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「正しい性の知識と医療情報を提供する」医学生時代の経験を活かして私が実現したい未来

こんにちは、SRHR推進チーム マネージャーの中村葵と申します。私は、医師として病院勤務後、より予防的なアプローチがしたい、特にSRHR(※セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ )や性教育、女性特有の健康課題の分野について多くの人の力になりたいと考え、ネクイノに入社しました。

現在は、自治体や学校との連携や、ユース世代向けの相談施設「スマルナステーション」(大阪市)の運営に携わるほか、女性の健康的な生活をサポートする幅広いプロジェクトを通し、課題解決に取り組んでいます。

SRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)とは
性と生殖に関する健康と権利(SRHR:Sexual Reproductive Health & Rights)
すべての夫婦・個人が、子供の数・間隔・タイミングを自由に責任を持って決定し、そのための情報と手段を持つこと、高い水準の性や生殖に関する健康を実現するための権利



これまでの経歴

世界で活躍する医師になりたいーー

小学生の時にテレビで見た国境なき医師団に憧れ、医師を目指しました。医学部に入ってからは、途上国医療について学ぶため、学生団体を通じ、アフリカ南部のザンビアで産婦人科実習をしたり、インド・コルカタで貧困層への医療ボランティアをしたりしました。

そこで出会った様々な人や経験をもとに、女性や若者のための医療をしたいと強く思うようになり、医学部卒業後は、医師として病院勤務をする傍ら、性教育団体を通し中高生向けに性教育授業を行ったり、LINEチャットボット制作や性教育トイレットペーパーの制作に関わったりなど、様々な形で日本の若者に性教育を届ける活動を精力的に行なってきました。

チャットボット制作の際にスマルナを知り、ネクイノ代表の石井と出会い、目指す未来に共感して、2020年に入社しました。

「性教育はみんなにとって良い社会を作るためのもの」

■ザンビアでの出会い

ザンビアの首都ルサカからバスで半日ほど南に進んだ小さな村で、一人奮闘する日本人医師のもと、実習をさせていただきました。当時、私は医学部5年生だったので、何か役に立てると思い、期待していたのを覚えています。実際に先生のアシスタント的に様々な経験をさせていただきました。しかし、その期待はすぐに打ち砕かれました。

ある日、診察室に5歳の少女が受診してきました。外陰部の診察をしてほしいとのことです。診察をした先生が「レイプによる傷だね」と言った時の衝撃を今でも覚えています。医学知識をたくさん身につけた私は、足元からすべてが崩れ落ちるのを感じました。医学生として何もできず、ただその子の手を握ることしかできませんでした。

なぜそんなことが起こるかというと、その村ではエイズの原因ウイルスであるHIVが蔓延していて、成人の7〜8人に1人は感染しているという状況でした。そんな中で、「まだ性行為をしたことがない女性と性行為をすればHIVがなくなる」という間違った情報が流布しており、少女への性犯罪が後を立たない現実がありました。

この経験を経て、私の医療や社会に対する考え方が大きく変わりました。もちろん医療は大事で、それが届いていない地域に届けたい、でもその前にもっと必要な情報が届いていないし、病院で待っているだけでは解決できない問題があると思い始めました。

ザンビア・ジンバでの実習の様子

■日本の同世代からの相談を通して感じた課題

日本に帰ってきてから、周りの見え方も変わっていました。当時、20代前半だった私のもとに、日本に住む同世代の友達から様々な相談が寄せられました。「これって妊娠してる?」「彼氏が避妊してくれない」「性感染症かも?」といった内容でした。

その時に、日本の若い世代にも正しい情報が伝わっていなくて、間違った情報の陰で泣いている人たちがたくさんいるということに気づきました。また、自分自身の年齢が上がっていくとともに、今度は妊娠や不妊とキャリアについての相談などもされるようになり、SRHR分野全体の課題として見えてきました。

性教育というと、特殊なことをしている人たち、と思う方もいるかもしれません。あるいは、自分には関係ないと思う方もいるかもしれません。でも、誰もが自分の体のことは自分で決める権利があるし、自分を大事にするための知識や考え方は、人が社会で生きていく上で最も重要なことの一つだと私は思います。

その意味で性教育は、みんなにとって良い社会を作るために必要なものだと考えています。

スウェーデンのユースクリニック視察

性教育に関する活動を進める中で、「ユースクリニック」という概念を知りました。主に欧州を中心に展開されている施設で、10代、20代の若者のための性に関する相談・検査・処置ができる施設です。ご縁があって、2019年にスウェーデンのユースクリニックへの視察をさせていただくことになりました。

スウェーデンでは、1970年代はじめに最初のユースクリニックが始まり、現在では全国に約250ヶ所あります。避妊法や性教育にアクセスできる場所として設置されており、多くの若者が性に関する相談や、低用量ピル、IUS(子宮内避妊具)などの避妊法の獲得を目的に利用しています。その相談・検査・処置にかかる費用は公的資金で補填され、利用者自身は無料で利用できるケースが多いです。

