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ゲームの遺伝子解析記録vol.2 『ペルソナ5』

はじめまして。「ゲームゲノム」第2回を担当したディレクターの幸田です。

父が大のゲーム好きで、物心ついた頃から身近にあったゲーム。子ども向けのタイトルに限らず、広くソフトに触れる中で、私もゲームからいろんな感情や価値観(まさしく“ゲームゲノム”!)を受け取ってきました。

特に印象に残っているゲーム体験は、小学生の時にプレイした「真・女神転生III-NOCTURNE」。突如、魔界と化した東京で、主人公が悪魔を“仲魔”にしながら、世界を創造し直していく壮大な物語です。まだ子どもだった当時、あの退廃的な、けれどもその中に美しさがある世界観に衝撃を受けたのを覚えています。私は「あーいい話だった」で終わらない、ハッピーエンドと言い切れないような映画や漫画などが好きなのですが、そんな趣味嗜好しこうになったのも、もしかしたら、幼少期のこのゲーム体験も関係しているのかもしれません…。

そんな自分の一部ともなっているゲームについて、じっくり取り上げさせていただける喜びをかみしめながら、今回この番組を制作しました。取り上げさせていただいたタイトルは、「真・女神転生」シリーズから派生した「ペルソナ5」。取材後記として、私が「ペルソナ5」から得たゲームゲノムについて語らせていただければと思います!

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ペルソナを使い悪と戦う主人公たち

「ペルソナ5」は、高校生の主人公が悪い大人たちの心に入り込み、心の中での戦いを通して、敵を改心させていく物語です。このゲームをプレイした時、私は寝食を忘れるほど、ストーリーにのめりこみました。特にきつけられたのは、登場人物たちの心情のあまりのリアルさです。

理不尽な主張をする大人への反抗、理想の自分になれない悔しさ、友人と分かり合えない悲しさ…

思春期に感じた心の揺れが繊細に描かれていて、高校時代の思い出の数々が鮮明によみがえってくるようでした。何よりも熱いのは、やはり、主人公たちのペルソナが覚醒するシーン。これまで抑圧していた本音を解放する時のアグレッシブな演出には鳥肌が立ちます。(私は真と双葉のペルソナ覚醒のシーンで涙しました)

「いい成績をとらないといけない」「ルールは守らないといけない」「友達はたくさんいないといけない」

そんな世の中が押し付けてくる同調圧力に対して、疑問や反抗心を覚え始める高校時代。その時の心の葛藤がよみがえると同時に、自分の中に眠る、当時と変わらない熱い自分を呼び覚まさせてくれるようなストーリーでした。

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ペルソナの力に目覚める主人公

そんなリアルな心を描く「ペルソナ5」で、私が受け取ったゲームゲノム。それは番組でも繰り返し語られていますが、やはり「ペルソナ」の大切さです。このゲームの肝である心の力、「ペルソナ」。ゲームでは自分の中の「ペルソナ」を増やし育てることで、強い敵をも倒していけるようになります。

このゲームを手掛けた橋野桂さんに取材したところ、設定の由来は、心理学用語の「ペルソナ」という概念だということです。人は相手やその時々の役割に合わせて様々な顔を使い分けて生活している、ユング心理学では、その相手に合わせた顔のことを「ペルソナ(仮面)」と呼んでいて、それを本作ではゲームシステムに落とし込んでいます。

「ペルソナ」の由来を知った時、私はギクッとしました。

正直、私はたくさんの「ペルソナ」をもつことが苦手です。人に合わせて自分を変えることは、なんだか自分に嘘をついているみたいで、自分が人に見せる顔はなるべく少ない方がいいと思っていたのです。しかし、このゲームをやりこみ、番組にしていく中で、そんな自分の考えが少し変わっていきました。

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町で出会った政治家の手伝いをする主人公

ゲームでは、ペルソナを育てるために、日々、周りの人の悩み相談に乗ったり、手助けをするなど、積極的に人と関わっていく必要があります。人と仲良くなることで、新しい技を教えてもらえたり、行ける場所が広がったりするのが、このゲームならではの醍醐味だいごみです。

