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世界一の洞窟を照らせ!巨大地下空間 龍の巣に挑む

富士山の樹海の洞窟を取材した私と坂本ディレクター。その後、何度も洞窟の番組やリポートを一緒に作りました。

「東京に転勤したら、二人でこれまでの洞窟取材の集大成になる番組を作ろう」

2017年、私が東京に転勤。誓った約束を果たす時がきました。

ミャオティンの入り口をバックに。左が坂本ディレクター、右が私。
中央は探検部時代の同期、服藤。

※2人の出会いまでの経緯は。前回記事は以下からどうぞ!

番組の構想?妄想?

とはいっても番組を作るためにはNHK内の厳しい審査を通らなければなりません。

まずはどんな洞窟に行くか、どのような取材をするか、番組の方針を決めます。

世界一長い洞窟。
世界一鍾乳石が美しいといわれる洞窟。
不思議な生物がいる洞窟。
謎の細菌が見つかった洞窟。
地下に森がある洞窟・・・

どれも魅力的な洞窟ばかりで、なかなか決められませんが、私も坂本ディレクターも、ありきたりな冒険番組にはしないと決めていました。

つまり、すごい洞窟があって、そこにすごい冒険家が挑んで、数々の危険や困難を乗り越えて、最後に辿り着いた絶景を見せて、達成感に満たされた冒険家の言葉で終わり、すごい冒険の様子を紹介するだけみたいな。

それだとアウトドアに興味がある人にしか見てもらえず、多くの人に共感してもらえるような番組にはなりません。

今はインターネットで多くの情報・写真・動画が手に入り、SNSで瞬く間に拡散。ちょっと前まで「秘境」と呼ばれていた場所の多くでは、地元の人たちがスマホを片手に世界中に動画を配信し、だれでも簡単に多くの「秘境」に行ける時代です。

NHKが番組を作るなら、見てくれるたくさんの人たちに何を伝えたいのか。

そう私が取り組んできたのは、危険を冒す「冒険」ではなく、調べる「探検」です。

地球最後のフロンティア「洞窟」で、誰も見たことのない誰も知らないことを調べる。未知から既知へ。人類の持つ知識をほんの少しだけ増やすことができる、つまり「科学」を持って「人類の好奇心」をくすぐるような番組にしたい。まさに、人が自分の足で一歩一歩、謎を調べていく、探検をするような番組を作りたい。

坂本ディレクターと2人で禅問答のような議論やさまざまなリサーチを繰り返し、どんな洞窟でどんな番組にするのか夢や妄想を膨らませていました。

漆黒の闇に閉ざされた世界最大の洞窟

私には気になっていた洞窟が1つありました。
「ミャオティン」
中国南部、貴州省の険しい山岳地帯にある世界でもっとも大きな地下空間を持つといわれる洞窟です。

2015年、私は休暇を利用して中国の湖北省で開かれたアジア洞窟学連合主催の国際学会に出席していました。そのときイギリスの探検チームが、ミャオティンの調査報告をしたのです。

2015年 中国・湖北省で開かれたアジア洞窟学連合の国際学会

2013年の調査でマレーシアの洞窟を抜き、「世界最大」の洞窟になったミャオティン。大学時代、この近くの別の洞窟群で調査を行った経験がありますが、この洞窟の存在は知りませんでした。

しかし一番驚いたのは、発表に出てきたミャオティン内部の写真です。

全然、写っていないのです。

巨大すぎてストロボが届かない。大きさがわかるのは入り口付近で撮られた写真だけです。たくさんのストロボを同時に発光させ、奥行き100mほどが写っていました。人が豆粒のように写っていたので、かろうじてスケールが分かります。

しかし、ここに写っているだけでもミャオティン全体の10分の1ほど。その部分だけでも日本には存在しない、世界でもほとんどない巨大な地下空間です。

なぜ、こんな巨大な地下空間が生まれたのか。
この漆黒の闇に閉ざされた世界最大の洞窟には何があるのだろうか。

撮りたい。誰も見たことのないミャオティンをこの目で見てみたい!
探検家として、そしてカメラマンとして血が騒ぎました。

情報が集まらないけど「現地へ飛べ」

坂本ディレクターにこの話をすると食いつきました。これまでの洞窟取材の経験から「この洞窟には何かあるのではないか?」お互いにそう感じたようです。

しかしこのミャオティン、私が知らなかったぐらいです。国際的な知名度も学術的な知名度も極端に低く、ほとんど情報がありませんでした。日本人でこの洞窟に近づいたことがある人はいないし、イギリスの探検チームや現地の研究者からも私たちが知りたい情報はほとんど得られませんでした。

