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「僕らはこうして“不正”を⾒つけた」地方局の若い記者たちは、どうやって重鎮議員のカネの問題を明らかにしたのか

調査報道の裏側を紹介するシリーズ、前回は、多くの記者を動員しての「政治とカネ」の取材手法をご紹介しました。でも、それって大手メディアしかできないのでは? いえいえ、地方で、少数精鋭でもできます!

今回は、その実例。私たちが調査報道の手法を紹介するきっかけになった記事をご紹介します。

書いたのは、松江放送局(当時)の安井俊樹記者。彼はもともと、報道局の科学文化部で文化やサブカルの取材を専門としている記者でした。それが松江放送局への異動をきっかけに、地元の有力議員の「カネ」をめぐる問題に興味を抱くようになりました。

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このスクープのあと、彼は異動した長崎放送局や、現在いる岡山放送局でも「政治とカネ」をめぐる独自の報道を続け、いまや調査報道「界隈」では知られる存在に。NHK内での研修や、ジャーナリスト向けのイベントなどで、政治資金や政務活動費の調べ方を教える講師も務めています。

以下の記事は、2017年4月にNHK NEWS WEBに掲載され、「報道のプロセスを公開した異例の記事」として大きな反響を呼びました。掲載期間が過ぎて読めなくなりましたが、記事の中で紹介した手法や考え方は古びていません。まさに「取材ノート」といった内容なので、こちらに再掲することにしました。

若い記者たちのチームが、どうやって調査報道を実践したのか。安井記者は「地方だからこそできる、調査報道はある」といいます。ぜひご一読を。

そして最後に、安井記者の特別講座「政務活動費の調べ方」を新たに掲載しました。興味のある方はぜひご一読を。

僕らはこうして不正を見つけた 180⽇の調査報道

全国の地⽅議会で、議員の政務活動費をめぐる不正が相次いでいます。

「これだけ噴出していると、もしかしたら⾃分たちが住んでいる県でも不正が起きているかもしれない」

でも何を、どうやって調べたら検証できるのだろうか。⼿探りで始めた取材
は、最後には県議会のベテラン議員が不正な⼯作によって140万円を受け取っていたことを明らかにし、報道の翌⽇に辞職という事態に⾄りました。

記者が、当局の捜査などによらないで独⾃に調べ、報道することを「調査報道」といいます。いまや、世界のジャーナリストがそれに取り組んでいる中、松江放送局の記者たちがどのように挑んだのか、今回、可能な範囲で紹介することにしました。

畑違いでも…

私(安井)は元はといえば、東京の報道局の科学⽂化部で、⽂学から映画、アニメまで⽂化・芸術の分野を担当する記者でした。

それが異動で3年前から松江局に。今は島根県政を担当しています。畑違いの仕事にもすっかり慣れましたが、そんな中で、どうしてもやらなければならないと思うようになった問題がありました。

兵庫県の「号泣県議」のあと、全国に燎原の⽕のように広がった「政務活動費」、略して「政活費」の問題です。富⼭市議会でも14⼈が辞職し、補⽋選挙が⾏われる事態にまでなっていました。

私たち記者の間では、
「調べさえすれば、どこの議会でも問題が出てくるんじゃないか」
そんな声まで出るようになっていました。

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これは島根県でもやってみるしかない。去年10⽉、記者4⼈からなる取材チームが編成され、調査を始めることにしました。

とはいえ、松江局のような地⽅の局では「調査報道」に携わった記者は決して多いわけではありません。⼿探りで始めるしかありませんでした。

まずは「ブツ読み」

政活費に限らず、「政治とカネ」の問題を取材するとき、まず最初にするのが「ブツ読み」です。カネの使いみちなどが書かれたさまざまな資料を⼿に⼊れ、そこに疑問や⽭盾がないか、徹底的に読み解くのです。

ただ、残念ながら島根県議会の政活費についての情報公開は先進的とは⾔えず、議員が提出した「収⽀報告書」はインターネットで⾒られるものの、「領収書」は情報公開請求をして⼿に⼊れるしかありませんでした。

請求で出てきた県議会議員37⼈の政活費の領収書は、平成27年度分だけで7154枚にのぼりました。⽬を通すだけでも⼤変です。4⼈で分担して、⽇々の取材の合間に少しずつ「ブツ読み」を始めました。

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使いみちに疑問がある、⾶び抜けて⾼額、収⽀報告書と⽭盾している、違う領収書で同じような筆跡、議会のルールに反しているそんなものがないか、チェックしていくことにしました。

