たせる。水中での活動を楽しい活動とすることで、「水泳=楽しい」という気持ちを引き出したい。
 また、シャワーを浴びる際には、大きな声を出して10数える、じゃんけんをする、一列になり前の子の肩を持ち列車になって進むなどの工夫で、楽しい活動になると同時に「顔に水がかかっても平気」や「水の中でも呼吸をする」などのスキルを身につけることができる。

ねらい② 水の心地よさを味わう

 二つ目は、「水の心地よさを味わう」である。水泳は、水中で行う活動で、非日常の体験となる。この環境での心地よさを味合わえるようにする。
 具体的には、水の「冷たさ」「気持ちよさ」「浮力=脱力ができる」「抵抗(でも掴めない)」「体が横になった状態で進む(陸上では、足を地面につけ進む、歩く)」などが挙げられる。こういったことを念頭に置いて、指導する際の声かけの幅を広げていく。

ア 水の中を移動する運動遊び

まねっこ遊びやリレー遊びなどを通して、いろいろな姿勢で歩いたり、自由に方向や速さを変えて走ったりする。遊びの要素を大切にして、子供達にとって馴染みのある動物のまねっこをしたり、忍者になりきったりして水中でいろいろな動きをさせたい。この際、前後左右に動いたりジャンプさせたり、緩急をつけた動きを取り入れたりするなど幅広い動きを取り入れるようにする。また、水の中で鬼ごっこをさせるなど陸上でも馴染みがあり、少しの説明で取り組める遊びを取り入れることも大切である。

イ もぐる・浮く遊び

もぐる・浮くために重要になってくるのが呼吸である。また、呼吸は水泳の基本中の基本である。まずは、陸上で「息を吐く→吸う→止める→吐く」の流れをしっかり確認してから水中で行うようにする。水泳における呼吸は、口から吸って鼻から吐くである。このこともしっかり説明し、練習しておくことで、鼻から水が入って水泳嫌いになる子を減らすことができる。
 浮く動作では、息を吸って止める(肺に空気をためる)、脱力し、顎を引いて後頭部まで水につける。頭をしっかり水につけるためには「①水に対する不安感を取り除く」ことが大切である。また、石拾いを行うなどゲーム性を持たせたりペアで手を繋いで安心感を抱かせた状態で顔をすぐに拭けない状態を作ったりするなどの工夫も大切である。

第3学年及び第4学年

ねらい① 水泳運動における「楽しさ」「喜び」に触れる

水泳運動における「楽しさ」「喜び」とは、新しい動きができたり、泳ぐ距離や時間が延びたりすることで得られる。そのため、中学年では、水中ならでは動きを習得させたり、潜ったり浮いたりする時間や進む距離に挑戦したりする活動を積極的に取り入れる。水中で行う活動だからゆえ、日常では味わえない体験を多く得られるようにしたい。

ねらい② 初歩的な泳ぎの習得

 現行の学習指導要領解説では、中学年の水泳運動に置いて「近代泳法の手や足の動かし方などの泳形にこだわる必要がない」と記載されている。そのため、クロールや平泳ぎを習得させることを目指す必要はない。大切なのは、連続呼吸と手足を使って推進力を得ることである。この二つを別々に習得させた上で、組み合わせることを第一に考えたい。

ア 浮いて進む運動

 ここで重要なことは、「浮いて」→「進む」ことである。まずは、大きく空気を吸って肺に空気をためた状態で浮く。そして、脱力して水面にぷかぷか浮いたりだるま浮きや大の字、け伸びなどさまざまな姿勢で浮くようにする。そしたら、バタ足や手を軽く動かし、推進力を得て進むようにする。

イ もぐる・浮く運動

 ここでは「もぐる」と「浮く」を並列の記載となっている。即ち、「もぐる」「浮く」の順序にこだわるのではなく、「もぐる」と「浮く」はセットで考えたい。肺に空気を入れた状態でもぐり静かに浮くまで呼吸を止めたり、浮いた状態から空気を水中で吐き出し沈んだり(もぐる)する活動が考えられる。
 また、ボビングのように立った状態からしゃがみ、潜ってジャンプするなどの運動を取り入れる。この際、水中で息を吐き水面に口が出ると同時に「パッ」と大きく息を吐き、空気を吸って再びもぐる連続呼吸を確実に習得させたい。
 連続呼吸と「ア 浮いて進む運動」が組み合わさると足をつかずに泳ぐことができる。

第5学年及び第6学年

ねらい① 続けて長く、泳ぐ距離・時間を伸ばす

 高学年で大切になってくるキーワードは「続けて長く」である。記録を達成することも求められているが、第一にゆったりと「続けて長く泳ぐ」ことが求められている。そのため、ストップウォッチ片手に、記録に挑戦し続けるのではなく、少ないストローク数で伸びのある泳ぎの習得を目指す。

ねらい② 手と足の動かし方や呼吸動作などの基本的な技能を身に付ける

 高学年になって、クロールや平泳ぎなどの近代泳法の習得が求められる。その際、ポイントとなるのが手と足の動き(役割)を理解し行うことである。スイミングスクールで数年かけて習得する内容を学校体育の数時間で習得することは難しい。だからこそ、手の動きや足の動きをしっかりと理解できるよう子供達に伝える必要がある。

ア クロール

 クロールでは、「ローリング(体の中央を軸に左右に傾ける)」「キャッチアップ(左右の手を前方で揃えてから片手ずつかく)」「呼吸のタイミング(呼吸する側の手をかく動きに合わせて、呼吸する)」の3点をポイントとなる。

イ 平泳ぎ

 平泳ぎでは「手のかきは前方(大きくならない)で肘を曲げながら円を描くように」「足の親指を外側に開いて左右の足の裏や脚の内側で水を挟み出す」「キックの後に伸びの姿勢を保つ」「手を左右に開くと同時にかを顔を前に上げ呼吸する」の4点をポイントとする。また、平泳ぎは左右対称の動きとなる。

ウ 安全確保につながる運動

 背浮きや浮き沈みをしながら、タイミングよく呼吸をしたり、手を動かしたりして、続けて長く泳ぐことができるようにする。この項目が、水泳領域で大きく変わった点であると思っている。以前は、泳げない子もクロールや平泳ぎの習得にこだわり、自信を無くしたり水泳嫌いになったりしていた。しかし、この内容が加わったことで、水泳に苦手意識を持っている子でも、浮いたりなんとなく泳いだりすることができ、水中で体を動かすことの楽しさや気持ちよさを味わうことができるようになった。
 ここでのポイントは、近代永保にこだわらないということだ。クロールや平泳ぎではなく、それぞれの一部を使い、より楽に浮いたり泳いだりすることができるようにする。例えば、足はバタ足で手(呼吸)は平泳ぎで行うことなどが考えられる。

まとめ

 今回、水泳指導について疑問点がいくつかあったため、学習指導要領を基に、各学年でのねらいや指導内容をまとめた。その中で、やはり縦のつながりを意識することが大切で、低学年での水慣れや中学年での連続呼吸が大切であることに気付いた。「とにかくクロールを」「平泳ぎだけでも」と指導を急ぐ先生をよく見受けられるがこのつながりを考えると、姿勢や呼吸が整っていない段階での習得は不可能である。
今、目の前にいる子供がどの段階で躓いているのかに気づき、そこにあったアプローチをしていくことが大切である。

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