元茶の間戦士の空想少年が「天てれ」のディレクターになって思うこと
…という荒唐無稽な話は、小学生だった僕の空想です。
20年前。
北海道苫小牧市に住む小学生の僕は、架空のスポーツ「ワイルドテニス」の選手になりきって誰もいない壁に向かって卓球のラケットを振り、汗をかいていました。
架空の試合を何試合も重ね、その試合結果をノートに書き連ねる日々。
気づけば、「ワイルドテニス」について、15年分の虚構の年表が仕上がっていました。
壁の前で繰り広げられる誰にも邪魔されない自分だけの世界。
空想をするなかで抱く楽しい気持ちは格別でした。
ただ、小学校高学年から中学生になるにつれて、“大人になっていく周囲”と自分とを見比べて、空想することを少し恥ずかしく思うようになりました。
靴やカバンは無難なものを選んで、学校やクラブ活動ではなるべく目立たないよう過ごしました。
それでも、学校からの帰り道では…
「もし横断歩道の白線が、コンクリートに埋まった豆腐だったら…」
「赤信号のピクトグラムが急に地上に飛び出してきたら…」
「目の前を通過するバスの“降りますボタン”が機械仕掛けのテントウ虫で次の停車駅で開くドアから一斉に飛び出したら…」
と、空想を楽しむことをやめられませんでした。
そんな僕の心を支えてくれたのが「天才てれびくん」でした。
「天てれ」は、小中学生の扮する「てれび戦士」が、異世界でさまざまなミッションに挑戦する子ども向け教育エンターテインメント番組です。
近未来を描いた架空のSF物語の主人公であり、なおかつ、僕と同じ時代を生きる生身の小中学生でもある「てれび戦士」。
空想とリアルを合わせ持つ子どもたちの姿に、空想少年の僕は自分を重ね、勝手に勇気づけられていました。
僕が見ていた「天才てれびくんMAX」の舞台は、宇宙船・ユゲデール王国。
てれび戦士たちが、騎士団と魔術師軍団の構成員として活躍したり、ドキュメンタリーコーナーで等身大の小中学生らしい姿を見せたりするのが大好きで、「茶の間戦士」として、毎日、放送を楽しんでいました。
…大変前置きが長くなりました。
現在、放送している「天才てれびくん」ディレクターの佐藤大輔と申します。年齢は31歳。
そう、空想少年だったあの僕が、20年の時を経て、いま「天てれ」の作り手の側に立っているのです。
この記事では、「天てれ」が30年も人々を引きつけるものは何なのか、空想少年からディレクターになった私の目線から、ひもといていきたいと思います。
”空想”は止められない!
さて、空想少年の”その後”です。
高校に進学した僕は、文化祭でオリジナル映画の脚本と監督を担当することになりました。
このとき、真っ先に思い浮かんだのが「天てれ」で味わった異世界の楽しさでした。
「あの世界観を、みんなと分かち合いたい!」
中学時代に比べ、ちょっぴり大人になっていた僕は、恥ずかしがることをやめ、蓋をしていた空想少年の自分を解放!クラスメイトといっしょに異世界モノの探偵映画を作り上げました。
迎えた上映日。
真っ暗闇の教室にエンドロールが流れると、一瞬静かになった後、ドッと大きな拍手が沸き起こりました。
あの感動は、今でも鮮明に覚えています。
大学に進学すると、今度はお笑いコンビを組んでコントを披露するようになります。
ライブでは、
「冬眠する寝床探しに不動産屋にやって来たクマ」
「学校生活で忙しい桃太郎の代わりに鬼退治に行くおじいさんとおばあさん」
「財布の中で恋をする千円札(野口英世)と五千円札(樋口一葉)」
など、さまざまな異世界に生きるキャラクターに扮しました。
笑ってほしいポイントと笑ってもらえたポイントを反省して次に生かす。
そんなことを繰り返しているうちに、空想力を独りよがりなものから不特定多数の人に届ける技術をじょじょに磨けているのではないかと思えるようになりました。
空想力を生かして、社会に貢献できないか。
そう考えて大学卒業後、就職先に選んだのが、「天てれ」を放送し続けていたNHKでした。
最初に配属された和歌山放送局では4年間、ニュース企画や紀行番組を担当しました。
さまざまな経験を重ねるなかで、ある日、上司から「天てれ」への異動が言い渡されました。
「ついに、培ってきた空想力を存分に発揮できる!」
あの日、「天てれ」を見ながら共感をしていた空想少年の”人生の伏線”が回収された瞬間でした。
”空想”に”リアリティー”を!