なんだ︖この領収書は

ブツ読みを始めて半⽉、チーム最年少、1年⽬の川⽥侑彦記者が、ある領収書に「違和感」を覚えました。

出雲市のコンサルティング業者に、60万円もの⾼額の調査を委託したとする領収書です。県議会のベテラン、⺠進党島根県連の代表を務める和⽥章⼀郎議員が提出した領収書でした。

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政務活動費は、議員が調査・研究のために使うものです。

この領収書にも「⾼効率型バイオマス発電による電⼒の地産地消と発⽣熱の農業利⽤の可能性調査」と書かれてありました。

⾼額の調査は、議員活動にどう⽣かされているのか。県議会の「議事録」で和⽥議員の質問を調べましたが、この調査が反映されたような質問は⾒当たりません。調査を委託された業者の⽅も調べましたが、再⽣可能エネルギーに特化した業者ではなく、なぜこの業者を選んだのかも疑問でした。

そこで、平成25年度と26年度の領収書も取り寄せると、やはり同じ業者に調査を委託し、それぞれ50万円と30万円を⽀払ったとしていました。3年分で合わせて140万円、どうもおかしい。

ブツ読みの次は、関係者取材を進めることにしました。

“調査結果”の謎

12⽉、周辺の取材を進めるうちに、ある取材先から思いがけない証⾔を得ました。

「和⽥議員は業者に架空の領収書を作らせて、それを提出している」

⼀瞬⽿を疑いましたが、取材先によると、議員本⼈が語っていたというのです。

しかしそれだけでは何の証拠にもなりません。そこで、本当に調査は⾏われているのか、あるいはどれほどの費⽤がかかる調査だったのかを調べることにしました。

島根県議会では、平成27年度から外部業者に調査を委託した際は、議員が結果を簡単にまとめた書類を提出することを義務づけています。

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和⽥議員が提出した書類を情報公開請求で⼊⼿したところ、「従来のバイオマス発電を⼤幅に上回る1⽇4トンの燃料で2MWの発電が可能な⼩規模の発電機の開発者をつきとめた」という記述がありました。しかし、この性能はすでに稼働している同じ規模の発電プラントの性能を⼤幅に超えるもので、このようなものが開発されているのならば、業界で話題になっていないはずがないと疑問を抱きました。

そこでこの書類のおおもとになった「業者が作成して議員に渡した調査報告書」を、⼊⼿して調べようと考えました。

しかしここで壁にぶつかります。「調査報告書」は、議員本⼈が保管しているため、情報公開請求の対象にならないのです。

とはいえ、私たちが納めた税⾦で作成された報告書ですから、⾒られないなんて理不尽です。

そこで、考えました。

そうだ、議員⾃⾝に⾒せてもらおうと。

議員への直接取材を始めたものの…

和⽥議員と⾯会できたのは、ことし2⽉でした。

最初は「調査報告書」が⼿元にないとして、議員がその内容を説明したのですが、肝⼼なところになるとあやふやになり、⼈名などの固有名詞も出てきません。「調査報告書」の現物を⾒せてほしいと、改めて求めました。

この⽇は、調査の委託を受けたとされるコンサルティング業者の取材も⾏いました。

取材をしたのは、新たにチームに加わった⽩⽯明⼤記者です。ふだんは経済の取材を担当する⽩⽯記者は、⾦融機関や地元経済界にもルートがあり、周辺取材も含めて業者の取材を担当しました。業者の説明にも不明瞭なところがありましたが、議員の説明との間に明確な⽭盾点はなく、つじつまは合っているような印象を受けました。

そして2⽉の下旬、和⽥議員の⽴ち会いのもとで「調査報告書」を⾒ることができました。20ページほどの資料で、開発中のバイオマス発電装置とされる写真や、その性能を⽰す数字なども記載されていましたが、開発者の⽒名など重要な情報は⼀切なく、核⼼部分がぼやかされたような印象を受けました。

撮影させてほしいと頼みましたが断られ、短い時間で内容をメモしましたが、取材を発展させる⼿がかりには乏しいものでした。

疑惑の領収書を⾒つけてから3か⽉、取材は⾏き詰まってしまいました。

わらにもすがる思いで

疑惑の取材は⾏き詰まってはいましたが、取材班はこのほかにも「政治とカネ」をテーマに独⾃の報道は⾏っていました。それが⼀段落した3⽉上旬、取材メモを読み返していて、ふと気付いたことがありました。

