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ロニー・サンダール監督来日!『タイガーズ サンシーロの陰で』トークレポート|EUフィルムデーズ2023

映画でつながる、ヨーロッパ」をコンセプトにしたEU加盟全27カ国の映画を上映するユニークな映画祭「EUフィルムデーズ」が6/2~8/27で東京・京都・福岡・広島の4会場を巡回します!

みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第88回を担当します、スタッフの細川です。

YFFF2022アワード「審査員特別賞」受賞『サンシーロの陰で』が『タイガーズ サンシーロの陰で』というタイトルで、EUフィルムデーズにて上映されています!初回の6/3(土)上映後、ロニー・サンダール監督とプロデューサーのピョードル・グスタフソンさんがトークイベントに登壇されました。今回は、そのトークイベントのレポートをお届けします。
トークでは、我らがYFFF実行委員長の福島さんがトークの司会をさせていただきました。通訳は佐藤雅子さんです。

現代のサッカー産業で生き残るか死か。ロニー・サンダール監督の長 編第2作では、16歳のサッカー選手マーティン・ベングトソンがイタリ アの大手クラブに売られた実話を、ブラックユーモアとプロスポーツの 世界についての独特な視点で描く。子供の頃の夢が、恐ろしい悪夢に 変わってしまう恐怖。どんなものにでも、誰にでも値段がつけられる世 界で、若者の夢への情熱的な執着をテーマにした青春物語。

EUフィルムデーズ

サッカー選手と子供たちが良い成績を取るために受けるプレッシャーには関連性がある

まずは、司会の福島さんから、ロニー・サンダール監督(以下、ロニー)とプロデューサーのピョードル・グスタフソンさん(以下、ピョードル)に作品についてお聞きしました。

左からロニー・サンダール監督、ピョードル・グスタフソンさん、通訳の佐藤雅子さん

福島 この作品はマルティン・ベングソンという選手が実際に経験したことが、「Shadow of sansiro」という書籍に纏められ、映画化されたわけですが、最初の原作が出た時のスウェーデンの社会やサッカー界での反応はどのようでしたか?

ロニー これは非常に大事な本だと思います。エリートスポーツの世界の隠された部分を、内部から見ている証人が語っている話、ということで大変興味深い内容です。また、スポーツに対する見方、あるいはスポーツ・メンタルヘルスに対する新しい議論を呼び起こしました。

この本は、マルティン・ベングソンがインテルを退団した直後、まだ非常に若い時に書いた本です。その後、年を重ねて、選手だった頃とは違う見方も出来るようになり、映画化する頃には、もっと多くのことを語れるようになっていました。

福島 次にプロデューサーのピョードルさんににお伺いします。スポーツの闇の部分を描いているということで、資金集めは苦労されたのでしょうか?
また、映画について、ヨーロッパ内や海外ではどのように受け止められましたか?

ピョードル 資金集めは難しい側面がありました。スポーツ業界は、ダークサイドを描くということは望んでいません。スポーツ境涯はは商業的な世界で、利益を出したいため、誰もこういう話をしたがりません。

しかし、この映画を作ってから、ヨーロッパのクラブ、あるいは監督やコーチがこういう問題に対応することができるようになってきました。さらに、この映画は学校でも上映されています。学校で子供たちが良い成績を出すために受けているプレッシャーと関連性があるからです。

スポーツは社会を映す鏡のようなもの

福島 監督は、この作品の前は、スウェーデンのボルグとアメリカのマッケンローのテニス界のライバルを描いた『ボルグ/マッケンロー 氷の男と炎の男』という作品の脚本を手がけられました。次の脚本作品は、オリビア・ワイルド監督の”Perfect”という作品で、アメリカの女子体操選手の実話の映画化です。
これらはスポーツによる精神性疾患をテーマにした三部作ということですが、テーマを選んだきっかけには個人的な体験などはあったのでしょうか?

ロニー スポーツにはずっと関心を持っていました。ある意味、スポーツというのは社会のさまざまな問題を映す鏡のようなものだと思っています。スポーツをテーマにした映画というのは、勝ち負けが描かれています。ただ、スポーツ界の経済制度についてや、男らしさを求めるという世界のことは描かれません。こういう問題を描いていないので、そこに関心を持っていました。

もう一つの理由は、大きな野心を抱いている人物に大変興味を持っているからということです。あらゆる犠牲を払ってでも目標を達成したいと思っている人たち。そして目標を達成するために自身を見失う人たち。そういったキャラクターに大変関心を持っています。

私自身アーティストとして、同じことを感じることがあります。つまり、これだけ犠牲を払って出る結果はその価値があるのか?ということを私自身、自問自答しているので、共通点があると感じています。

ただ、スポーツに関するは映画もう二度と作らないと思います。

福島 監督はご自身では野心とはどのように付き合っていますか?