後に現地に行って分かったのですが、ミャオティンの入り口は厳重に鉄扉で施錠されていて、特別な許可がなければ中に入れません。それどころかミャオティンのあるエリアそのものにも、地元の人ですら入れないようになっていて、近づく事も容易ではなかったのです。

分かったのはこの洞窟には魔物が住むという複数の伝説があり、この地域に住む少数民族、ミャオ族の人々に古くから語り継がれているということでした。

2018年、度重なる提案の出し直しやプレゼンを経て、ついにNHK内でこの番組にゴーサインが出ます。
しかも放送はNHKスペシャルというNHKの「看板」番組で、全て高画質な4Kでの撮影。今回は洞窟、つまり闇が舞台。高感度の4Kカメラを使った映像がメインとなる番組はNHKでも初めてのことで、身が引き締まりました。

日本でできる情報収集や机上の議論も出尽くした。ここからは現地に行って生の情報を手に入れ、自分の目で確かめるしかない。

「まずは現地へ飛べ」

探検部に先輩から後輩へと伝わってきた言葉を思い出しました。

「あの洞窟には龍が住んでいる」

中国・貴州省。まず最初に訪ねたのは山奥にあるミャオ族の村。すると老人が私たちにこう言いました。

ミャオティンのある地域に住む少数民族「ミャオ族」

「あの洞窟には龍が住んでいる。あそこは龍の家族が住む龍の巣なのだ」
「人の行く世界ではない」
「全て照らすことなどできない」

ミャオ族に伝わる話を聞いていると、ミャオティンはただの信仰の対象でもなく、ただの魔物の巣窟でもない。何か人と関わってはいけない別の存在、異世界への入り口であるように思いました。

現地の人も足を踏み入れないミャオティンはどのように誕生したのか。そしてなぜ伝説が生まれたのか、中に入って調べてみたい。

そんな思いを強くし、私と坂本ディレクターとの間に「ちっぽけな人類が世界最大の闇に挑む」というスローガンが生まれました。今思うと、自分たちを鼓舞していたのかもしれません。

そんな私たちを力強い仲間が後押ししてくれました。

世界的に有名な中国の洞窟研究者、張遠海教授。
日本の洞窟研究の第一人者、浦田健作博士。
洞窟写真家であり国際洞窟学連合の幹部も務める後藤聡氏。
30年前、初めてミャオティン調査に参加したフランス人洞窟探検家、ジャン・プタジ氏。

洞窟取材や山岳取材の経験豊富なカメラマンやディレクター、サポートしてくれる洞窟探検家たちなど、総勢29人のチームでミャオティンへと足を踏み入れます。

三途の川ってこんな感じかな

番組の構想から2年。
ついに、私たちはミャオティンの入り口に立ちました。

圧倒的な大きさ。頭上を越えてせり出してくる天井。
無数に並ぶ牙か針山のような鍾乳石。
ごう音をとどろかせながら吐き出される激流。そして奥に続く深い闇。

ミャオティンの入り口から流れ出る地下河川。写真左上に小さく人が写っている。

私たちを飲み込もうとしているかのような巨大な入り口に、ただただ圧倒されました。

「今からここを行くのか…」

洞窟に慣れた私でもさすがに恐怖を感じました。

ミャオティンは地下河川をボートで突破しなければ、その中に入ることすらできません。入り口付近にはかなり昔に作られた小さな治水ダムがありましたが、このダムのせいで逆に水の勢いや水かさが増していました。

もし流されてしまうと、ダムからボートごと転落して岩盤にたたきつけられてしまいます。

私たちは地下河川に沿ってロープを張り、そのロープにボートを繋いで前に進むことで、手を離したとしても流されないようにしました。いわば命綱です。

ボートは6人乗りですが予想以上に川の流れが速かったので、重くならないよう、乗員をラフティング(激流下り)経験者など4人に絞りました。
私もラフティングの経験があり、このボートの先頭に乗り込みました。