取材の中で和⽥議員が、事業への協⼒を呼びかけているとして、ある会社の名前を⼝にしていたのです。

何か事情を知っているかもと、わらにもすがる思いで連絡してみました。
すると、その会社も議員が調査を委託した同じコンサルティング業者から、資料をもらったことがあるというのです。

提供してもらった「営業⽤の資料」、それを⾒た瞬間、衝撃を受けました。
和⽥議員に⾒せられた「調査報告書」と内容がほぼ⼀緒で、さらに「調査報告書」には書かれていなかった、装置の発明者や資料の作成者の名前が記載されていたのです。

重要な⼿がかりを得ました。

事実ではなかった「報告書」

取材班は、再び動き出しました。

資料で新たにわかった関係者やその周辺を取材したり、インターネット上で関係する情報を洗い出したりして、「調査報告書」の内容を1か⽉以上にわたって検証しました。

その結果、開発中のバイオマス発電装置とされる写真が撮影された場所を突き⽌め、関係者の証⾔から、装置は別の⽬的で作られたもので、資料に書かれていたデータは根拠のない数字であることがわかりました。

「調査報告書」の内容の真実性そのものが崩れたのです。

4⽉13⽇、私たちは改めて和⽥議員と⾯会し、取材結果を⽰しました。

議員はぼう然とした様⼦で「うそだろ…」とつぶやきました。そのうえで、実は「調査報告書」の元となる資料を作成した⼈物がいて、コンサルティング業者もだまされ、⾃分も専⾨的な知識がなくて⾒抜けなかった被害者だと話しました。

領収書「架空」と認める

週が明けた17⽇の朝、今度はコンサルティング業者に取材結果を⽰しました。

社⻑も、実は「調査報告書」は別の⼈物から提供された営業⽤の資料にすぎず、それをそのまま議員に渡していたと認めました。

それが本当であれば調査は⾏われていないということになり、政務活動費で⽀払ったはずの費⽤はかかっているはずがありません。

いちばん聞きたかった問いをここでするべきか、迷っていると「何を聞きたいのか」と社⻑が話を切り出してきたので正⾯からぶつけてみました。

「議員に頼まれてうその領収書を作成したのではないか」

すると社⻑は意を決したように、以前からつきあいがあった和⽥議員に頼まれて架空領収書を作ったことを認めました。

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実際に架空の領収書の作成にあたった会計担当者も取材を受け、議員からは⾦はもらっておらず、会社の収⼊にも計上されていないことを証⾔してくれたのです。

議員が不正を認める

コンサルティング業者への取材が終わってすぐ、和⽥議員の携帯に電話をかけ、業者が「架空領収書」の作成を認めたことを告げ、今から直接会って話を聞きたいと伝えました。

議員は、今は移動中なので後で会う場所を連絡する、と⾔って電話を切りましたが、1時間待っても⼀向に連絡がありません。

もしかして、と思い、コンサルティング業者のオフィスの⽅に引き返すと、近くに議員の⾞が停まっていて、運転席には議員がいました。

今しかない。

そう思って、川⽥記者にカメラを回してもらい、議員に話しかけました。

架空の領収書を作らされた側はそのことで苦しんでいる、議員として責任を取る必要があるのではと問いかけると、議員は事実関係を認め、「⽢い考えからやってしった。県⺠には申し訳なく思っている。受け取った政務活動費140万円は全額返還したい」と話しました。

取材した内容をすぐに原稿にまとめ、この⽇の午後6時のニュースで「県議が架空の領収書で政務活動費140万円を受け取る」として報じました。

報道を受け、深夜に緊急会⾒を開いた議員は辞職する考えを明らかにし、翌⽇、辞表が受理されました。

なぜ不正が起きるのか

半年に及ぶ取材を終えていま感じているのは、政活費をめぐる不正の根本には、そもそもの「ルール」に問題があるということです。

例えば、島根県議会では政活費=税⾦で調査を⾏っても、簡単な資料を提出するだけでよく、⼗分に内容を検証できません。他の地⽅議会でも政活費を使った成果物の提出を義務づけていないところが散⾒されます。今回のような「調査報道」でなければ、不正があっても⾒抜くことができないのです。

業者が作成した報告書や業者との契約書などを市⺠がチェックできるようにしなければ、不正はなくならないと思います。さらに、領収書などのインターネットでの公開がまだまだ進んでいない議会が多いことも問題です。公開されていれば、今回問題になったような「うその領収書」を作ろうという意識は低くなると思います。

