“予期せぬ妊娠”に悩む、あなたへ
はじめまして。NHK名古屋放送局の編成という部署で働いている井上と申します。
32歳独身でパートナーはいません。24時間365日すべて自分のために時間を使える、いわゆる“おひとりさま”です。
「このあと3分間、特設ニュース編成します!」とか「来週のこの時間に、特番を編成しよう!」みたいなことをする編成の仕事のかたわら、「子ども応援プロジェクト」という名古屋局が立ち上げたプロジェクトにも参加しています。
子ども応援プロジェクト「#わたしにできること~未来へ1歩~」
▽詳しく知りたい方は▽
きょうは、このプロジェクトに込めるわたしの思いをお話しさせていただければと思います。
”予期せぬ妊娠”に悩んでいる方や、身近にそうした悩みを抱えている人がいる方に届けばと思っています。
子ども応援プロジェクトとは
新型コロナウイルスによる1回目の緊急事態宣言が明けた2020年6月に「子ども応援プロジェクト」は発足しました。
“学ぶ”ことも“遊ぶ”ことも制限された子どもたちや、子育てをしている方々もサポートするという目的で、記者やディレクターを始め、アナウンス、編成、広報、事業(イベント担当)、映像・音響デザイン(グラフィックやセット、音響のデザイン担当)、営業や総務などさまざまなセクションのメンバーが参加しています。
私がプロジェクトに参加したのは、プロジェクト誕生からおよそ3か月経った、去年9月。前任の編成担当者が異動となったために加わることになりました。
このときは「自分の身近に子どもはいないし、ましてや子育ての経験もないのに、どうすんのよ!?」という戸惑いと、「NHKを見ない若い人たちに、放送だけで届けても目にも止まらない。だからこそ、番組の作り手ではないわれわれが参加することで、放送以外のアプローチで届けたい」という素直な思いがありました。
このプロジェクト、そして私も、大きく動きだすきっかけとなった、ある事件。
去年6月。当時20歳の女子学生が公園のトイレで出産した赤ちゃんを遺棄したとして、保護責任者遺棄致死などに問われた事件が愛知県で発生しました。
▽事件についてはこちら「愛知・赤ちゃん遺棄事件の背景」▽
遅ればせながら、私が詳細を知ったのは事件の5か月後。事件の背景や課題を取材したリポートを名古屋放送局のニュース情報番組「まるっと!」で見たのがきっかけでした。
「虐待死の半数近くは0歳児で、中でも生後1か月未満にそのうちの4割を占める」という情報と、「対応にあたった医療機関がもう少し女性に寄り添った助言を行ったり、相談窓口につなぐなどの《1歩》があれば、命が助かったケースだったのではないか」という言葉が印象的で、しこりのように胸に残っていました。
そして時間が経つにつれ、
「私たちがやらなくてはいけない、というかやるべきことは、“予期せぬ妊娠”に悩む人たちや当事者になり得る人たちに、ダイレクトに、必要な情報を届けることだ」
と強く思うようになっていきました。
このリポートを制作したのが、名古屋局の猪瀬美樹チーフ・ディレクターです。
長年にわたって、予期せぬ妊娠や特別養子縁組について取材しており、愛知県の児童相談所が30年以上前から全国に先駆けて行ってきた“赤ちゃん縁組(新生児の特別養子縁組)”の勉強会を、子ども応援プロジェクトのチーフ・プロデューサーや記者とともに定期的に開いてきました。
▽「赤ちゃん縁組」について詳しく解説▽
自分たちにできることは何か?
プロジェクトでは、赤ちゃん遺棄事件についても話し合いを重ね、このような事件が二度と起きないようにするために、自分たちにできることは何か?を考え続けました。
こうして、妊娠をめぐって知っておくべき情報をドラマとドキュメンタリーを組み合わせて描く「命のバトン~赤ちゃん縁組がつなぐ絆~」を制作することになりました。
▽番組HP▽
▽NHKオンデマンドで配信中です▽
“届ける”って、なんだっけ?
ドラマの制作が正式に決まるとともに、子ども応援プロジェクトでは、ドラマのPRを集中的に行っていくことになっていました。
しかし、どうしても、番組PRをすることだけが「届ける」ことだとは思えませんでした。あの事件を知った時に感じた「直接、届ける」ことが、本来の“届ける”ことになるんだという思いが再び沸き上がる中、プロジェクトとして出した答えのひとつが、下のカードです。
カードはあえて「番組PR」を前面に出さず、「全国のにんしんSOS相談窓口」を大きく記載。
“予期せぬ妊娠”に悩んでいたり、そうした妊娠をしてしまう可能性が高い世代に“届ける”ために女性メンバーが中心となり、若者が気軽に手に取りやすいデザインと、お財布などに入れていつでも携帯できるサイズのカードにしました。
また、妊娠を女性だけの問題にするのではなく、男性にも同じように知識を持ってもらうために「男女のイラスト」を配しました。吹き出しの文言は、まず「相談窓口を知ってもらう」ことを一番の目的として意識したものにしています。
どこに行けば、若い人たちに出会えるの?
若い人にカードを届けるためにはどうしたらいいか?
それは当たり前のことですが、若い人の目につきやすい場所に設置することです。
このカードの情報を届けるために、まず高校や大学、専門学校などの教育機関、自治体、保健所、産婦人科などといった公益性の高い団体と協力し、カードの設置や配布していくことを検討しました。
しかし、それだけでは不十分かもしれないと思いました。その場所で今悩んでいる「あなた」に情報を届けきれるだろうか。もっと身近に、もっと目に付く場所に展開できないだろうかと。
こうした声を参考に、協力を依頼する団体の候補一覧を作成。そのリストをもとにカードの設置交渉を進めていきました。
企業や店舗などと設置の交渉を担当したのは、営業推進部・小栗花。
こちらは主に東海地区で展開しているドラッグストアの様子です。愛知県下117店舗で、妊娠検査薬売り場の隣に設置してくださいました。
そして、大手コンビニエンスストアのトイレ。愛知県内、ほぼ全店舗にあたる1400店に置かせていただきました。
今回快諾してくださったコンビニの担当者さん、今までNHKが身近な存在ではなかったと、こっそり教えてくれました。
カードを設置してくれた学校もあります。協力してくれた愛知県立半田高校の養護教諭の加藤先生は、
と話されていました。
テレビを見ない人にも、必要な情報をどう届けるか。
公共メディアとして、どう社会の役に立てるのか。
ずっとそのことを考えて、これを読んでいる“あなた”に必要な情報を届けたいと思っています。
番組をご覧にならなくとも(もちろんご覧いただければありがたいです!)、このカードを、この情報を持っていることが「小さな命」を救うことにつながることを信じ、このプロジェクトを続けていきたいと思います!
最後に、中部7県の皆さま向けとなりますが、ドキュメンタリードラマ「命のバトン」は、総合テレビでの放送を予定しています。
【放送日時】12月11日(土)総合 午後4:15~
中部7県以外の方のため、「NHKプラス」でも14日間の「見逃し配信」を予定しています。テレビでご覧になれない場合は、こちらからご覧いただければと思います。
▼NHKプラス▼
私たちの取り組みで、「予期せぬ妊娠」で苦悩されている方々の不安を取り除くことはできませんが、誰かひとりでも、何かひとつでも、「知る」きっかけをお届けしたいと考えています。
どうか「予期せぬ妊娠」に悩むあなたへ、この“情報”が届きますように。