ミャオティンの入り口の地下河川を進む

全員が両手でパドルをこがなければ流されてしまうので、ボート上での撮影は私の頭に取り付けた小型カメラだけです。

ちなみにこのボートのかじを取るのは私の探検部時代の同期で、上海で会社を経営している服藤(はらふじ)聡。日本にも中国にもほとんどいない洞窟探検に同行できる中国語通訳として、またラフティングの専門家として、私たちのロケに参加。多大な貢献をしてくれました。

さあいよいよ出艇。
ボートを着水させると、早くも強い水流で持って行かれます。

水深が深いので一見すると水面の流れは緩やかそうでしたが、相当な速さで流れています。

「イーチニー、イーチニー」

4人でタイミングを合わせながら全力でパドルをこぎます。

しかし途中からほとんど前に進みません。
強い流れに逆らって前に進もうとすると、ボートが左右に振られます。
これから設置する命綱も水を含んでどんどん重くなります。

どれくらいこいだかわかりませんが、腕と腰の力が限界に達しそうになったとき、ようやく命綱を張れる場所に到着しました。

さらに奥へと進むと様相が一変します。
流れは緩やかになり、激流の音も小さくなって、やがてほとんど聞こえなくなります。入り口からの光も徐々に届かなくなり、水面も真っ暗。
闇と静寂の中をスーッとボートが進んでいきます。

三途の川ってこんな感じなのかなと思いました。

「暗い塊の圧力を感じる」

しばらくすると陸地が見えてきました。
ここからが本当のミャオティンです。

上陸してあたりを見回すと、ライトで照らせる範囲の地面はゴツゴツした岩や石が転がっています。広い場所であるのはわかりますが、そのときはまだ、これまで探検してきた洞窟と変わりませんでした。

狭かろうが広かろうが、洞窟は基本的に闇なのです。

ライトで照らせる数十m以外は完全な闇

そこで声の反響具合を探ろうと進行方向(と思われる方向)に向かって大声を出します。

「ホーッ!」

すぐに普通の洞窟じゃないと感じました。

普通ならトンネルのように声が反響しますが、ここでは奥に吸い込まれていくのです。うまく表現できませんが、声が震えながら闇に吸収されていくような感じです。そしてよく聞くと「ゴゴゴゴ-」という重低音も聞こえてきます。

じっと見つめていると、闇がこちらに迫ってくるように感じました。一緒に洞窟に入った、日本の洞窟研究の第一人者、浦田博士は「何か暗い塊の圧力を感じる」と表現しましたが、まさにそのような感覚です。

理屈で考えるとこれだけの規模の洞窟なのでそれなりに空気の流れもあり、外気との温度・湿度の差などを肌で感じ、遠くの水流や滴下水などの音が響いてきているから、そのように感じるのだと思います。

しかしもし、そんな科学的な情報がない大昔に、ミャオ族の人たちがたいまつの明かりだけでここに来ていたとすれば、奥に巨大な何かがいると思っても不思議ではないと思いました。

洞窟の中に高さ100mの山が

しかしここもミャオティンの始まりに過ぎません。
ここからが本当の「龍の巣」です。ミャオティンの中は、龍の巣にふさわしく、巨大で複雑で起伏に富んでいました。

洞窟の中に山があり、谷があり、川があり、池があり、滝があり、岩があります。中でも地底に高低差100m近い山があるというのは、驚きでした。

ミャオティンの中で最大の高さ37mの石筍(せきじゅん)。根元に複数の人が写っている。
手持ちの照明だけで照らせるのはこれが限界。

岩も1つがビル数階分にもなるとんでもない大きさで、想像を超えるスケールです。そして、最も恐ろしかったのは巨岩が折り重なり迷路状になったエリアです。ひとたび迷い込むと、来た道も進むべき道もわからなくなってしまいます。

コンパスで方向はわかっています。アマゾンのジャングルや、シベリアの森で迷っているわけではないので、せいぜい1km四方の範囲での話です。しかも世界でも指折りの洞窟探検家や研究者がそろっています。それでも抜け出せないのです。

