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俺は井戸の中のヒーローになりたかった

大海などには行かず、優秀な人間のいる場所を避け、狭く人の少ない場所で俺は有難がれたかった。歓迎され、感謝され、尊敬され……そんな人物に。

ああ、なめてた。侮ってたよ。
俺は、自分が結構優秀なんじゃないかって、よっぽど志の高い場所じゃなければ平均以上に活躍ができるなんて、そんなことを思っていた。
だから、狭くて人が少なくてそこそこの場所で、大活躍ができるんじゃないか、笑顔で歓迎されるんじゃないかって思ってた。
以前、過疎地域に行ったとき、その動機はまさにこれだ。
過疎地域なら俺が、若いってだけで歓迎されて、受け入れられて、キモチヨク過ごせるんじゃないかって思ったから行ったんだ。
就活のときに中小を狙ったのも、そんな気持ちからだったのかもしれない。

俺は受け入れられなかった。
どこも俺はいらないそうだ。
そんなもんだ。今までこの傲慢な感情に気が付かなかったんだから。

人とのぶつかり方、なんだったっけ。
中学ぐらいまでは競い合うような切磋琢磨ができていたはずなのに。

高校受験に失敗したとき、本気で上を目指すと誓ったはずだった。
全員見返してやると、その熱意は。

人の頼り方、傲慢な考え、そこそこの走り方、余力を残す頭。

頑張っている人を見て、感動や熱よりも先に負い目を感じるようになったのは、頑張っている人へ向けた歌を聞くと耳をふさぎたくなるのはいつからだったっけ。
ちまたにあふれる疲れた人への慰めの言葉を見ると目をそらしたくなるのはいつから。
私はいつの間にか一生懸命を置き去りにして、ただ揺蕩うように流れるように人生を過ごす。
頑張る人へのエールや疲れた人への慰めを見るたびにただ揺蕩うだけの自分がチンケで軽い、それこそ風で吹き飛ぶビニール袋の様な人間に思えて

「無理をしないで」「がんばりすぎないで」そんな本を見かけると衝動的に本屋から逃げた。
逃げたのは、血を吐くほどの努力をできない自分から。


きみとの約束の場所を遠くから見るだけになったのは。

こんなもんだと、自分を見限るようになったのはいつからだ。


君の像はもう、紡げない。

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