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バイオハザード|ゲームの遺伝子解析記録vol.5

はじめまして。ゲームゲノム第5回を担当しました、ディレクターの佐藤圭介と申します。まずは、放送をご覧になっていただき、ありがとうございました。そしてわざわざこのnoteまで見に来て頂き、ありがとうございます。

私は1989年(平成元年)生まれで、物心ついたときにはすでにゲームに囲まれていた「ゲームネイティブ世代」です。この番組の総合演出であり、第1回を制作された平元ディレクターとは同い年で、よくこの言葉をきっかけにお話をするのですが、自身の成長とともにゲームの進化を目の当たりにしてきた世代です。幼少期からゲームで育ったので、少しでも時間があればゲームをプレイする、そんな生活をいまでも過ごしています。三度の飯よりゲームが好きな私にとって、ゲームをテーマに番組を作れたことはこの上ない幸せでした。

ゲーム好きの兄の影響で、家にはゲームソフトがたくさんありました。特に多かったのはアクションゲーム。ロックマンX、ファイナルファイト、ストリートファイター2、魔界村…カプコンのゲームがたくさんでした。(ストリートファイター2では専ら、兄の練習台にされボコボコにされていましたが…)

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ゲームファンならずとも、この「振り向きゾンビ」を見たことがある人は多いのでは?

そんなゲームまみれの幼少期に突如として現れたのが「バイオハザード」でした。
バイオハザード(第1作)は、アメリカの田舎にある洋館へ迷い込んだ主人公たちが、襲いくるゾンビや怪物たちを退けながら、洋館からの脱出を図るサバイバルホラーゲームです。

ゲームハードが進化し、映像もドット絵からポリゴンになり、そのリアルな世界に当時、衝撃を受けました。しかしドラクエ5でさえ「怖い」となかなかプレイできなかった私にとって、バイオハザードはプレイできるはずもなく、布団をかぶりながら兄のプレイを見るだけにとどまっていました。

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ゾンビはもちろん、ただ廊下を歩くだけでも怖いんです

ようやくプレイできるようになったのは、「バイオハザード2」の頃から。手に汗をにじませながらコントローラーを握っていました。でもいま振り返ると、怖いのになぜか夢中でプレイしていました。ドキドキしながら廊下を歩き、突如現れる敵に驚かされ、退けて一息つくのもつかの間ビクビクしながらまた進む…怖いのは普通イヤなはずなのに、どうしてこんなにも面白いのだろう?つい先に進めたくなってしまうのだろう?…初めてバイオハザードをプレイしてから20年の時を経て、今回その正体に迫ることにしました。

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怖いのに、ついついプレイしてしまうんです…

バイオハザードを取り上げるにあたり、とにもかくにもカプコンさんの協力が必要不可欠でした。我々のお願いをカプコンのみなさんは快くお引き受けくださり、その上でシリーズの開発総責任者である竹内潤さんに出演いただけることになりました。

スタジオ画像 竹内潤さん
例え話を織り交ぜながらお話しくださる竹内さん なぜこんなにもトークがうまいのか…

竹内さんといえば、バイオハザード第1作から制作に携わり、「シリーズ史上最も怖い」との呼び声高いバイオハザード7を作り上げた方でもあります。ゲームのエンディングのスタッフロールの最後に名前が出る、そんな雲の上の存在にオンラインで取材をさせていただけることになりました。
取材とはいうものの、私の考えた「バイオハザードが怖いのはこういうエッセンスがあるからに違いない!」と若輩者の私がエラそうに講釈を垂れる形で竹内さんと対面することになりドキドキしながらオンライン会議に臨みました。しかしそんな私とは対照的に、竹内さんは終始ニコニコしながら私の話を聞いてくださいました。そして私の考える「バイオハザードのゲームゲノム」を決して否定することなく、さらにそれを昇華させるように、お話を付け加えてくれました。「怖い」ゲームの開発者は、驚くほど「優しい」方だったのです。