大小さまざまな岩や水流に囲まれ、どこに行こうにも、それらに阻まれてしまいます。暗いので高い岩に登っても周囲の状況はわかりません。人工の迷路とは全く違います。

写真右上で小型カメラを構えて撮影しているのが私。
巨岩の隙間は深く落ち込んでいて、移動するだけでも細心の注意が必要。

日本も迷路状の洞窟が多いので、私は迷路状の洞窟に強いほうだと思いますが、このスケールではその経験は役に立ちませんでした。気がつくと私もカメラを回しながら必死にルートを探していました。

あとで映像を見返すと、ああでもないこうでもないと他の探検家たちと話し合う私の声もそのままカメラに収録されていて、臨場感がありました。

同じような景色の中、わずかな正解(別のエリアに抜けるルート)を探そうとあがくこと2時間以上、なんとか脱出することができました。

前に進むだけでも相当大変な洞窟です。

これも目に見えぬ闇の圧力だったのでしょうか。以降、ここは「巨岩の迷宮」と呼ばれ、全員から恐れられる場所となりました。

「龍の巣」を照らせるのは誰か

今回の番組の最大のテーマは「世界最大の闇を照らしその全貌を明らかにする」こと。最も難しい課題は、それに必要な照明をどうするのかということでした。

壁や天井、岩や鍾乳石、地下水など、全てが闇で覆われる洞窟では、まずそれらを見えるようにするということが調査の第一歩になります。これができなければ、なぜミャオティンが生まれたのかという科学的な調査も伝説の謎の解明もできません。

余談ですが、生身の人間が体験できる「本当の闇」は、地球の自然界には洞窟にしかないと言われています。

地上なら、夜に明かりのない山奥に行ったとしてもわずかに光があり、目が慣れるとうっすらと周りが見えてきます。また地下室や窓のないスタジオのような部屋で電気を消しても、通常は何かのスイッチのランプや緑色の非常口の明かりがあり、真っ暗にはなりません。深海も真っ暗ではありますが、実際は照明がある潜水艇に乗らないと行けない上に、窓やカメラを通して部分的にしか闇を見ることができません。

一方、洞窟では、ライトを消せば、自分の手のひらを目の前1㎝のところで動かしてもそれが見えません。私は、初めて洞窟に行く人を案内するときに、安全な場所で「ライトを消してみてください」と言います。多くの人は生まれて初めて体験する「本当の闇」の深さと恐ろしさに驚きます。

話が少しそれてしまいました。世界最大の闇を追い払うためにはどうすればいいのか?

ミャオティンは、ただ大きいから照明の設置が大変というだけではありません。さまざまな障害や危険が存在し、歩いて進むことも困難な場所なのです。

大がかりな照明を設置するだけなら、中国にはスケールの大きな映画や舞台、イベントに携わる照明会社がたくさんあります。しかし探検家でも手こずる巨大洞窟に照明を設置した経験を持つ照明会社は、その時点では世界中のどこにもありませんでした。

出会った上海の熱血照明チーム

私たちは事前に複数の照明会社にコンタクトをとり、機材やノウハウ、私たちが考えているような照明の設置が可能かどうかなどを調べました。その中で最終候補に残った照明会社には、直接会ったうえで決めることにしました。

こうして出会ったのが上海の照明会社のチームでした。CEOの韓冬冬さんと初めて会ったときは驚きました。

ミャオティンの入り口に圧倒される上海の照明チーム。手前の男性が韓冬冬さん。

若い!聞くと34歳、私より年下でした。
握手の力も強い!そして伝わってくる熱気!
彼のチームのほとんどが20代~30代前半の若者ですが、これまで山や砂漠などさまざまな困難な場所での照明を成功させ、上海万博など国家事業の照明も手がけていました。

売れっ子の照明会社だった彼らは1年先まで仕事がいっぱい。しかも今回の計画は、同規模の人員や照明が必要な舞台やイベントに比べて予算は少ないし、困難も極まりない。それでも韓さんはこう言いました。

「自分たちの照明の腕で世界最大の闇を追い払う!これはわれわれの名誉をかけた未知への挑戦だ!そのチャンスをくれてありがとう!」

韓さんは「世界最大の闇を照らす」という私たちの計画に驚くほどの興味を持ってくれたのです。まるで青春ドラマの熱血教師のような言葉にこちらも胸が熱くなりました。同時にその熱意と好奇心はまさに未知に挑む探検家と同じものだと感じました。

ほんとに2週間で照明できるの?→できた!