「天てれ」を担当して初めて分かったのですが、この番組の最大の勝負どころは2つ。
“てれび戦士がモチベーション高くチャレンジできるミッションを用意すること”
そして、
“ミッションに挑むてれび戦士の感情を現場でどれだけ引き出せるか”
です。
空想の世界だからこそ、そのリアリティーがものを言います。
ドキュメンタリーやミュージックビデオなど、さまざまなコーナーがあるなかで、僕が勝負の場に選んだのが、ドラマの演出でした。
「天てれ」のドラマでは、てれび戦士が自ら本人役を演じ、目の前に立ちはだかる壁を自分らしく乗り越えていきます。
さらに、その過程をCGやVFXを用いた壮大な世界観で描きます。
いわば、番組の看板コンテンツです。
脚本・美術・演技・撮影・CG効果・音響効果、そのすべてをディレクションするのがドラマの演出。
大きなプレッシャーが伴う反面、空想の世界をゼロから形作れること、そして、それをたくさんの子どもたちに届けられることに胸が高鳴りました。
そうして演出したのが、今年度放送した「てれび戦士・トアが、小さいころから憧れている戦隊ヒーローをバカにされて落ち込んでも、自分の個性を貫いて殻を破り自分自身がヒーローになる」物語です。
番組に込めたのは、自分の個性を誇りに思いながらも、その個性が原因で周囲になじめずに感じた不安な気持ち。
そして、そんな不安を抱えながらも“自分らしく生きようともがく日々こそが自分を成長させるために大切な意味を持っている”というメッセージです。
自分らしく個性を大事に生きたいと願う全国の茶の間戦士と、小中学生時代、孤独を抱えた空想少年だった自分へエールを送るような気持ちで作りました。
この回は、放送後、特に地域に暮らす子どもたちからの反響が大きく、イベントの際には、地元の小学生の男の子から「すごく面白かったです!」という言葉までもらうことができました。
…なんだか、あの頃の自分にメッセージが届いたような気がして、とてもうれしかったです。
ドラマの演出には、もう一つ、大きな仕事があります。
それは、番組全体の世界観に関わる設定やキャラクターを生み出す仕事です。
デザイナーや脚本家などさまざまな分野の専門性を持った大人が集まって、茶の間戦士にとって魅力的な世界とキャラクターを考えます。
昨年度、放送された電空物語の「タマ電Q」「てれび騎士」「電デビル」、ジオ物語の「ジオノコ」「テレゾンビ」などはこうした大人たちの議論の末に生まれました。
なかでも、今シーズンのドラマのカギを握る重要なキャラクター・モノコは、その役を選ぶために書類と対面でオーディションを行うなど力を入れました。
モノコは、地球の常識や人間の感情を知らないアンドロイドという設定。
オーディションでは、受験された方が、“常にまばたきをしない”、“感情は一切排除する”、“冷たく早口でしゃべる”といった演技が期待できるかを徹底的に見ました。
そして、スタッフ同士、意見を戦わせ、最終的に臼井愛理さんにモノコ役を担っていただくことになったのです。
ただ、演技だけでは、モノコがアンドロイドだというリアリティーが、十分に表現し切れません。
そこで、執事のモノオ役に、プロレスラーの上野勇希さんをキャスティング。
モノコがモノオに軽々と運ばれる描写を多用することで、“アンドロイドのモノコ”に説得力を持たせています。
こうした”空想”を積み重ねることで、茶の間戦士たちがワクワクできる”リアリティー”を持った世界観を追求しているのです。
「天てれ」の歴史を垣間見る
ディレクターとして充実した日々を送るなか、ある日、思いもよらない仕事が舞い込んできました。
「30周年を迎える『天てれ』を記念して、渋谷にあるNHKプラスクロスSHIBUYAで展示会が開かれる。その内容を考えてほしい」
というものでした。
思いもかけず、”「天てれ」30年の歴史”と向き合うことになったのです。
食い入るように見ていた『天才てれびくんMAX』についてはよく覚えていますが、正直、それより古いものや、社会人になりたてのころの内容はあまり知りません。
まずは、これまで放送されてきた番組のアーカイブスを調べることに。
すると、すぐに「天てれ」の歴史の深さを“数字”として実感することになりました。
「ワイド」や「MAX」など、番組タイトルの変更は8回。
MCは、現在のティモンディに至るまで、ダチョウ倶楽部、キャイ~ン、TIM、出川哲朗、みやぞんなど総勢14組。
てれび戦士に至っては、なんと総勢200名を超える方が出演していたのです。
そんな数字にも驚かされながら、アーカイブ映像を繰り返し見ていくと、あることに気づきました。
それは、「天てれ」が常に、番組を見る子どもたち(茶の間戦士)によって支えられてきた、ということです。
まだ家庭にインターネットもあまり普及していなかった30年前から、FAXや中継、対面のイベント、データ放送など、茶の間戦士たちは、あらゆる経路を尽くして、企画に参加してくれたり、応援の声を届けてくれていました。
それが今日まで「天てれ」が続く原動力になっていたと、制作者になったいま、とてもよく分かります。
番組を応援し続けてくれた茶の間戦士に何か恩返しはできないか。
そう考え、今回の展示では、
「30年分の感謝を30年分の茶の間戦士に伝える」
をコンセプトにすることにしました。
これを実現するには、30年分を完全に網羅した資料の調達が必要です。
スタッフ総出で、歴代のプロデューサーや出演者たちに資料や小道具の提供を呼びかけました。
その結果、集まった段ボールは、10箱以上!
