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私を救ってくれたこの言葉

私がロシアからアメリカに引っ越しをしてきたのは2013年の夏、
当時息子が4歳、娘が1歳になってすぐのことだった。

ロシア駐在は新興国地ということもあり、
(勿論会社の福利厚生にはばらつきがあるものの)比較的
「守られた」生活をさせてもらっていた。

例えば、ロシア人の運転手さんが1家族に1人ついていたり、
(何かあった時にロシア語で対応出来る人がいるといないのとでは
ロシアでは全く違うのだ)、自腹ではあるが、ロシア人のベビーシッターさんを雇って日中の子守をお願いできたり(小さい子連れで雪の中を買い物に行ったりしなくてよかったのでこれは本当に助かった)。

ところが、アメリカに引っ越してきた瞬間に、
当たり前だが、運転は全て自分、シッターさんなどという人はいなく、
小さい子供達を連れて自分で買い物をしないといけない。
(日本にいたら当たり前のことではあるのだが、ロシアで大分楽をさせてもらっていたので、このギャップには本当に悩んだし、戸惑った。)

まだ歩けない娘をベビーカーに乗せて、
4歳になったばかりの息子の手を引いて、
ロシア語から英語だらけの世界に突然飛び込んだのである。

それだけでも、不安で泣きそうだった私が
あるグロッサリーストアで本当に泣いてしまいたい位、
子供達がそれぞれに泣き始めて、息子は歩きたくない、
娘は何だか分からないけど泣いている、と、
にっちもさっちもいかない状況になってしまったことがあった。

この時に周りの人にかけてもらえた言葉を10年経った今でも私は忘れない。

「何て可愛い子供達なの。 私にもこういう時代があったわ。本当に可愛い。
ママは大変よね、でも、これこそがPrecious time(貴重な時間)ね」と。

お店で泣きじゃくる我が子の声とか、色々申し訳ない気がしてしまって
呆然とする私にかけてくれたこの言葉。
周りの人達も同意してくれて、一気にその場が和やかになったことを覚えている。

そっか、これは申し訳ないことじゃないんだ、
今だけの貴重な時間なんだ、と。

アメリカにいると、騒ぐ子供達や子供達の荷物を抱えて一杯一杯なママ達に
「That is the mom life!」と声をかけてくれる人達が沢山いる。
そして勿論皆手を差し伸べてくれる。

その度に「自分は大変なだけのママじゃない、皆同じ道を通ってきたんだ」と心強くなって、必死にママをしている自分を誇りに思えたりする。

よく、歳を重ねると自分がしてきた子育ての時期を忘れて
他人の子供達に厳しくしてしまう、という話を聞くが、
アメリカでそのようなお年寄りに出会ったことは、恵まれているのか私は一度もない。

10年前のあの時、グロッサリーストアでかけられた言葉が
違うものだったら、私のアメリカ生活のスタートは暗く寂しいものになっていたかも知れない。
あの時は涙をこらえるのに必死でありがとう、が言えなかったけれど、
あのことがあったから、同じように大変な思いをしているママを見かけたら
声をかけることができるようになった。
「What a precious time! 本当に貴重な時間だね!
It reminds me of our old days(私たちの昔を思い出すよ」って。

日本でも、アメリカでも
一生懸命頑張ってるお母さん達がかけてもらえて嬉しい言葉って実はこれなんじゃないかな。
「今がかけがえのない時間だね」
だって、日々のことに追われて、日々目の前のことに一生懸命で
それが「かけがえのない時間」ってことに自分ではなかなか気付けないから。

こういう気持ちで他人を思いやれる人達が増えてくれるといいなと心から思う。




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