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読書感想文/『独立記念日』原田マハ

 メンバーシップ【cafe de 読書】最後の課題図書は、『独立記念日』。
それぞれの主人公が次の一歩を踏み出していく、24の短篇集です。

 どの物語もあったかいです。
 カタチはいろいろですが、それぞれが次のステージへ進んでいきます。
 前に登場した主人公が、別の物語で再登場して、その後が見られるのも楽しい。

 この本、最初に読んだのは確か数年前。
 本棚から探してみたら、4分の3くらいのところに栞がはさまれて(あれ?)、内容も覚えているものは少なかったのだけれど(あの頃ほんとに毎日余裕なかったのでしょう)、その中でもしっかり印象に残っていた、いちばん好きな作品について書いてみようと思います。


『バーバーみらい』

 主人公は、駅から遠く裏に墓地のあるアパートに住み、主食はインスタントラーメンという漫画家の卵。仕事場から見えるチカチカ光る灯りを毎日気にしながら、マンガを描いています。
 ある日チカチカが消えているのに気づいてその辺りを見にいくと、灯りの正体は、みらいさんというおばあさんが営む、おんぼろ理髪店のサイン。主人公を見て、孫が帰ってきたかと思ったと言うみらいさん。
 電球が切れたら店を畳むというみらいさんのところに、主人公は通うようになります。

そして主人公が描くマンガが、『バーバーみらい』。
「そこの女主人と、マンガ家の卵の女の子の話」

 くすっ、とささやかな笑い声。
「どっかで聞いた話だね」
「そう。その女主人に出会ったことで、女の子の心のドアが開く。いままですべてだと思っていた自分の殻から出て、きらきらした世界を呼吸する。それで、彼女は……」

原田マハ『独立記念日』 『バーバーみらい』より

 日常の小さな出会いでも、そこから少しでも何かが満たされて、心の余裕ができたとき、人は次のステージへ進む方法を見つけるのでしょうか。
 自分はこんなもんと思っていた主人公と、ずっと孫の帰りを待ち続けているみらいさんの出会いは、お互いがそういうものだったのかもしれません。

 以前に読んだとき、なぜこの物語がとても印象に残ったのか、どこに惹かれたのか、自分でもわかりませんでした。
 次のステージに進みたくても、その方法がわからなくて、こういう出会いを自分も見つけたかったのだと、今は思います。


 わたしは今年、慣れ親しんだ環境を手放しつつあります。まだ現在進行形です。ここまで来るのにも、とても時間がかかりました。
 今までずっと成り行き任せで生きてきたようなところがあったけれど、いろいろ自分で決断しないといけない状況になり、それでも、そのとき出会っていた人の助けを借りてきました。
 この本を読み直して思ったこと。次のステージ、上がってるのか降りてるのかわからないけど、どちらでも、まあいいか。


 みらいさんは、電球が切れてしまう前に自分でプラグを抜いて、理髪店は閉店します。
 マンガ『バーバーみらい』は出版されて、次の物語で、みらいさんの孫カコちゃんの目にとまります。
 物語は、続いていくんだなぁ。


 
 メンバーシップ【cafe de 読書】は今月で閉店してしまうけど。
 店長の せやま南天さん、楽しい時間をありがとうございました。
 次のお店、楽しみに待ってます。

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