学校でスクールナースと呼ばれる養護教諭のような立場の方から、ユースクリニックの存在を教えてもらったり、授業の一環で実際に施設を見学しに行ったりします。生徒たちも「学校の先生から紹介されたから信用できる。何かあった時にはユースクリニックへ行こう」と思えるそうです。

スウェーデン・ストックホルムにあるユースクリニック

実際に施設を訪問し、現地の職員の方々とお話する中で、これからの時代を生きる若者のために正しい情報や医療へのアクセスを保証するのは当たり前という、若者に寄り添うユースフレンドリーな姿勢を随所で感じました。日本にも、その価値観や仕組みが浸透したらどれだけの人が助かるだろうと思いました。

ネクイノでの仕事

入社後は、様々な経験をさせていただきました。スマルナの相談室には毎日多くの相談が寄せられており、助産師と薬剤師が答えています。それを自治体や学校向けにアレンジしたものを紹介、導入させていただきました。

具体的には、コロナ禍での妊婦向け相談や思春期世代向け相談、災害時の婦人科相談など、それぞれの自治体が抱えている課題解決の一助となれるような相談サービスをご提案しました。

また、学校向けの取り組みとしては、岐阜県立不破高等学校との連携を通し、生理用品を女子トイレの個室ごとに常備し、一緒に「オンライン保健室相談カード」を設置していつでも相談ができるようにしました。

さらに、アンケートなどを通して生徒さんの悩みが顕在化していない、医療従事者に相談しようという発想があまりないことがわかり、相談サービスを提供する前の啓発活動として、性教育セミナーを行いました。

受け身の形の座学ではなかなか興味を持ってもらいにくいと考え、「ユースクリニックへようこそ」というオリジナルの性教育ドラマを生徒と視聴し、性教育YouTuber・助産師のシオリーヌがリアルタイムで質問に答えるといった参加型のセミナーを行いました。

日本はまだまだSRHRの概念や、人権教育としての性教育が浸透しているとは言えない状況にあるかと思います。その中で、どんな形態、動線だったら、本当に必要としている人に届き、相談に結びつくのかということをずっと考えています。

その一つとして、スマルナステーションの運営にも携わっています。ただスウェーデンのユースクリニックをそのまま再現しても難しい現実があることを知り、今の日本や、目の前の人に求められているサポートは何なのかということを日々模索しています。

試行錯誤しながら、今まさに苦難に直面している人、これからの人生のために相談や情報を必要としている人たちに寄り添っていきたいと思います。

ユース世代向け相談施設「スマルナステーション」

スマルナステーションは、「性に関する自己決定をサポートする案内所」です。なかなか人に聞けなかった性に関すること、体や心のことを相談できる場所として、2021年10月に大阪の心斎橋に開設されました。

助産師が常駐していて、生理、PMS、避妊、パートナーとの関係性など、さまざまな相談に対応しています。幅広い年齢の方にご利用いただいていますが、特に10代〜20代前半の方からの相談が多いです。必要に応じて、同じビル内の婦人科クリニックとも連携しています。

より地域のニーズに即した連携を図るため、近隣中学校にて性教育講演を実施したり、男女共同参画センターやNPO、支援団体などと相互に情報交換をしたりしています。

いろいろな国での経験を通して

もともと海外で働きたいと思っていたこともあり、いろいろな国を旅してきました。旅先で、「もしこの国に生まれていたらどんな人生なんだろう」と想像することが多いです。
スウェーデンでは、上記のユースクリニックの他にも、同性カップルのための不妊治療クリニックや相談施設があり、これらもすべて公的資金で運営されています。

街を歩いていると、様々な人が手をつないで歩いていました。同性同士に見えるカップル、親と子どもの人種が異なるように見える家族、みんな当たり前に生活していました。ある小学校の先生と話した時、生徒たちが一番楽しみにしている授業は性教育の授業だと教えてくれました。

一方、インドやコロンビアなど宗教の力が強い国で生きる性的マイノリティーの友達もいます。彼らは、自分の国では好きな人との交際を公にできないけど、外国人である私にはこっそりパートナーを紹介してくれました。

ドイツやフランス、アメリカの医師や医学生と各国の性教育や避妊法について話した時には、日本ではコンドームによる避妊が一番多いという話をしてとても驚かれました。

今まで常識だと思っていたことが、他の国に行き、いろいろな人と話すことで、違った見方になりました。宗教や政治、文化、歴史、すべてが違う場所で、一概にこの国がいい、この国が悪い、ということはないと思います。それぞれの文化を尊重しつつ、それでも私は、SRHRが世界のどこにいても保証されている未来を、一歩ずつ作っていきたいと思っています。

スウェーデン・ストックホルムの街並み

私が実現したい未来

「誰もが自分らしく生きられる」ということを目指しています。性に関する正しい知識を身に付けることは、自分の身体を守り、自分らしい人生を送ることにつながります。自分の性について、子どもを持つのか持たないのかについて、性に関するあらゆることについて、自分で決めるための知識や、必要な医療へのアクセスを届け続けたいと思います。


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