恋せぬふたり制作日誌②第1回のこんなところに注目!
毎週月曜よる10時45分から放送中のよるドラ「恋せぬふたり」。
はじめまして。第1回の演出を担当しました、押田です。
今回このドラマで一番大事にしたところは、アロマンティック・アセクシュアル(以降アロマアセク)をフィクションでどう表現するかということ。
実は「アロマアセク」を主人公にしたドラマを国内の地上波テレビで描くのは初めてに近く、また、当事者ではないものがドラマ制作の主要な部分を担っていたため、誤解があってはいけないし、誰かを傷つけるものにはしたくないという思いがありました。
だからこそ、考証の方に確認しながら、どう表現したら感覚的に近いかなどを探っていく日々でした。
特に第1回に関しては、咲子の「恋愛がわからない」という感覚と「恋愛がわからないことがわかった」ときの表現をどうするのかが難しいところです。
※「アセクシュアル」に関しては、今後触れていきます。
まずは「恋愛がわからない」という感覚についてです。 当事者の方に取材したときに多く聞かれたのが、恋愛にまつわる話が始まったとき、「霧がかかる」「モヤモヤ」「居場所がない感じ」「真っ白になる」などでした。
ただ、当事者ではない制作者がその感覚を言葉で再現することは実はとても難しい。だからこそ、脚本の吉田恵里香さんと話し、今回はあえてその感覚を説明するようなセリフ(モノローグ)はいれないようにしました。その分、音と映像でどう見せるか。今回は、下記の三つを選択することにしました。
①目や表情の変化を丁寧に見せる
咲子役の岸井さんは、困惑や居場所がない感じを繊細な表情で演じてくださっているので、周りに気づかれないけど、変化するその表情を逃さないようにできるだけアップで切り取ることを重要視しました。
②スプリットスクリーン
同じ空間にいながら、疎外を感じているという表現については、①咲子 ②そのほかの友だち ③ケーキと3つの世界を切り離して撮影することで、その感覚を表しました。楽しく話をしているように見えるけど、実は話がかみ合っていない。その居場所がない咲子の気持ちを表しています。また、少し青みがかった色味にすることで、ケーキもおいしそうには見えないよう工夫しています。
③息苦しさを音で再現
音楽の阿部海太郎さんや音響担当のYさんとも話をして、霧やモヤがかかったような表現を、空気が真空の状態になるような音にするのはどうかというアイデアをいただきました。そのアイデアを活かして、周りの音が反響して、声が届かず、溺れて息苦しくなるように聞こえる表現を目指しました。
恋愛が分からないという表現以上に、「恋愛が分からないことがわかった」表現というのにもこだわっています。それを表すのが「色」です。
例えばですが、冒頭のシーン。 スーパーで、咲子は台に並べられた野菜に心惹かれています。さまざまな色が施された野菜、さらに、キャベツではなく「YR春風」と個別の名前が書かれたポップもある。
高橋が「名前があるならきちんと呼びたいだけ。僕も一緒くたに人類とか呼ばれたくない」と言っているように、この世界に存在するものは一色ではなく、多様であることの比喩です。しかし、咲子は心惹かれてはいますが、そのことに気づいてはいません。
さて、物語の中盤、咲子は「羽色キャベツのアロマ日記」というブログに出会います。このシーンで心掛けたのは、なるべく咲子の表情と言葉を同時にみせること。ふだん、言葉や情報に注目してほしいとき、ブログ部分のみをアップにするのが通例ですが、このドラマでは咲子の表情とブログの情報が並列するように配置し、一度にどちらも見られるようにしています。
そうすることで、咲子と一緒に「アロマアセク」という言葉に出会っていく臨場感をお客にも味わってもらいたいという思いからそうしました(ちなみに、ブログの中身は、助監督のYさんとWさんが、ネット上でたくさんリサーチをし、ありそうでないものを忠実に再現してくれています。感謝!)。
ブログを発見したその後、咲子に何が起こったかというと…! 咲子の目の前にカラフルな色をした人々が交錯して歩いていったかと思います。
さまざまな解釈があって良いのですが、制作者からのメッセージとしては、咲子がそのブログにのめり込んでいけばいくほど、自分は一人ではない。周りには多種多様な人がいるということに気づいていく様子を「色」で表しました。この「色」に気づいてから見ている人も、このドラマの背景がさまざまな「色」にあふれていることに気づいていくようになっているはずです。
ある人に教わりました。「表現とは自由である。」だからこそ、今回の表現は一つの選択ですし、制作者の意図とは違うメッセージを受け取った方も全部正解です。いろんな人がいるし、いろんな可能性がある。固定観念から離れて、自由になることもこのドラマのひとつのメッセージかもしれません。
ドラマでは、「恋愛感情抜きで家族になりませんか?」という咲子の問いを受けた高橋で終わりましたが、はたして二人はどうなっていくのか。第2回も見逃せません!ぜひ来週をお楽しみに!
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