そして番組内では取り扱えませんでしたが、竹内さんはバイオハザード第1作の制作当時を振り返って、

・とにかくリアリティを追求したくて、銃を撃ったあとの「薬莢やっきょうが床に落ちる音」を付け加えた。

・扉を通過する前はドアノブが左についていたのに、通り抜けて振り返ると本来右側についていなければならないノブが左についていた。そんな箇所がいくつかあることが発売直前になって判明した。スタッフ総掛かりとなって徹夜で修正した。

といった細やかなこだわりもお話しくださいました。

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ドアノブ、薬莢やっきょう…細部までとことんこだわりぬくカプコンの姿勢に感銘を受ける

そして竹内さんのお話の中で特に印象的だったのは、「これまでのバイオハザードのスタイルを捨ててもいい。新しい恐怖を描いてみたい。そうして生まれたのがバイオハザード7です。いい意味で、みんなのトラウマになるくらいのものを作ってやろうという気持ちでした」という言葉。

竹内さんはじめ、カプコンの皆さんのゲームに懸ける熱い情熱を感じた瞬間でした。オンライン会議を終えた私の背中は、緊張と竹内さんの熱にあてられてか、汗でびっしょりでした。あと竹内さんはオンライン会議でも収録でもトークうますぎでした。

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バイオハザード7ではこれまでの敵とは違う「見た目は普通の人間」がプレイヤーに襲いかかる

ゲームゲノムは、通常の番組の「ロケ」とは異なり、ディレクターがプレイするゲームをキャプチャ(画面収録)し、それを編集してVTRを作ります。

バイオハザード7をプレイしキャプチャする中で、苦しんだ点がありました。それは、初めてプレイする人の気持ちになって撮影をしなければならないということでした。今回の企画が立ち上がる以前から、私はバイオハザード7をすでにクリアしていたため「どの場所で、何が起きるか」をすべて把握していました。すでにプレイし、何が起こるのかを理解しているということは、それだけ恐怖感が少なくなります。したがって私のプレイはすでに「何が起こるのか知ってしまっている人の動き」になってしまい、視聴者に「恐怖」を与えにくいものになってしまうおそれがありました。ホラーゲームを扱うにあたって、これは致命的です。

そのため常に「私はこのゲームを初めてプレイする人なのだ」と自己暗示をかけながら、撮影を行っていました。かといって、本当に「初めてプレイする人」になりきりすぎると、撮りたいシーンをうまく撮れません。7では序盤、父親ジャックがテーブルを破壊してプレイヤーに襲いくるシーンがあるのですが、破壊する様子はきちんと見えるように捉えつつも、初見プレイヤーのような焦燥感を持ってジャックから逃げなければならない。その塩梅あんばいがすごく難しかったです。また「妻を撃っていいのだろうか…?」という“ためらい”を映像の中で表現するためにチェーンソーで襲ってくるミアとも20回以上戦いました。ディレクターという立場ではありますが、このときだけは俳優でした。

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テーブルを破壊する様子はきちんとおさえつつも、初見プレイヤーの気持ちで逃げることを忘れてはいけない
ゲーム画像
最初に現れる敵がまさか妻のミアだなんて!撃たなきゃやられるけど、本当に撃っていいのか…?

(敵が出てこない)廊下も、ドタバタ走ってしまってはまったく怖くありません。とにかくゆっくり歩くことに心血を注ぎました。ゲーマーとして華麗にプレイしたい!という気持ちを押さえて、背中にむずがゆさを感じつつ、指をプルプルさせながらコントローラーのスティックをほんの少しだけ傾けます。ゆっくり歩くことで、主人公の息遣いも鮮明に聞こえてきます。「廊下は走らない!」小学生のころ先生にされた注意が、まさかここで活きるとは…

そして今回、バイオハザードを取り上げるにあたり、欠かすことのできない方がもうひとりいました。三上真司さんです。

ディレクターとしてシリーズの第1作を作り上げ、バイオハザードの礎を築いた三上さん。竹内さんも師と仰ぐ方です。写真で見たときの第一印象は「職人肌でちょっと怖そうかな…?」でも会ってお話ししてみると、とても気さくな方だということが分かりました。

※番組中三上さんがピアノで『月光』を弾くシーンがありますが、ゲーム中で『月光』を弾いて謎解きをする場面のオマージュです。演奏を快く引き受けてくださった三上さん、ありがとうございました。

