引っ越してから知った事実
上京して初めて住んだマンションは、各駅停車しか停まらない小さな駅にあった。
敷地内には緑が多く、外壁の薄いピンク色のタイルが、陽の光に当たるとオーロラカラーにキラキラと光る。そんな所も気に入って決めた。
それなりに楽しく暮らしていたが、引っ越してから数ヶ月経った頃に空き巣が入った。帰宅すると家の中のものは散乱し、タンス貯金が全て盗まれていた。
中庭に面した部屋だったことが良くなかったらしい。外の通行人からは全くの死角になるからだ。
新入経路はベランダから。窓ガラスが派手に割れていた。
「もう大丈夫だとは思うけど、盗まれた物が物(現ナマ)でしたので、引き続き気を付けてください。防犯用のブザーは必ずつけてくださいね。こちらでも巡回を強化しますから。」
また何か起こっても怖いので、言われた通りに防犯ブザーを窓に取り付けたが、ベランダの窓を開けるたびにブザーのスイッチのオンオフを切り替えねばならず、オフするのを忘れて窓を開けてしまうとけたたましいサイレンが鳴る。何度かやらかした。
そのうち窓もカーテンも開けなくなった。
部屋の空気も澱むし自分の心もだんだん暗くなってきた。
もう引っ越そう。そう決めて、今度は通りからも良く見える角部屋へと引っ越した。
引っ越して落ち着いた頃。
何気なく大島てるを見ていると、ふと思った。
前に住んでいたあの辺りって、事故物件あったのかな?興味が湧いて付近を検索。
すると。まさにこの間まで住んでいたマンションが事故物件だったと言うことが判明した。
嘘でしょ…!
一瞬にして背筋が凍った。私が住んでいた部屋ではなかったが、詳細を見るとどうやら殺人事件だったらしい。10年以上は経過していたからもう昔話なのかもしれないが。
それでもやはり、怖かった。
私は空き巣で済んだが…
もし深夜、就寝中に侵入されていたら…
あの事件と同じことになっていたかも知れない。
たらればではあるが、可能性はゼロでは無いのだ。
この後東京では3回ほど引っ越しをしたが
どの部屋も特に事件も何事なく、快適に生活が出来た。
初めて住んだマンションのインパクトが強すぎて、多少欠陥やら失敗だったと思う箇所があったとしても、まあいいかと許せてしまったりするところもあったのかも知れない。