ロニー 簡単に言うと、自分でコントロールできたら仕事はしていません。常に自分の限界を目指さなければいけないと思います。それはトップアスリートもそうです。フィルムメーカーとしても、限界に挑まなければなりません。居心地の悪い場所に行かなければなりません。いい作品にならなかったらどうしよう。みんなが気に入ってくれるだろうか。という不安にいつも直面しています。しかし、これを乗り越える回避する方法というのはありません。

ピョードル それはプロデューサーの役割なんです。いろいろな部分を集めて、それを一つにまとめるということをしています。

サッカーは素晴らしい!でもサッカー産業は腐敗している

続いて、Q&Aのコーナーでは、会場のお客さんからの質問を受けました。

ーードイツのロベルト・エンケ選手の自死後、プロ選手のメンタルヘルスについてもサッカー業界も見直すようになっていると思うのですが、状況をご存知でしたら教えてください。

ロニー エンケ選手の件の後も、特に若い選手について状況が良くなったということはないと思います。むしろ悪化していると思います。今はメディアやSNSのプレッシャー強くなってきているからです。

多くのクラブは、例えば精神科医を雇っていると言っていますが、私が聞いてる限りでは、それは宣伝のためにそう言っているのであって、何か改善されたという話は残念ながら聞いていません。まだ長い道のりがあると思います。

ただ、一つ変わったことは、この映画をきっかけに、サッカーをしている子供たちの親とか、チームリーダーの意識が変わったということは言えると思います。例えば、もうバルセロナとかそういうクラブに入れて任せるのではなく、もっと子供を守ろうという親の意識は強くなっていると思います。

ーー主人公の男の子をスカウトする際に、クラブの監督は彼の目を見たことが選んだ条件の一つだと言っていました。果たして彼の目には何があったんでしょうか?そしてそれを失ってしまったんでしょうか

ロニー この少年の目を見て監督が感じたのは、おそらくハンガー、飢えと渇望だと思います。同時にそれは彼の人間としての弱さでもあると思います。彼の大きな財産であるものが、同時に危険なものでもあるわけです。彼は他の人よりもっと成功したいという気持ちが強く、ベストになりたいと思っていますが、ベストになろうとすることは同時に危険を伴うことだと思います。私はマルティン・ベングソンさん自身を知っていますが、彼は今、作家として同じような大きな野心を持っています。

ーー異なる言語の人たちが出てきますが、あの緊張感を保ちながら、どうやって演出していったのでしょうか?
また、EU全体でサッカーというのはスポーツの共通言語だと思うんですけど、やはりすごく闇の部分もあるけれども、希望もあると思います。来年パリでオリンピックがありますが、お互いのコミュニケーションのために我々はどう希望を持って取り組んでいったらよいでしょうか?

ロニー まず、最初の質問ですが、監督として、一つの作品の中で複数の言語が使われる機会を持てたということは、とても恵まれたことだと思います。例えば言葉の通じない第三者に対して、誰かが話をしてる、という状況で緊張感を生み出すことができると思います。実際にマルティンさんが最初に不安や緊張を感じたのも、言葉がわからなかった、というところにありますので、うまくそれが表現できたと思います。私は個人的に複数の言語が使われているということが好きですし、多様性を表すことができると思います。

2つ目については、私はサッカーが大好きです!子供の頃から大好きで、サッカーを通して多くのことを学び、また多くの友達もできました。とてもよい経験を子供の頃も、大人になってからもしています。

サッカーそのものは素晴らしいのですが、サッカー産業、サッカー業界というのは違います。この業界、産業というのは腐敗しています。サッカー産業の腐敗が進めば進むほど、好きだったものが段々好きではなくなってしまいます。ただ、もう一方で、サッカー産業の腐敗が進んでも、10代の選手たちが二つのチームにわかれて試合をしているのを見ると、また大好きになります。

YFFF2022アワード授与式

最後に、YFFF2022アワード「審査員特別賞」の賞状と花束をお渡しする機会もいただきました!

ロニー ありがとうございます。大変光栄なことですし、この作品が日本の皆様にも共感いただいたということをとても誇りに感じています。この作品と一緒に世界中を旅することができたというのも素晴らしい経験です。

また、今日は面白い質問をたくさんいただき、ありがとうございました。みなさまとお話できて、大変嬉しく思います。ありがとうございました。


会場の外ではサイン会が始まり、監督もたくさんのお客様と交流できたことを大変喜ばれていました。

また、プロデューサーのピョードル・グスタフソンさんはスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマン財団の取締役もしていて、フェロー島にあるベルイマンセンターでは毎年6月にベルイマン・ウィークというイベントをしているので、ぜひ遊びに来てくださいとおっしゃっていました。

コロナ禍ということもあり、YFFFでは叶わなかった監督招聘でしたが、このように司会や授与式の機会をくださった駐日欧州連合代表部様、国立映画アーカイブ様、パンドラ様、スウェーデン大使館様に改めてお礼申し上げます。

観たい作品が目白押し!EUフィルムデーズ

今回で20周年を迎える「EUフィルムデーズ2023」は、ここでしか観られない国内初上映作品も盛りだくさんです。会場によって異なりますが、チケットも一般380~600円とお得になっているので、この機会にお出かけください!

東京 国立映画アーカイブ 6/2(金)-  6/30(金)※月曜日は休映
京都 京都府京都文化博物館 6/20(火) - 7/23(日)※祝日以外の月曜休館。なお、7/16-7/17は別特集の作品を上映。
広島 広島市映像文化ライブラリー 7/21 (金) - 8/5 (土)
福岡 福岡市総合図書館 8/9 (水) - 8/27 (日)

番外編:サッカー好きのロニー監督とJリーグ観戦!

トークイベントの翌日は、映画祭スタッフとJリーグ浦和レッズvs鹿島アントラーズの観戦に出かけました。

45,000人のスタジアム、浦和のスウェーデン人のモーベルグ選手の活躍に、おふたりとも大いに興奮してました。

最後までお読みいただきありがとうございました!
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