洞窟の中を照らすために用意されたのは92個の照明と6000mものケーブル。韓さんのチームはこれをわずか2週間で設置したのです。もちろん全て人力です。

彼らは照明に関してはプロでも洞窟に関しては素人なのに、驚異的なスピードでした。最終候補に残っていた別の照明会社からは、照明の設置に1か月はかかると言われていました。

ミャオティンに照明を設置するには、まず入り口のあの激しい水流部分に長さ500m、重量3.5トンもある電源ケーブルを設置しなければなりません。しかも、機械や動力は使えないうえに、洞窟の壁などを傷付けないよう環境にも配慮しなければなりません。これだけでも相当時間がかかります。

さらに、中に入っても山越えをして照明を運んでケーブルを張り、その先には「巨岩の迷宮」や水流も控えていて、ほかにも難所はたくさんあります。私から見ても2週間では無理ではないかと思いました。

しかし韓さんたちは「照明の設置は2週間でできる」と言い切り、本当にやってのけました。
これはまず彼らの志気が相当高かったということと、韓さんのリーダーシップによるところが大きかったです。照明チームの結束や統率はピカイチで、チームワークで瞬く間に仕事をこなしていたのです。

真っ暗な中、照明を運ぶ。重さは最大で一つ30kg

それだけでなく彼らは驚くほど綿密に計画を立てて、私たちが要望した以上の準備をしていました。
例えば水中にケーブルを通すための方法。実際に上海の川でケーブルを設置し、事前にテストして最適な方法を見つけていました。

また真っ暗な中での設置作業は地上と違い、照明の位置を見て確認することすらできません。遠くの照明の位置を変更するのに1時間以上歩いていかなければならないこともあります。そのため韓さんは緻密な照明の設置図を事前に書いてきていて、頭の中にたたき込んでいました。

さらに計画通りいかなかった場合の2の矢、3の矢まで考えていました。おそらく私の知らないところでもさまざまな準備をしたうえでの「2週間でできる」だったのだと思います。まさにプロの仕事、脱帽でした。

ついに照らし出された世界最大の闇

最大の課題だった照明の設置も無事に終わり、いよいよ点灯の時を迎えました。

この時までで私も相当体力を消耗し、体も傷だらけでしたが、この日ばかりはそんなことも忘れ、どんな世界が広がっているのか本当にワクワクしていました。何よりもし全ての照明がうまく点灯したら、私たちは「世界最大の闇」を追い払ったことになります。緊張と興奮の瞬間がついに訪れます。

全員手持ちのライトを全て消し、静まりかえった「本当の闇」の中、韓さんのカウントダウンの声だけが震えながら響きます。

「・・・3、2、1、カイドゥン!(点灯)」

闇が消え、浮かび上がった目の前の景色は、何もかもを忘れさせるには十分なものでした。

私たちを圧倒する広大な空間、遠くまで折り重なる巨岩、石像のように林立する巨大な鍾乳石。まさに異世界。別の星に降り立ったようでした。

それは同時に、ちっぽけな人類が、世界最大の闇に打ち勝った瞬間でした。

その圧巻の風景やその後の調査の様子については、私のつたない文章で伝えることはとても難しいので、よろしければぜひ映像を見ていただければと思います。

360°動画で体感する「龍の巣」

画像をクリックすると360°動画がご覧になれます

さて洞窟のような長い話はまだまだ続きます。

後編はこちら!

門田真司 ジャカルタ支局カメラマン

2006年入局。高知・沖縄・福島・いわき・東京を経て、ジャカルタ支局所属。これまで多くの洞窟、山岳、海外取材を行う。沖縄では離島や自然を、福島では原発事故の避難区域を中心に取材。日本洞窟学会に所属し、数々の洞窟を調査してきたが、実は暗くて狭いところはあまり好きではない。現在はインドネシアのジャングルに眠る古い洞窟壁画を取材中。


NHKには探検家がまだまだいます・・・

学生時代にエベレスト登頂した、山村武史 カメラマン

子どものころから蝶を追い続け世界的発見につなげた斎藤基樹 記者


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