島根県議会では、今⽉、議員懇話会を設置して、領収書のインターネットでの公開を含め、ルールを⾒直す議論を始めたところです。

透明性の向上に実効性のあるルールが導⼊されるのか、今後も取材を続けたいと思います。(了)

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特別講座:政務活動費の調べ方

以上、2017年の安井記者の記事でした。
政務活動費といえば、ドキュメンタリー映画『はりぼて』が話題となったチューリップテレビ(富山)をはじめ、各地で記者たちが取材に取り組んでいます。
せっかくの再掲の機会なので、安井記者に「政務活動費ってどうやったら取材できるの?」を寄稿してもらいましたよ。

1)そもそも政務活動費って何?

政務活動費は、地方自治法に基づいて地方議会の議員の調査研究などに必要な経費として支給されるものです。

「政治とカネ」の問題でよく話題になりますが、政務活動費から見えてくるものはそれだけではありません。議員が普段どんなことに関心を持っているのか、どんな活動をしているのかといった、議員活動を知る手がかりとしても役に立つ資料です。

2)ネットでチェックできるよ

政務活動費の使い道はどこでチェックできるのでしょうか?
一番簡単なのはインターネットで調べる方法です。近年、政務活動費をめぐる不正が相次いだこともあって、全国で政務活動費の情報公開が進んでいます。

「要旨」と呼ばれるおおまかなまとめを公表しているところは多いのですが、重要なのは個別の支出が分かる領収書の写しです。これがあれば詳しい議員活動が見えてきます。

全国市民オンブズマン連絡会議が去年9月に発表した調査結果では、全国20都府県が政務活動費の領収書の写しをインターネットで公表しているということです。インターネットで議会のホームページをのぞいて、気になる議員の政務活動費を調べてみましょう。

3)ネットになければ議会事務局へ

インターネットで公開されていない場合は、手間がかかりますが議会に閲覧しに行く必要があります。ほとんどの議会では市民が閲覧できるように領収書の写しを議会事務局などに常備しています。

私たちが島根県議会の政務活動費問題の調査報道を始めた時も(2016年)、まだ領収書の写しはネット公開されていなかったので、最初は議会棟に閲覧しに行きました。

遠隔地に住んでいるので議会まで行くのが難しいという場合は、情報公開請求をしてコピーを送ってもらうこともできます。ただ、この場合手数料がかかってしまいます。コピー代は1枚10円というところが多いと思いますが、すべての議員についてコピーを入手しようとすると数万円、場合によっては10万円を超すことも考えられます。島根県議会の全議員分の領収書の写しのコピーを取った時は7万円以上の費用がかかりました。

議会によっては、手数料の負担を軽減するために、政務活動費の領収書の写しをデータ化してCD-ROMに記録したものを数百円で交付できるようにしているところもあります。

4)政治資金収支報告書とあわせてチェックを

議員のカネの流れをチェックするためには議員が代表になっている政党支部や、後援会などの関連する政治団体の政治資金収支報告書も合わせて調べるといいでしょう。これによって議員をめぐるカネの流れの全体像に近づくことができます。

政治資金収支報告書は現在(2021年3月)全国の41都道府県がインターネットで公表しています。(詳しくは前回の記事を)

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その後の「ネット公開」どうなった?

安井記者、ありがとうございました。ところで一番の問題点は、透明性が確保されていないため、「市民がチェックできない」ことだと指摘していましたよね。

「そもそも取材を始めた経緯の一つに、島根県と鳥取県で活動している『市民オンブズ鳥取』の事務局長を務める竹下靖彦さんという方が、政務活動費の領収書をインターネットで公開することを求める陳情をしていた、ということもあったんです。竹下さんには取材でも随分助けていただきました」

オンブズマンというのは、国や自治体といった行政で問題のある行為がないかを監視し、調査や是正のための勧告などをする組織です。日本では「全国市民オンブズマン連絡会議」などがあり、多くの記者がオンブズマンの活動に注目しています。

島根県議会は、2017年3月に竹下氏の陳情を趣旨採択し、4月には各会派代表らによる議員懇話会の最初の会合が開かれました。懇話会では政務活動費の領収書をホームページで公開することで一致。NHKの報道はその直後でした。

「報道の2か月後、2017年の6月に最終的な結論を出して、2017年分からホームページで公開することを正式に決定しました。その時点で領収書までホームページで公開していたのは、全国の都道府県議会では4つだけだったので、島根県議会は政務活動費の透明性確保という点では、先進的な県の1つになったと言えると思います」