そして、人と仲良くなっていく過程が単なる作業ではないのが、本作の味わい深いところ。登場人物たちとの関係が深まるにつれ、その人とのイベントを通して、彼ら彼女らの本音や夢、今にいたるまでの背景などを徐々に知っていくことができ、本当にいろんな人の人生に寄り添っているような気持ちになるのです。

プレイしながら、ふと私は、これまでの自分の生き方を振り返りました。大人になり、学校と違って付き合う人間が選べるようになった今。人に合わせるのは疲れるからと、合わない相手のことは次第に遠ざけるようになっていました。「ペルソナ」が減って、それによって、生きやすくなったけど、実はその分、自分の世界は狭くなっていったんじゃないか…。いろんな相手と付き合えるようになれば、思いもよらなかった世界をのぞけたり、できなかったことができるようになったりする。「自分は自分」と凝り固まるんじゃなく、たくさんの「ペルソナ」をもつことで、自分の世界や可能性はより広がっていくんじゃないか。

ゲームを通して、現実世界のとらえ方が変わった、まさに衝撃的な体験でした。

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自分の心のゆがみを克服する双葉

人の心の世界を巧みに描いた本作。私は、本作で、忘れられないエピソードがあります。それは、番組でも取り上げている双葉のエピソードです。

大好きだった母親が亡くなってしまい、それがもしかしたら自分のせいかもしれない、でももう本人に確かめることができない…。母親を信じたいけど、恐れる気持ちもある葛藤の中で、双葉は母親の幻覚に悩まされるようになります。

大切なものを失った時、人は自分自身の中で折り合いをつけないと、前に進むことができません。でも、その折り合いのつけ方はとても難しく、時には心がゆがんでしまうようなこともある、と思うのです。人生の局面で折り合いのつけ方に悩んだことが、私自身何度もありました。

しかし、本作は、そこにひとつの道しるべを与えてくれています。それは客観的に自分をとらえてみること。双葉は自分の心の中の世界に入ることで、記憶を見つめ直し、自分の心の歪みを克服します。

何かつらいことがあった時、現実がどんどん悪いものに見えていってしまう時があります。そんな時、このエピソードがよみがえり、もしかしたら、自分の心は双葉のように歪んでしまっているのかもしれない、と思えるようになりました。

橋野さんは、収録中、本作に込めた想いについてこう語っていました。

「この物語が他人のヒーローたちの話じゃなくて、自分にもなんか関わってくるというか、自分も無関係じゃないんじゃないかみたいな、そんな感じの体験をしてもらえたらなと思ってつくったんですよ。生きてると結構つらいことあるじゃないですか。何かにぶち当たったときに、なんか今自分の知ってる世界は、一つである必要はなくて、人それぞれに見てる世界がある。また同時に、自分が今思ってるこの世界も、見方一つで捨てたもんじゃなくなるかもしれないとか、なんかそういうふうに思えるようになると、現実と少し自分との距離ができるというか、あまり真に受けずに済むというか。そういうふうになれば、ペルソナ5の主人公たちみたいに、結構軽やかに、少し楽に(生きていける)」

橋野さんを取材させていただいていて、ゲームで心の世界を冒険する中で、実は自分の心の中も冒険していたことに気づきました。ゲームに込められた開発者の温かいまなざしに触れ、ゲームが与えてくれる体験ってすごいなと、改めて感じました。

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ゲームについて語る橋野さん

この数か月…

改めてじっくりゲームと向き合ってみて、ゲームは一度プレイしたら終わりではなく、その時々によって受け取れるゲノムがあることに気づきました。
番組制作を終えた今では、かつてハマったゲームのリマスターを買い、あの頃の感動、そしてあの頃には感じきれなかった新しい発見を求めて、プレイし直しています。

皆さんもぜひ、番組を通して、「あーゲームしたいな~!」「あのゲームもう一回やってみようかな~」みたいな気持ちになっていただければ、何よりうれしいです。

(番組は10月19日(水)午後11:28まで、NHKプラスで視聴できます)

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 ディレクター 幸田 真里奈

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