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『月光』を弾く主人公ジル 弾き終わると隠されていた扉が開く
画像 三上真司さん
得意の『月光』を弾く三上さん 撮影時、何度も弾いていただいてしまいスミマセン

三上さんの仕事部屋にお邪魔させていただいたとき、ホワイトボードにこんな言葉が書かれていました。

「考えに考え抜いたアイデアより直感で導き出したアイデアの方が勝ることが多い」。

三上さんは作品を作る上で、理論よりも感覚を大事にするといいます。(もちろんプロとしてきちんと「理論」もお持ちです)「わかりやすく伝えようと思った時に、すごく説明してようやく理解できる複雑な構造は、お客さんの食いつきが良くない。得てして最初の10分15分で出たアイデアの方がやっぱりお客さんにも伝わりやすいし、あんまり理屈がない。」作るものは違えど、作り手として、考えに考えて作る私をハッとさせる言葉でした。

そしてその精神は、三上さんの作品作りに如実に表れていると思いました。他ならぬバイオハザードも、感覚的に「怖い」と感じさせてくれる作品だったからです。ちなみに三上さんの好きな言葉は「Don’t think. Feel」(考えるな、感じろ)だそうです。(映画『燃えよドラゴン』ブルース・リーのセリフ)

そしてもう一つ印象的だったのは、三上さんの考える「ゲームの特性=双方向性」についてのお話です。放送に入れられなかった三上さんインタビューを、話してくださったときのままのお言葉で載せたいと思います。

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「ゲームの特性=プレイヤーとの双方向性」について熱く語る三上さん

「映画って見てても内容変えられないじゃないですか。音楽もいくら聴いたって曲調変えれないじゃないですか。でも、ゲームはある程度自分のプレイの仕方によって展開を変えられたりする。ほかのメディアにない、わかりやすい特徴がある。“作品の残り半分を完成させるのはお客さんの手によってのみ”っていう。そこがやっぱりゲームっていうものにしか与えられてない1つの特徴なのかな。そこはすごく大事にしていきたいなって思いますね。」

そして三上さんを師と仰ぐ竹内さんもその言葉に共鳴するように、

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「バイオハザードを通じて、プレイヤーにどんな思いを受け取って欲しいか?」という質問に熱く答える竹内さん

「私たちのゲームはその恐怖を与えているものに対してプレイヤーの皆さんが乗り越えてくれて、初めてバイオハザードは完結すると思っています。その思いをぜひ受け止めて、皆さんには楽しんでもらえたらなと思います。」

とスタジオで語ってくださいました。

三上さんが作り上げた「バイオハザード」
そして、そのバトンを受け取った竹内さんが、そのイズムまでも受け継いでシリーズ作品に注ぎ込んでくれていたこと。
2人のこの言葉を聞いて、胸が熱くなりました。

「怖くてプレイできない」と多くの人々の気持ちを代弁してくださった本田翼さん、シリーズの大ファンでありほとんどのタイトルをプレイしている三浦大知さん、そしてそこに三上さん、竹内さんというスペシャルなピースが組み合わさって、今回の番組を完成させることができました。

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恐怖は面白い!皆さんにもぜひバイオハザードをプレイしてほしいです

大好きな作品を扱うことのプレッシャーと、収録や編集で怒とうのように駆け抜けたこの数ヶ月。「佐藤くん、ゾンビみたいな顔してるよ」と上司に言われた日もありました。でも、とても幸せな日々でした。

改めて、三上さん、竹内さんをはじめ出演者の皆様、カプコンの皆様、番組スタッフの皆様、そして何より番組をご覧になってくださった視聴者の皆様、本当にありがとうございました!


ようやく夜ぐっすりと眠れそ です
 
 

 
でも最近 夜、からだ中 あついかゆい
 
いったいおれ どうな  て
 

 

 
 
かゆい
うま

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「ゲームゲノム」第5回は、2022年11月9日23:28まで「NHKプラス」で見逃し配信をしています。11月5日(土)16:45から再放送も予定しています。

画像 NHKプラス見逃し配信のご案内

ディレクター 佐藤 圭介

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