前述の通り、全国市民オンブズマン連絡会議が去年9月に公表した調査結果では、全国20都府県が政務活動費の領収書の写しをインターネットで公表しています。

「でも、写しの公表だけでは不十分だという指摘もあります。竹下さんは、『会計帳簿のネット公開も必要だ』と指摘していていますね。会計帳簿が公開されると支出の日時やお金の流れもはっきりと見えるようになるため、より不正がしにくくなることが期待されるからなんです」

前述のオンブズマンの最新の調査によると、47都道府県中11都府県が会計帳簿のネット公表を行っているということです。

地方から調査報道を発信するということ

島根をはじめ、長崎、そしていまいる岡山でも安井記者は「政治とカネ」にまつわる調査報道をしていますよね。

「地方は記者の人数も限られていて調査報道に取り組むのは難しいと思われるかも知れません。確かにメディアの経営環境が厳しさを増す中で地方での調査報道には難しい面もあると思います。しかしその一方で、昔に比べると調査報道を飛躍的にやりやすくしてくれる環境ができています。インターネットの普及です。

“政治とカネ”の調査報道の金字塔でもあるジャーナリストの立花隆さんの『田中角栄研究』を読むと、登記簿謄本や政治資金収支報告書などの資料を集めるのに大変な労力を費やしたことがうかがえます。しかし今の時代はインターネット上に様々な情報があります。職場にいながら膨大な資料にアクセスし、分析することができます。

長崎放送局で調査報道に取り組んだ時は、800以上ある政治団体の政治資金収支報告書をたった2人の記者がごく短時間で調べ、取材の端緒となる情報を見つけました。ネット上に収支報告書のPDFファイルがアップロードされていたからこそ可能でした。こうした資料の整理・分析を容易にするパソコンのツールも豊富にあります」

公開情報を上手く活用できれば、地方の少数のメンバーでも調査報道による深掘り取材が可能だ、ということですね。

「もう一つは、現場は地方にこそある、ということです。民主主義を歪める金権政治の問題に、中央も地方もありません。“政治とカネ”の問題を調べることは、行政のチェックにもつながっていきます。地方であっても、むしろ地方だからこそ、政治とカネの問題を取材しなければならないと思います」

 取材過程を明らかにすることについて

今回、再掲載した記事は、そもそも取材過程を明らかにするということが、異例だと評価されました。それについては。

「取材過程の公開は、科学論文で実験手法を示すように、ある種の説明責任を果たすことです。そういう意味でももっと過程の公開を進めたいですし、それによって自分たちの問題意識も理解してもらえるようになるのではないかと思います。

『180日の調査報道』については、ネット上で思いも寄らない反響をいただきましたが、市民が公の情報にアクセスする上で何がバリアになっているのかということを感じ取ってくださった方が何人もいらっしゃったのが印象的でした。

テレビだと、2分弱くらいのストレートニュースでは単純な事実しか伝えることができず、その背景や、制度の問題について掘り下げることは困難です。記者の一人称の視点で取材過程を明らかにすることで、読者の方にも取材を追体験してもらい、問題の所在をリアルに感じてもらえたら嬉しいです」

確かに。このニュース、テレビでは全国放送にもなりましたが、放送されたのは午後6時台のニュースで、短い時間だけでした。スクープでも地方局の話は、テレビや全国紙では、なかなか「大きな扱い」はされません。しかしそうなると、取材した内容の全てを報じることはできませんし、なぜそれが真実といえるのか、エビデンスを全て示すことも難しい。

いま、メディアが信頼してもらうためには、報じる側の説明責任も必要だと考えています。そのためにも、こうしたプロセスやデータを公開する発信を、今後も続けていきたいですね。

安井 俊樹 岡山放送局
2001年入局。東京では文化取材を担当。2度目の赴任となる島根県で「政治とカネ」の取材を始める。現在の所属は岡山放送局。好きなアニメは富野由悠季監督作品。

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2018年11月、日本記者クラブの記者ゼミにて「政治資金取材」の講師を務める。右は毎日新聞の「情報公開」取材のエキスパート、日下部聡記者。

【安井記者はどんな取材をしてきた?】

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聞き手:熊田 安伸 報道局 ネットワーク報道部
ジャーナリストの知識とスキルを共有する活動をしています。

【シリーズ調査報道】


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