そこには、『ジーンダイバーの絵コンテ』『アリス探偵局のセル画』『ドラムカンナの大冒険の設定資料』『超次元帝国清掃課天馬係長の衣装』など貴重な資料の数々が詰まっていました。
まるで宝箱を開いたかのような気分です!
来場するかつての茶の間戦士たちに、より楽しんでもらえるよう、歴代のオープニング映像やMTK(ミュージックビデオ選)なども作成。
いよいよ、開幕の日を迎えます。
時空を超えて、かつての茶の間戦士たちと対面
自信はあったものの、「本当に楽しんでもらえるんだろうか」とちょっとだけ不安を抱えながら迎えた展示会。
それでも、初日から多くの茶の間戦士が詰めかけてくれました。
ふたを開けてみれば、2か月という期間で延べ4万9549人もの茶の間戦士が来場。
『MTK』が放映された8Kの大型ビジョン、歴代MC・てれび戦士の名前と当時の出来事をまとめた大規模な年表、あの頃を思い出す貴重な衣装や小道具…。どの展示も大好評で、週末になると行列が出来て入場規制がかかる盛況ぶりでした。
「これ、オレが見てたころの!」
「なつかしー!」
「この戦士、好きだったんだよね!」
など、かつての茶の間戦士からあがる歓声。
僕と同じように「天てれ」の作る“空想の世界”にワクワクしていた子どもたちに、初めて対面して、何かを分かち合ったような、とてもうれしい気持ちになりました。
これからの「天てれ」 これからの私
展示会が終わり、私は再び現場へと戻りました。
あの日、目にした茶の間戦士たちの表情を思い浮かべながら、ロケ企画の制作や来年度に向けた世界観の開発に取り組んでいます。
現在放送している「天才てれびくん」のテーマは、
「ふみ出す1歩が、世界を変える」。
舞台は、自然豊かなジオワールド。
17人のてれび戦士が、ジオワールドの危機に立ち向かうべく、できないと思っていたことに挑戦する気持ちや色々な体験を通して気持ちが変化した時に放出される“エナジー”を求めてテレゾンビと戦います。
ドラマはもちろん、初めての体験を求めて全国の島へ行く「わくわく島留学」や、全国の困っている人を助けに行く「おたすけ戦隊テレセンジャー」など、企画は盛りだくさんです。
「ふみだす1歩」が自分を成長させるための“エナジー”になり、ゆくゆくは世界を変えることができる。
思い返してみれば、空想する自分を恥じていた私も、思い切って空想の世界に1歩踏み出したことによって、この仕事を始めることになり、さまざまな経験をすることができました。
そのことを、今度は、元空想少年のディレクターである私が、いまの子どもたちへと伝える番です。
てれび戦士の姿を通して、「どんな人生にも葛藤があるけれど、きっと乗り越えられる」ということを発信し、一人でも多くの子どもたちが自分の個性を良いものとして肯定できるよう、「天てれ」を作っていきたいと思います。
さて、最後にちょっとだけ、番組の案内をさせて下さい。
現在放送中の「天てれ」で、全国の茶の間戦士を夢中にさせているのが、「指プル2」です!
指先に強力な磁石をつけ、金属のコースに指を通して進むタイムレース。これまで成功したてれび戦士は誰もいない、極限の集中力と忍耐力が求められるモンスターコースです。
この「指プル2」の全国大会「指プル・ジオワールドカップ」を、11/25(土)に開かれる「スゴEフェス」内で開催!
※「スゴEフェス」の詳細はこちら👇
全国各地の茶の間戦士やEテレの特別ゲストを迎え、生放送でお送りします。
また、これに合わせて、11/20の週の「天てれ」は「指プルウィーク」に!
皆さん、是非ご覧ください!
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11/20(月)17:35~ 指プル・東日本予選大会
11/21(火)17:35~ 指プル・西日本予選大会
11/22(水)17:35~ 指プル・てれび戦士セカンドチャンス
11/25(土)16:15~ 天才てれびくんスペシャル・指プルジオワールドカップ
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